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沁月
Public
ウ教×ハ♀ 相思相愛 読み切り
声に出して、言の葉に乗せて
MHRウ教×ハ♀。相思相愛。
基本ハ♀視点、途中ウ視点あり。
不変なようで脆く儚い日常の中、自分の気持ちを伝えられる幸せ。
1
2
3
4
「
……
ッ
……
!?」
大好きなあなたの胸板に顔を埋めたまま、私は、はっと目を開く。
眠ってはいなかった気がするけど、何となく、
夢現
ゆめうつつ
の境界を、意識がふらふらと泳いでいた気がする。
泣いたせいでますます両目が腫れた感覚があり、鬱陶しい熱を帯びていて、けれどまだ、涙は流れ続けたままで。
「
……
ウツシ、教官
……
!」
返事はないと分かっているのに、私はあなたの胸板に顔を埋めたまま、また、名を呼んでしまった。
──どうしたんだい、愛弟子
大好きなあなたが私に笑いかけながら、そんな風に答えてくれた日々が、まるで遠い昔のよう。
穴だらけの心臓が、巨大な絶望の手に
鷲掴
わしづか
みにされたような感覚に包まれて、私は固く目を閉じる。
涙を止めようとした、その直後のこと。
「
……
ッ!?」
ふわりと頭に添えられた、優しい感覚。
どくん、と心臓が大きく高鳴って、ぞわりと鳥肌が立った。
私は反射的に目を見開き、撃たれたように顔を上げる。
目を開いた時、涙は一瞬で止まっていたから不思議なこともあるもので。
気が付いた時には、大好きなあなたの、大きな慈愛の手。
今は包帯だらけのその片手が、いつの間にか、ゆっくりと、何度も私の頭の上を優しく撫でて往復していた。
「──ッ、あ
……
!?」
頭を撫でられたまま、どくどくどく、と激しい鼓動を繰り返す心臓の音に急かされるように、私はあなたの顔を覗き込む。
「
……
泣か、ないで
……
。
……
愛、弟子
……
」
私の心臓が、また、どくん、と大きく震えた。
愛しい人の声がして、これは本当に現実でしょうか。
無意識のうちに、手が、全身が、震えていて。
腫れてしまって開くことさえ難しかったはずなのに、いつの間にか私はしっかり目を開けて、大好きなあなたを焼き付けるように見つめていた。
「
……
あ
……
! あ
……
あぅ
……
!?」
名前を呼びたいのに、頭が真っ白になって、心臓が焦げてしまったような気がする。
何をしているの。
伝えなくちゃ。
それで後悔したんでしょう。
そう思うのに、愚かな私は、心臓と同じくらいカタカタと体を震わせて、口をぱくぱくさせたまま、ろくに言葉を発することができなくて。
私が情けない姿を晒している間、大好きなあなたの手は私の頭を撫で続け、不意に申し訳なさそうに眉が下がった。
薄く開かれた
金色
こんじき
の瞳は、優しい三日月形を描く。
「
……
ごめん、ね。
……
遅く
……
なって
……
」
どこまでも、どこまでも、あなたは私を案じ、私を愛してくれている。
ごめんね、に対して、何がですか、と問うのは、きっと真の愚か者なのでしょうね。
「
……
あ
……
。
……
お、おか
……
えり、なさい
……
!」
嗚呼、そうだ、思い出した。
この言葉も私は、あなたにもっと伝えたかった。
あなたが私をいつも優しく迎えてくれるように、私も、あなたを『おかえりなさい』と温かく迎えたくて。
あなたはやっと、今度こそ、嬉しそうにとろりと瞳を細めてくれた。
「
……
ただ、いま
……
。
……
愛、弟子
……
」
夢のようだった。
思わず唇を噛んで、確認してしまったほどだ。
あなたからまた、ただいま、が聞ける。
あなたにまた、おかえりなさい、と言える。
そんな何でもない、普通のことが、こんなにも愛おしくて、かけがえのないことだったなんて。
私の視界が、急速に滲んでいく。
また、涙が溢れたからだ。
嫌だ、もっとあなたの顔が見たいのに。
「
……
泣かないで
……
笑って
……
愛弟子
……
。俺は
……
ここに、いるから
……
」
あなたの声はあまりにも深く、優しく、私の震える愚かな心を包み込んでくれた。
何度も何度も腕で涙を
拭
ぬぐ
ってから、私は、あなたに向けて必死に口角を上げる。
私もあなたに笑顔を見て欲しい。
あなたが生きていてくれて、あなたが傍にいてくれて、あなたに愛してもらえていて、こんなにも幸せだということを伝えたい。
気持ちを伝えるって、そう決めたから。
「
……
大、好き
……
! 愛してます
……
ウツシ、教官
……
!」
白糸
しらいと
のような涙の滝を流したまま、私は、あなたに笑いかける。
すると、あなたも、優しく笑ってくれた。
いつも見ていたはずの笑顔。
私がまた見たくてたまらなかった笑顔。
かけがえのない、大好きな笑顔。
「
……
俺も。
……
だぁいすき
……
愛してるよ、愛弟子
……
」
ぶるりと全身が、心が、震えた。
私はあなたの手に頭を撫でてもらったまま身を乗り出して、泣いたまま、そっと、あなたの唇に自分の唇を重ねる。
触れるだけのものにするはずだったけれど、我慢ができなくて、深くあなたに口付けてしまった。
少しかさついた、熱く柔らかい唇の感触。すっかり懐かしい、愛おしいあなたの味がする。
時間が止まった気がして、穴だらけだった私の心に、温かいものが満ちていった。
どちらからともなく唇を離して、やっと視線を絡ませ合うと、あなたは満身創痍で目覚めたばかりとは思えないほど、笑顔を蕩けさせていて。
「んふふ
……
素直で、嬉しい
……
! かぁわいい
……
」
寝声
ねごえ
のように囁いたあなたに、私は、思わず笑ってしまった。
涙は、いつの間にか止まっている。
「私
…
いっぱい、いっぱい
……
ウツシ教官に伝えたいことがあるんですよ?」
「そう、なの
……
? ふふふ
……
何だろう
……
」
「怪我を治したら、伝えますね。また一緒にお団子食べたり、おしゃべりしたり、狩猟したり、遊びに行ったりしてる時に
……
!」
「うーん
……
それなら、頑張って、早く怪我を治さなきゃなあ
……
」
そうですよ、と返しながら、私はやっと、心から笑えた。
大切な、大好きなあなたへ伝えたい気持ちは、あなたとの、かけがけのない日常と共にある。
だから、この気持ちは、日常の中で。
私は悪戯っぽく、あなたに笑いかける。
「大好きです
……
ウツシ教官。お願いですから、早く、良くなって下さいね」
「うん。キミのためにも、俺、頑張るよ!」
あなたは嬉しそうに笑って「よーし!」と意気込むような声をあげてくれた
ねえウツシ教官、私、やっと気づきました。
気持ちを伝えるって、こんなにも、こんなにも幸せなことだったんですね。
あなたは本当に凄い人、凄い教官。
私に、何でも教えてくれる。
日常の中で、気持ちを伝えられることの尊ささえも。
どうかこれからも、こんな風に、大好きなあなたに、伝えられますように。
色の失せかけていた世界に、茜色の眩しい輝きが満ちる。
私はその光の中で、あなたと一緒に、鮮やかな幸せの中で笑い合った。
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@acadine
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