声に出して、言の葉に乗せて

MHRウ教×ハ♀。相思相愛。
基本ハ♀視点、途中ウ視点あり。

不変なようで脆く儚い日常の中、自分の気持ちを伝えられる幸せ。



夢の中で、あなたを見た。

私に背を向けて立っている、愛しいあなた。

『ウツシ教官!』

呼びかけても、あなたは振り向きもしない。駆け寄ろうとしても、私の体は動かなかった。

『なんで!? なんで……ッ! 教官! ウツシ教官ッ!』

いつものあなたなら、すぐに振り返って、大丈夫かい愛弟子、と駆け寄って来てくれるのに。

なのに、あなたは私に背を向けて立ったまま、闇が深くなっていって。

置いていかれるような気がして、私は必死に動こうとした。

全身から血の気が引いて冷たくなって、全力で動いているのに、体は言うことを聞かなくて。

『やだ! やだ、やだ!! 行かないで、待って!! 教官ッ!私を置いて行かないでッ!!』

喉が潰れるかと思うほど叫んでも、あなたはぴくりとも動かなくて。

怖くて、寂しくて、不安で、恐ろしくてたまらなくて。

そして、あなたの姿が闇に消えていってしまう直前に、目が覚める。

そんな悪夢を、三日前のあの時も。

そして、今も、見た。

「ウツシ教官ッ!!!」

名を叫んで、くように目を見開いた時、見えてきた景色は、見慣れた水車小屋の天井。

畳の上の布団も敷かず、装備を着けたまま、仰向けに倒れて眠っていた。

ごとん、ごとん、と規則的な水車の音の力で、ようやく意識が現実に戻って来た時、私の片手は、いつの間にか茜色の光に染まった天井に向けて、大好きなあなたを求めるように伸ばされていた。

………………

冷や汗か脂汗か、区別がつかないほど、私の顔はびっしょりと濡れて。

どく、どく、どく、と夢の余韻のように、心臓が震えながら悲鳴をあげるように高鳴っていた。

………………

ぽつりと呟いた私は力無く腕を畳に投げ出した。

頭も胸も痛くて、ぼんやりとする。

あなたに縋り付いたまま診療所で気を失い、目覚めた時、私は水車小屋にいた。

あなたが重体であることが夢ではないことを思い知り、そこでようやく泣けた。

それから私はずっと、こんな調子だ。

最初は、あなたも頑張っているのだから私もという気持ちで、頑張っていつも通り狩猟に行こうとしたけれど、やっぱりダメだった。

布団をあげて、装備を着けるのが精一杯で、あとは、ろくに食事もとれていない。

独りになりたくて、ルームサービスさんとオトモたちも無理矢理休暇を取らせたり、オトモ広場に追いやってしまった。

私を心配してくれていることは分かっているのに、でも、ひとりになりたいという我儘を通してしまった。

──狩りの基本は、食事と睡眠!!

そんなあなたの声が聞こえてくるようだった。
聞こえてくれば良いのにと思ったら、また苦しくなってしまう。

私を心配してヒノエさんやミノトさんがなかば無理矢理、ひとりになりたいという私の我儘を押し切って食事を作りに来てくれたりしたが、不思議なほど、食べ物も水も喉を通らなかった。
それでもお腹が空いたり喉が渇いた感覚はない。

目はすっかり腫れぼったくて、今はもう、目を開けているだけで精一杯。

今日は朝からずっと眠ってしまっていたようで、すっかり夕方になっているらしい。

何となくぼんやりと赤い気がする陽の光で判断しているだけで、時間の感覚はない。
明確な色の変化は分からない。

……。教官…………ウツシ教官……
 
屍のように呟いて、私はのそりと起き上がった。
巨大な穴が空いたままてついてしまった心を抱えて、体を引きずるように診療所に向かう。

会いたい。

会いたい、会いたい!
 
