浮き流し
2024-09-20 17:32:24
7918文字
Public イチ松
 

イチ松のお題より

ワン(1時間)で収まってないですが、ゆるゆる参加したもの
↓お借りしたお題たち

9月のお題
・体育祭(1P)  ・秋桜(2P)
10月のお題
・文化祭 &いたずら(3P)
11月のお題
・赤(4P)




お借りしたもの「赤」
成立済 通学路でのお話

●ポケットの温もり

 息が白くなるには暖かい。まだ早いかもと思いながら、オレは薄手のダウンを取り出して学校へと向かう。

 するとその途中で見慣れた坊主頭を見つける。前を歩くそいつは長い手を前で折り畳み、大きい体を縮こまらせている。
「おはよう。上着どうしたの」
「いや、ちょっと」
 答える松本の声はぎこちない。
 今朝テレビの天気予報士は、季節外れの暖かさが一転して平年以下に冷え込むと言っていた。そんな中松本はいつもと変わらぬ姿だ。当然、寒さで顔面がかじかむだろう。
「上着、着なかったんだ?」
「別に、耐えられないことはない」
 オレの疑問にそう答えるものの、見下ろす顔は赤く塗られている。その赤は運動してる時とは違い、シュガーパウダーをまぶしたみたいに薄く白みがかっている。
 本人の意志に反し冷えてますと主張する松本の姿に可笑しさがこみあげる。
「そこ我慢するんだ」
「着膨れするのかっこ悪いだろ」
「えっオレはかっこ悪い?」
「お前は別」
「顔、しっかり赤いけど」
「ダサいよりいいだろ」
 逆にちょっとカッコ悪くなってることを指摘してみても毅然とした態度が返ってくる。
 どうやら上着を着ないこだわりは強いらしい。
「じゃあヒートテックとかは?」
 女子はヒートテックやカイロを利用して薄着を維持していると聞く。
「親に持たされたけど着てない」
「親御さん可哀想」
「なんだよ。学校はすぐそこで着いたら部活だし教室入ると暑くなるからいいんだよ」
「まあそれは分かるけど」
 ただそう言いながらも松本は、組んだ腕をさすったり手を脇に挟んだりして暖を取ろうとしている。その上たまに吹く風に身を竦ませるものだから、見てるこっちが寒くなる。

 だから悪戯心と一緒にある考えが浮かぶ。

「ならこれはどう?」
 松本の手を拝借してオレのコートへと連行する。
「わっ、暖かい……
 松本が染み入るように呟くから、思わずオレの顔が綻ぶ。
「でしょ?」
 そうは言ってもポケットにカイロを入れてるわけじゃないからオレはそんな暖かくない。むしろ松本の手が氷のようで、たちまち熱が奪われる。
 相当寒いんじゃん。

「松本も暖かい上着着てこれば?」
 いいことあるかもよ。
 そう言いながら、ただ手の甲に重ねているだけの手を狭いポケットの中で動かす。松本の指の間に自分の指を割り入れ絡めさせると、松本の体が驚きで跳ねる。
「お前のコートのポケットでこっそり手繋げると思うけど」
 松本は意図を理解すると周囲を見回す。その顔はさっきよりも健康的な赤味を帯びている。
「おいっ、人に見られる……
 慌てて諌めるもののその手はオレのポケットに入ったままだ。松本は気づいてないかもしれないけど、嫌ではないらしい。オレはそれに気付いて小さく笑みを浮かべる。
 それに時間はまだ早いから他の生徒にもあまり出会わない。出会うとしても同じく朝練の部員ぐらいだ。
 ……いや、意外と多いかもな。
 浮かんだ現実的な懸念を頭から追い出すと、松本の目を見つめて眉を下げてみせる。
「いや?」
 すると頭上からうっ……と詰まったような声が漏れる。ついでに視線が彷徨い繋ぐ手が落ち着きを欠く。
しかしあまり躊躇うことなく答えが返ってくる。
……っ、せめて、休みの日で……!」
 僅かに俯く松本は本日最高潮の鮮やかさだ。
 そして緊張からか決意の表れなのか、松本はオレの手を強く握る。その力強さに痛いなぁと思いながらオレもしっかりと握り返す。
「うん、期待してる」
 繋いだ手は暖かいには程遠いものの、確かに温もりが移っている。