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井見
2023-12-29 22:06:05
33915文字
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真Ⅲ二次
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【再録】明くる日のベルスーズ
縦書きリーダー用です。
2022年の終わりに発行した真Ⅲマニクロ同人誌の再録です。
1
2
3
4
5
たったひとつ
長い夢を見ていた。
仮面のような顔が視界いっぱいに映る。床の冷たさが、少し遅れて背中に広がる。
『ようやく起きた!』
長い髪がふよふよと揺れながら、僕の体を撫でた。
「ピクシー
……
」
また言ってしまった。彼女はとっくのとうにピクシーではないのに、僕は何度もそう呼んでしまう。今は確か、クイーンメイブという悪魔だ。彼女は二度も姿を変えたけれど、ピクシーと呼ばれることを嫌ってはいなかった。この姿からは表情が分かりにくくなってしまったが、彼女の身振り手振りが何を思っているのか伝えてくれる。彼女はきっと微笑んでいた。
「僕は
……
」
『また急に倒れたのよ。もう、やるなら先にあたしたちに教えてよね』
何を、と聞こうとして、首の後ろに噛みつかれるような痛みに気づいた。痛みはじわりと広がって、頭に、脳に染み込んでいく。今さら思い出したみたいに、黒い呪いが体の中を巡りはじめた。遅れて、意識を失う直前のことを思い出した。飲み込んだマガタマが暴れようとするのを、僕はそのまま好きにさせてやったのだ。
僕は焦っていた。
どうすればいいか、未だにわかっていなかった。体だけがどんどん強くなっていた。
言われた通りにヤヒロノヒモロギを神殿へ捧げた。カグツチから塔が伸びた。みんながそこへ行った。僕は取り残された。どこへ行けばいいかわからなかった。塔を上ったところでどうする? 世界を創るのか? 世界を壊すのか?
そこに至るまでにどんなことがあり、どんなことをしたにせよ、千晶も勇の自分の望む世界を創りに行った。氷川なんて最初からそのために動いてきたのだ。ヒジリも何かを見出していたし、先生も何かを感じていた。
それなのに僕だけはまだ何もわかっていない。次の世界を考えられるほど器用じゃないし、誰かの手もとっくに取り損ねていた。
僕はまた、わからないまま追いかけるしかなかった。置いていかれるのは嫌だった。
先へ進むにはもっと強さが必要で。
襲いかかってくる悪魔も天使も何もかもが邪魔で。
蠢くマガタマが力を吐き出すわずかな可能性にだって賭けてもよかった。そして僕は賭けに負けた。僕はいつも運が悪かった。
こうなったらもうどんな魔法も意味がない。僕の全身に巡る呪いは、僕の意識すら奪う。戦うことすらままならない。さらに先へ行くには、泉の女に呪いを解いてもらう必要がある。
はやく行かなければ。
体を起こそうとしたが、あまりにも重い。自分の体じゃなくなったのかもしれなかった。四苦八苦していると、両腕を彼女が引っ張ってくれた。僕の体には傷一つない。きっと彼女が治してくれたのだろう。
ようやく上体を起こすと、僕らは二人きりなことに気づいた。
僕たちがいるのは、薄暗い小部屋だった。中央に小さいドラム缶みたいな物体
——
——
ターミナルが詰められている。これに触れると、最寄りのもっと大きいターミナルの場所へ飛ばされる。悪魔たちの取り決めなのか、あるいは何か近寄り難い気配でもあるのか、ターミナルのある場所には不思議と敵は現れなかった。僕が気を失うと、仲魔たちはここへ連れてきてくれる。今回もそうらしかった。
彼女は僕の動きが鈍いことに痺れを切らしたのか、突然僕の腕の下に両腕を差し込むと、僕の体を持ち上げた。ふわっと体が地面から浮いて、僕は人形みたいに体をふらふらさせるしかなかった。
『こうできるのは、この体のいいところね』
ターミナルの目の前で、僕の体はゆっくりと下ろされた。
「ありがとう」
彼女はその場でくるりと一回転をする。
鉛のように重い腕を動かして、小さいターミナルの表面に指先で触れた。鳥肌が立ちそうなほどに冷たい。
道を引き返すことになるが仕方がない。上った塔の数百階分を後戻り、あの大きなターミナルのある部屋まで帰ろう。
目的地を思い浮かべると、体がふわりと吸い込まれる。そしてぐにゃりと世界が歪む。この感覚は、もう何度も知っているものだ。
それなのに僕はたまらなくなって、思わず目を閉じた。
全然知らない場所に飛ばされてしまった、と思った。
初めてのことではなかったから、そこまで焦りはしなかった。
ここはどこだろう。
薄暗さだけはターミナルのある部屋と似ているが、あの部屋よりもとても狭い。体にはさらさらとした何かが触れている。視界にはどこかの天井が映っている。四角い何かが張り付いている。
