声に出して、言の葉に乗せて

MHRウ教×ハ♀。相思相愛。
基本ハ♀視点、途中ウ視点あり。

不変なようで脆く儚い日常の中、自分の気持ちを伝えられる幸せ。



…………!?」

大好きなあなたの胸板に顔を埋めたまま、私は、はっと目を開く。

眠ってはいなかった気がするけど、何となく、夢現ゆめうつつの境界を、意識がふらふらと泳いでいた気がする。

泣いたせいでますます両目が腫れた感覚があり、鬱陶しい熱を帯びていて、けれどまだ、涙は流れ続けたままで。

……ウツシ、教官……!」

返事はないと分かっているのに、私はあなたの胸板に顔を埋めたまま、また、名を呼んでしまった。

──どうしたんだい、愛弟子

大好きなあなたが私に笑いかけながら、そんな風に答えてくれた日々が、まるで遠い昔のよう。

穴だらけの心臓が、巨大な絶望の手に鷲掴わしづかみにされたような感覚に包まれて、私は固く目を閉じる。

涙を止めようとした、その直後のこと。

……ッ!?」

ふわりと頭に添えられた、優しい感覚。

どくん、と心臓が大きく高鳴って、ぞわりと鳥肌が立った。

私は反射的に目を見開き、撃たれたように顔を上げる。

目を開いた時、涙は一瞬で止まっていたから不思議なこともあるもので。

気が付いた時には、大好きなあなたの、大きな慈愛の手。

今は包帯だらけのその片手が、いつの間にか、ゆっくりと、何度も私の頭の上を優しく撫でて往復していた。

「──ッ、あ……!?」

頭を撫でられたまま、どくどくどく、と激しい鼓動を繰り返す心臓の音に急かされるように、私はあなたの顔を覗き込む。

……泣か、ないで…………愛、弟子……

私の心臓が、また、どくん、と大きく震えた。

愛しい人の声がして、これは本当に現実でしょうか。

無意識のうちに、手が、全身が、震えていて。

腫れてしまって開くことさえ難しかったはずなのに、いつの間にか私はしっかり目を開けて、大好きなあなたを焼き付けるように見つめていた。

…………! あ……あぅ……!?」

名前を呼びたいのに、頭が真っ白になって、心臓が焦げてしまったような気がする。

何をしているの。
伝えなくちゃ。
それで後悔したんでしょう。

そう思うのに、愚かな私は、心臓と同じくらいカタカタと体を震わせて、口をぱくぱくさせたまま、ろくに言葉を発することができなくて。

私が情けない姿を晒している間、大好きなあなたの手は私の頭を撫で続け、不意に申し訳なさそうに眉が下がった。
薄く開かれた金色こんじきの瞳は、優しい三日月形を描く。

……ごめん、ね。……遅く……なって……

どこまでも、どこまでも、あなたは私を案じ、私を愛してくれている。

ごめんね、に対して、何がですか、と問うのは、きっと真の愚か者なのでしょうね。

………………お、おか……えり、なさい……!」

嗚呼、そうだ、思い出した。

この言葉も私は、あなたにもっと伝えたかった。
あなたが私をいつも優しく迎えてくれるように、私も、あなたを『おかえりなさい』と温かく迎えたくて。

あなたはやっと、今度こそ、嬉しそうにとろりと瞳を細めてくれた。

……ただ、いま…………愛、弟子……

夢のようだった。
思わず唇を噛んで、確認してしまったほどだ。

あなたからまた、ただいま、が聞ける。
あなたにまた、おかえりなさい、と言える。

そんな何でもない、普通のことが、こんなにも愛おしくて、かけがえのないことだったなんて。

私の視界が、急速に滲んでいく。

また、涙が溢れたからだ。
嫌だ、もっとあなたの顔が見たいのに。

……泣かないで……笑って……愛弟子……。俺は……ここに、いるから……

あなたの声はあまりにも深く、優しく、私の震える愚かな心を包み込んでくれた。

何度も何度も腕で涙をぬぐってから、私は、あなたに向けて必死に口角を上げる。

私もあなたに笑顔を見て欲しい。

あなたが生きていてくれて、あなたが傍にいてくれて、あなたに愛してもらえていて、こんなにも幸せだということを伝えたい。

気持ちを伝えるって、そう決めたから。

……大、好き……! 愛してます……ウツシ、教官……!」

白糸しらいとのような涙の滝を流したまま、私は、あなたに笑いかける。

すると、あなたも、優しく笑ってくれた。

いつも見ていたはずの笑顔。
私がまた見たくてたまらなかった笑顔。

かけがえのない、大好きな笑顔。

……俺も。……だぁいすき……愛してるよ、愛弟子……

ぶるりと全身が、心が、震えた。

私はあなたの手に頭を撫でてもらったまま身を乗り出して、泣いたまま、そっと、あなたの唇に自分の唇を重ねる。

触れるだけのものにするはずだったけれど、我慢ができなくて、深くあなたに口付けてしまった。

少しかさついた、熱く柔らかい唇の感触。すっかり懐かしい、愛おしいあなたの味がする。

時間が止まった気がして、穴だらけだった私の心に、温かいものが満ちていった。

どちらからともなく唇を離して、やっと視線を絡ませ合うと、あなたは満身創痍で目覚めたばかりとは思えないほど、笑顔を蕩けさせていて。

「んふふ……素直で、嬉しい……! かぁわいい……

寝声ねごえのように囁いたあなたに、私は、思わず笑ってしまった。
涙は、いつの間にか止まっている。

「私いっぱい、いっぱい……ウツシ教官に伝えたいことがあるんですよ?」
「そう、なの……? ふふふ……何だろう……
「怪我を治したら、伝えますね。また一緒にお団子食べたり、おしゃべりしたり、狩猟したり、遊びに行ったりしてる時に……!」
「うーん……それなら、頑張って、早く怪我を治さなきゃなあ……

そうですよ、と返しながら、私はやっと、心から笑えた。

大切な、大好きなあなたへ伝えたい気持ちは、あなたとの、かけがけのない日常と共にある。

だから、この気持ちは、日常の中で。

私は悪戯っぽく、あなたに笑いかける。

「大好きです……ウツシ教官。お願いですから、早く、良くなって下さいね」
「うん。キミのためにも、俺、頑張るよ!」

あなたは嬉しそうに笑って「よーし!」と意気込むような声をあげてくれた

ねえウツシ教官、私、やっと気づきました。

気持ちを伝えるって、こんなにも、こんなにも幸せなことだったんですね。

あなたは本当に凄い人、凄い教官。
私に、何でも教えてくれる。

日常の中で、気持ちを伝えられることの尊ささえも。

どうかこれからも、こんな風に、大好きなあなたに、伝えられますように。

色の失せかけていた世界に、茜色の眩しい輝きが満ちる。
私はその光の中で、あなたと一緒に、鮮やかな幸せの中で笑い合った。





@acadine