声に出して、言の葉に乗せて

MHRウ教×ハ♀。相思相愛。
基本ハ♀視点、途中ウ視点あり。

不変なようで脆く儚い日常の中、自分の気持ちを伝えられる幸せ。

聞こえるのが当たり前の、大好きなあなたの声。
見えるのが当たり前の、眩しいあなたの笑顔。

愛するあなたは、いつも傍にいてくれると思っていた。

──おかえり! 愛弟子! お疲れ様!

あなたは、私にいつも想いを伝えてくれていた。

──愛弟子、大好きだよ! ずっと見守ってるからね!

いつも私を励まし、私の心を支えてくれていたあなたの声。
これからもずっと、あなたの隣で、聞かせてもらえると思っていた。

あなたが任務にった時、無事に帰って来て当然と、どうして思ってしまったのでしょう。

いつも通りに帰って来て、私に向けて当たり前のように『ただいま』と微笑んでくれると、どうして思ってしまったのでしょう。

それを思い知ったのは、三日前。

いつも通りに里に戻った私を迎えてくれたのは、あなたではなく、血相を変えたヒノエさんだった。

『すぐに診療所へお越し下さい! ウツシ教官がっ……!!』

その言葉を聞いた私は、弾け飛ぶように診療所に向かった。

心臓が冷たくなり、鼓動は凄まじい早さとなり、景色から色は消え、額から汗が滲んだ。

あなたに限って、そんなこと。

私はあなたの強さを誰よりも知っていた。でも、私は忘れていた。

──あなたは、強いけれど、誰よりも優しい……

『ウツシ教官ッ!!』

診療所に飛び込んだ私を迎えたのは里長にゴコク様、ハモンさん、ミノトさんにヨモギちゃん、カゲロウさんにイオリくん、ロンディーネさん……ワカナさんとセイハクくんやコミツちゃん、とにかく里中の人がいた。

あなたはみんなに愛されている。

あなたを案じて狭い診療所の土間にひしめき合っている里のみんなの憂いの表情が、その証。

正直、そんな景色は見たくなかった。

あなたに何かあったのだという不安が、紛れもない現実であるとして首に刃を突きつけられるような心地だった。 

その時の私にとって、不安そうな表情の里のみんなは、薄情で身勝手な言い方だけれど、私があなたに会うための障害でしかなくて。

里長が『まだよせ!』と止める怒声どせいに近い低声も遠く掠れて響き、私の行動を留めるには至らなかった。

里の人をかき分けて、奥に向かった。

あなたに、会いたかった

きっと大丈夫、と、その時の私はまだ、愚かにも我儘にも似た希望にすがり付いていた。

診療所の奥に行けば、少しだけ怪我をしたあなたが、バツが悪そうに笑って迎えてくれるのではないかと思っていた。

──愛弟子、心配をかけてごめんね?

そんな風に、いつもの様に私に笑ってくれると、星の光よりも微かな願いは、やはり、かなわなかった。

あなたは私に笑ってくれなかった。

私に、おかえり、と言ってくれなかった。

あなたは治療台の上で、仰向けに横たわっていた。

全身が包帯で巻かれ、その包帯は決して白くなく、あちこちから鮮血が滲んでいて。

……………………!?』

私の口から、声が、零れ落ちる。

ふらりと、目眩めまいがしそうになった。
体から力が抜けそうになった。

私の足元でゼンチ先生が『まだダメニャ!』と叫んでいたような気がしたけれど、私の体は止まらなかった。

だって、あなたに触れたかった。

あなたに起きて欲しかったんだもの。

起きて、また、笑ってほしくて。

今なら、そう、そんな暗い顔しちゃダメだよって言ってほしかった。
でも、傷だらけのあなたは、目を閉じたままで。

『う、あ……!? あ、ああ……っ!』
 
私はあなたの傍に寄って、包帯だらけのあなたの体に、膝から崩れ落ちるように縋り付いた。

『──い、や。……いやああああああッ!!』

心がずたずたに、徹底的にえぐり取られていくようだった。

体に力が入らなくて、呼吸も苦しくて、脳と胸が焼けるように熱かった。
涙が全く出ないのが不思議だった。

ずっと、ずっと、あなたが元気でいてくれる。

それが当たり前だと、いつから思ってしまったのでしょうか。

どくん、どくん、どくん、と私の心臓の音ばかりが喧しくて、灼熱よりも熱くて、耳障りで、でも止まらなかった。

私は底なしの愚か者。

ハンターという命を賭した生業なりわいに身を置く者でありながら、強さに胡座あぐらをかいて、自然と命の摂理の厳しさを忘れていた。

そして、あなたへの感謝も、麻痺していた。

あなたはどんな時も私を想ってくれていたから。

いつからだったのでしょう、あなたが伝えてくれることに甘えてしまうようになったのは。

あなたはとても優しくて賢い人だから『もしかしたら』ということが現実には有り得て、こうなるかもしれないことが、分かっていたのでしょうか。

だから、私にたくさん伝えてくれていた?

今の私のように、相手のことを大好きな気持ちを伝えられなくて、心臓から全身が引き裂かれそうなほど悔いることがないように。

……ウツシ……教官……!』

尋ねたくて、あなたの逞しい胸板で名を呼んでも、あなたは答えてくれなかった。

くすぐったいよ愛弟子、なんて声は、聞こえない。

今のあなたからは、弱々しい心音と、あまりにも微かな呼吸の音しか聞こえない。

私を止める人は誰もいなかった。

私から涙さえ奪った衝撃と絶望は、いつしか、私から意識を奪い去っていった。

@acadine