僕は息を吐いた。
やっと感覚が追いついた。
天井についている四角いものは、僕の部屋の電灯だ。今はスイッチを切られていて、代わりにブラインドの隙間から差し込む光が、うっすらと部屋に満ちている。それだけだ。
顔に滲んでいた汗を拭った。頬を引っ張って、目覚めていることを確かめた。
あれは夢じゃなかった。記憶だ。
まだ僕の心のいくらかは、あの世界に取り残されている。
たぶんライドウと会ってしまったのが行けなかった。あの顔を見たから余計に思い出した。体中に刺青が描かれて、何故かその縁がぼんやりと光っていて、うなじには変な角が生えていて、こんな風に仰向けに寝転べない体。僕は誰よりあの体を使うのが上手くなっていた。
はっきりと思い出すだけ思い出させて、ライドウ本人はさっさと帰ってしまうのだから、冷たい奴だ。思い出ごと全部連れて行ってくれればよかったのに。
それでも、嫌な気持ちはしなかった。
会えてよかったと思った。安心した。別れが言えてよかった。嬉しかった。
気づかないだけで、やり残したこと、やれなかったことが、僕にはたくさんあったんだ。そう思えた。
僕はいつも気づくのが遅い。
*
ピンポーン。
チャイムが鳴って、僕は飛び起きた。完全に気が抜けていた。
家には僕以外誰もいない。宅配だろうか、ドアの覗き窓を覗くと、向こうにいるのは業者の人ではなかった。
そうっとドアノブに手を伸ばすと、もう一度チャイムが鳴り響いた。
ゆっくりと開く。扉の隙間から、僕と同じくらいの高さの目線が、僕をしっかりと捉えた。
「あれ、わりと元気そう」
僕の友人は、よう、と軽く手を振った。
「勇
……
」
来るとは思っていなかった。彼は今朝見た制服姿のままで、学校からそのまま来たのだろう。時間を確かめていなかったが、勇の背からは確かに夕日が見えた。
「なんで家に?」
「おいおい、オレは学校早退したオマエのために、わざわざ色々持って帰ってきてやったんだぜ」
「勇様に感謝しろ」と彼の鞄の中から渡されたのは、確かに僕のノートや今日の日付のプリント類だった。
礼を言いつつ素直に受け取ると、勇はじっと僕を見つめる。
「
……
オマエさぁ、またオレの送ったメール見てないだろ」
メール。確かに読んだ気はする。でもすぐには思い出せなくて、僕は首を傾げた。
「はー、まあそんなとこだろうと思ったよ。
数学のノート。昨日貸してくれって言ったままだろ?」
ああ、そういえば。すっかり忘れていた。学校を休んだりしたら、ノートを貸してもらいに見舞いに行くとかなんとか。
「冗談で書いたつもりだったんだけど、半分実現するとはねぇ」
「今朝までは覚えてた。渡すのは
……
忘れたけど」
「もう少し覚えててほしかったね。まあオレもオマエが早退するまで忘れてたんだけど」
じゃあノートを取ってくるよ、と言えばきっとそれで終わりだった。
でも僕は、「入れよ」と勇を招いた。
今は誰かと話がしたかった。
勇が部屋に入るのは、初めてのことじゃない。これまでもたびたび部屋に招いていた。というより、勇が部屋に来たがった。自分の家にいるのがあまり好きじゃないらしい。家族がずっと家にいるから、少しうるさいんだとか言っていた。
僕たちは心底気が合うわけでも、昔からの付き合いなわけでもない。たまたま、今年クラスが一緒になっただけの友達だ。それでもこうして勇が僕の部屋にいることは、もう見慣れた光景になるのだから、慣れるということはずいぶん早い。
勇は荷物を床へ適当に置くと、僕のベッドに遠慮なく座った。
「てかさあ、オマエ体調はもういいの?」
鞄から数学のノートを探す僕に、勇は声を放り投げる。
「ああ。たぶん睡眠不足だ」
「やっぱりなー。変な本読みすぎなんだよ」
勇が何を見ているのかはわかった。僕の本棚だ。収められている本は僕のものより親のものの方が多いのだが、そうとは知らない人から見ると、趣味がめちゃくちゃな人の本棚になっていた。勇には何度か説明しているのだが、彼は僕がこの本棚を制覇しているに違いないと勝手に信じていた。まあ、正解ではあった。
目当ての数学のノートを手渡すと、勇は「サンキュー」と顔を綻ばせる。しかし勇はそれを膝の上に置いて、ぼんやりと話し始めた。
「そうだ、オマエが帰った後、面白いことがあってさぁ。
終礼終わってオマエの家寄って帰ろーって立ったら、女子たちがオレをブロックして。 なんかオレやったかなー?って思ったら、アイツら『なんで昨日掃除をしなかったんだ』って怒ってきたんだよ、笑えるだろ? いやなんでオレに言うんだよ知らねえよ、って言ったら余計に怒り出すし。ありゃさすがに参ったね」
「そうなのか。悪いことしたな」
「なんでそうなるかなぁ。サボったアイツらのせいだろ。
……
っていうかそこはどうでもよくて。さっさと逃げて終わりにするつもりだったんだけど、そこで終わらなかったんだよ。なんと千晶が会話に入ってきた!」