大好きなあなたに、会いたい。

外に出ると、赤いような気がしていた夕陽は、目障りなほど真っ白だった。

ああ、鬱陶しいな、目を開けているのがつらいのに。

道すがら、里の人に、どこか恐る恐る声をかけられたような気がしたけれど、あまり聞こえなくて、何も言葉を返せなかった。

違う。返さなかったんだ。

ああ、私は薄情だな。
本当に、ひどい人間。
みんな、私を心配してくれているのに。

私は馬鹿だ。
笑けてしまう、口角が上がりそうになった。

大好きな人に甘えて気持ちを伝えることさえおこたった、底抜けの愚か者だもの。

……ウツシ教官……!」

診療所に着くと、ちょうどゼンチ先生は居なかった。
構わず奥で眠るあなたの元へと向かう。

三日前と変わらず、静かに眠り続けるあなた。

変わっているのは包帯が綺麗になったことくらいでしょうか。
ゼンチ先生が巻き直してくれているのでしょう。

ふらふらとあなたの傍に寄って、私は、いつものようにあなたの胸板に縋り付く。

「教、官…………ねえ……ウツシ、教官……

あなたの心臓に、直接語りかける。

微かな脈動。
生きている。

嗚呼、良かった。

心が一瞬だけ軽くなって、また、すぐに地底の底まで墜ちていく。
絶望と後悔はあまりにも重くて、私から全ての力を奪った。

……ごめ、なさ……! ごめん、なさい……ウツシ、教官……!」

あなたの胸板に顔を押し付けて、私は必死に謝罪する。

私は、あなたに甘えきっていた。

私もあなたが大切なのに、大好きなのに、どうしてこの気持ちを自分から伝えることをしなかったのか。

照れたから? 恥ずかしかったから?

あなたが伝えてくれるものに応えていれば良いと思っていたから?

該当はどれか一つなんかではなくて、きっと、その全てだ。

あなたが好きで、好きで、溢れんばかりに大好きで、愛していて、だから照れて、言葉にして伝えるのが恥ずかしくなって。

そして何より、いつも強く優しいあなたに、甘えていたのだ。

あなたは誰にでも優しい。

里から少し離れた集落に住む、迷子の命たちを守るために、こうして傷ついてしまうほどに。

でもあなたは優しいだけじゃない、強かった。

傷付いても迷子の命たちを救い、そしてその迷子たちを、恐らくは集落を脅かしていたモンスターの群れをたったひとりで全て撃退し、血濡れの笑顔で迷子たちを連れて、集落への帰還まで果たしたそうだ。

そして、彼は満身創痍まんしんそういで里まで帰還し、門を通った太鼓橋の上で、気を失ってしまったと聞いた。

「や、だ…………いなくなっちゃ……いや……!」

いつも饒舌じょうぜつで賑やかなのに、今は無反応のまま、悲しいほどにとても静かなあなた。

そんなあなたの胸板から心臓に語りかけ続ける私の目頭が、また、ぼわんと熱を帯びていく。

……。す、き……! 」

私の双眸から、想いと共に溢れた涙が、ぽろぽろと零れ落ちる。

「大好き、大好き……! 愛してます、大好きです……! あなたが……誰よりも、好き……!!」

──もっと、言えば良かった。

甘えず、怖がらず、もっと早くから、もっと素直に、この気持ちをあなたに、たくさんたくさん伝えておけば良かった。

愛するあなたは、優しいから。

きっと拒絶なんてしない。私のこの言葉を喜んでくれる人なのに。

……大好き……大好きです……! あなたのこと……ずっと……ずっと……愛、して……!!」

もっと伝えておけば良かった。

どうして私は、絶望がなければ気付けないのでしょう。

あなたが元気で、笑ってくれている時に、もっともっと、気持ちを伝えられていたら。

……起きて…………起きてえ、ウツシ教官…………わらって……また……私を、呼んで……!」

私の目から溢れる涙が、じわりと、あなたの包帯に滲んで、きっとあなたの胸に染みている。

だめ、だめ、きっと傷があるのに。
またこんな愚かなことをして。

それでも私は、あなたの胸板に顔を埋めたまま、愛の言葉と涙を止められなかった。

時間が、止まったような、そんな気がした。

@acadine