浮き流し
2024-09-20 17:32:24
7918文字
Public イチ松
 

イチ松のお題より

ワン(1時間)で収まってないですが、ゆるゆる参加したもの
↓お借りしたお題たち

9月のお題
・体育祭(1P)  ・秋桜(2P)
10月のお題
・文化祭 &いたずら(3P)
11月のお題
・赤(4P)



お借りしたもの 「文化祭」「いたずら」
成立済み。嫉妬する松本のキスマーク
※松優位な話です

●いたずらしちゃうぞ

 文化祭は当日含め3日間、部活がなくなる。ありがたいことに、一之倉のクラスはみんなやる気十分だ。
寮で松本と話した時、機械科では仮装をすると言っていた。内容は当日まで秘密とのことだが、松本はメイクをしてもらうと喜んでいた。
 慌てて平常心を装ったものの、一之倉の頭にはメイクをしそうな女子が思い浮かぶ。あいつらが松本にベタベタ触るのか。内心は夕飯と同じでグツグツだった。


 文化祭当日。お昼を過ぎた後、一之倉は3階ホールへ向かっていた。松本のクラスは、そこでお化け屋敷をしているらしい。午前中は見に行かなかったものの、とても怖いと評判だ。

 ホールに近付くと、一際背の高い西洋の怪物達が廊下にいる。奥の河田はフランケンシュタイン、隣にミイラ男、声からするに手前の後ろ姿は松本か。一之倉に気付いた河田が手を挙げる。
「入ってくか?」
「いや、めっちゃ似合ってる。松本は?」
 一之倉が呼ぶ前に、黒いマントの坊主が振り返る。そわそわしていたのが分かったのか、真っ赤な唇が弧を描いている。
「吸血鬼だ」
 松本は黒いタキシードに白いシャツ、襟が赤く体がすっぽり隠れる黒いマントを着ている。そしてその顔はいつにも増して青白い。というより、元の肌色が分からない程だ。
「すごい、気合い入ってる」
「だろ?」
「見てみろ、こんなだべ」
 河田が肩を捲る。袖で隠れていたところまでしっかりと緑が塗られている。隣のミイラ男も口らしき場所を動かす。
「オレなんてこれマジで布ぐるぐるだぜ」
「やば」
 一之倉が感心していると、松本がちょっとイチノと出てくるとホールを離れる。廊下を少し歩くと、松本が一之倉を空き教室へ引っ張る。

「イチノ、トリックオアトリート」
「え?」
 教室に入るなり告げられた呪文に、一之倉は不意を突かれる。
「お菓子をくれなきゃいたずらするぞ。お菓子はあるか?」
「いや、ないけど……
 オレが持ち歩かないの知ってるだろ。反論する前に松本の手が伸びる。
「そうか。なら手貸してくれ」
 松本は一之倉の腕を掴むと、勝手に袖を捲る。肌を露出させると皮膚の薄いところに口付ける。柔らかさが離れた後、一之倉の腕には赤い唇の形が残る。
「え、なにすんの」
「いたずら。来週ハロウィンなんだろ、女子が言ってた」
 化粧のせいか、悪戯に笑う松本の顔に赤味は見えない。松本は、んっと声を漏らしながら何度も唇を押し当てる。そのため、左腕は体育でバレーの後のように赤く色付く。
「ちょっと!」
 一之倉が赤くなったところを擦ってみるも、わずかに滲んだぐらいだ。
「なにしてくれんの」
「部活ないからいいだろ」
「いや、暑いから腕捲るんだけど」
 オレフライドポテトって言っただろ。一之倉が苛立ちを露わにすると、途端に焦りだす。
「ごめん、クレンジングじゃないと落ちないって……。オレちょっと借りて来る」

 松本を待つ間、一之倉が石鹸で擦ってみるもののあまり効果はなかった。戻って来た松本を掴むと、洗い流すよりも先に意図を問い質す。するとバツが悪そうなものの、尖った口の松本が白状する。
……イチノはオレのだって主張したかった」
「なんで」
「イチノ、この2日間ずっと女子と仲良くしてただろ。髪がふわふわした可愛いらしい子」
 仲良さそうだから、気が気じゃなかった。松本の言葉に、一之倉は1人の女子を思い浮かべる。同じクラスにはヤンキーみたいな子が多いから、珍しいタイプだと思う。
「ああ、松本の好きそうな子?あれは同じグループの子。担当が同じなら話もするだろ」
 松本はイマイチ腑に落ちないようだ。しかし、一之倉にも言いたいことがある。
「それなら松本だって。メイクすごいしっかりしてるし、その顔ずっと触らせてたんだろ?」
 松本のクラスにメイクの派手な女子は複数人いる。河田や他の男子も同じだと理性が牽制するが、松本に触れていたという事実に変わりはない。
「オレのは演劇部の男子だ。特殊メイクとかが得意なんだと」
……ああ、だからその出来」
 クオリティに一応は納得はする。表情の険しいままの一之倉に、内1人は後輩女子に片想い中といういらない情報も教えてくれる。
「ならオレも教えてあげる。松本の言ってる子、松本が好きなんだって。狙いはオレじゃない」
 かっこいい好き付き合いたいって言ってるの、よく聞くよ。一之倉の補足に、ただの独りよがりと知った松本はさらに悄気返る。
……こんな時じゃないとキスマークは付けれないだろ。だから、気が急いた」
 ごめん。
 俯いたままの松本に、一之倉がため息を吐く。
「やるならせめて2日前にしてほしかったな。折角部活なかったのに」
 もったいない。一之倉が溢すと、松本は首を傾げ眉をひそめる。
「なに言ってるんだ?口紅ないと赤くならないだろ?」
 だから今日付けたんだ。松本の真っ直ぐな言葉に、一之倉は目を見開く。
 赤い唇にキスをしてからそうだねと同意するのと、唇だけで赤い跡を付けるの、どっちがいいだろう。

 いずれにせよ、松本が食べ物を持っていないのは確認済みだ。湧き上がる衝動に、声が震えないよう気を付ける。
……じゃあ、オレからもいい?松本、トリックオアトリート」