「あー
……
」
「な。たぶんオマエの想像通りのことが起こった。千晶は言うだけ言って帰ってくし、教室の空気は冷え切って解散。まあ、おかげでオレはさっさと解放されたんだけど」
「ごめん
……
」
「いやぁ、逆にオマエがいなくて良かったかも。いたらきっと、クラスの真ん中で千晶に右手、女子たちに左手掴まれて二つに引き裂かれてたよ」
その様子を想像する。人数比では明らかに千晶の方が少ないのに、僕の体は綺麗に真ん中で裂けている。
「千晶にも謝らないとな
……
」
「謝ったらオマエにも怒り始めそうだけどな」
「じゃあ何を言ったらいい」
「
……
よくやった! とか?」
「うーん
……
」
どんな言葉も逆効果な気がする。次に会う時、口から出る言葉が少しでも千晶にとってましなものであることを願うしかなさそうだった。
「でも、どうして千晶が怒るんだろう」
「オマエの名前が出てきたからじゃない? どう見てもオレへの助け舟とかじゃなかったし。あいつ、オマエにはちょっと甘いもんな」
「そうかな」
「この前だって、オマエが遅刻したって時は、あいつ大人しく待ってただろ? 結局三十分くらいだったっけ。快挙だよ快挙。もし遅刻したのがオレだったらきっと五分も待ってないぜ」
この前というのは、先生へのお見舞いの日を指している。
前の世界では僕の遅刻に呆れた二人は先に行ってしまった。でもこの世界では勇が部屋まで来ていて、千晶は僕たちを待ってくれていた。
「勇が来てなかったら、多分もっと遅刻してたよ。二人で病院に行ってたんじゃないかな」
「まあ千晶も一人でさっさとお見舞い行くほど薄情ってわけじゃなかったってことかな。
でもほんと、ちょうど良かったよな。オレが来るまで寝てるとか
……
普段遅刻とかしないくせに、逆にタイミングいいからすごいわ」
「
……
どういうこと?」
そういえば、お見舞いの日、なぜ勇は部屋に来ていたのだろう。
僕には、自分のベッドの上で目覚めるまでのこの世界の記憶は無い。
「どういうことって
……
オマエが言ったんだろ、変な服着ないように一応一緒に選んでくれって。自信ないからってさ。
で、わざわざオレが来てやったら、当のオマエは昼寝してるし。起きてもなんかぼんやりしてるし。結局最初から着てたのとおんなじ服になったし。何、オレ起こしにきただけ? って思ったわ」
勇は大きなため息をついた。こんなところで嘘をつく必要はない、だから本当のことなのだろう。でも僕には全く覚えがなかった。
「
……
僕が呼んだんだっけ」
「忘れたのかよ。突然前日にメール寄越してきただろ? オマエからのメールって時点でめずらしいから、こっちはびっくりしたんだぜ」
携帯を見つけて、送信ボックスを開いた。受胎前の記憶と同じ送信履歴が並ぶ中、確かに一番上に知らないメールが紛れ込んでいた。
送信者は確かに僕だった。短く、待ち合わせ場所に来る前に寄ってほしいという内容が書いてある。僕が打つなら確かにこんな文だ。
「あ、そうそうこれこれ」
勇はずいっと顔を寄せて、僕の携帯の画面を覗き込む。
「服がどうとかオマエが言うなんて、おかしいと思ったんだよな。
ったく、このオレを目覚ましにするとは
……
普通逆だろ」
勇の冗談は、割と的を射るのかもしれない。
お見舞いの日の待ち合わせ。受胎前の世界では、なんだかすごく眠くて、家を出るまで昼寝をしようと思った。そして普段はしないはずの寝坊をした。ようやく僕が待ち合わせ場所の公園に着いた時、二人は先に病院に向かっていた。
しかし新しい世界では、待ち合わせ場所で会うことができた。
勇が来ていたから、起こることが変わったのだ。
逆か。変わったから、勇が来た。
そうしたのは、他でもない僕だ。僕のメールが勇を呼んでいた。
思えば、本来あったはずの代々木公園の封鎖もこの世界では無くなっていた。
もし封鎖があれば、そもそも公園に入れなかったかもしれない。あるいは居心地が悪くて、さっさとどこかへ行ってしまっていたかも。
受胎前の世界からこの世界へのわずかな変化は、いやに整えられている。まるで、あの日のためだけに。
──僕は、携帯を握りしめていた。
息を大きく吸って、ゆっくりと吐いた。
この世界だって、あの世界と同じように、一息に滅んで、みんな死んでしまうかもしれない。同じような世界がまた生み出されて、同じように繰り返すだけなのかもしれない。
代わり映えしない世界。
こんな世界が再び創られたところで、意味が無いのかもしれない。
でもせめて意味を見出すなら、たった一つ。
「
……
そんなこと、か
……
」
この世界は、やっぱり僕が創ったんだ。
だから僕は、あの場所で、二人に会えたんだ。
置いていかれたくなかった。置いていかれたのが悲しかった。
それがずっと心に残っていた。
たぶん、それだけのことだった。
「何が?」
勇は、きょとんとしていた。当然の反応だ。
僕は、何でもないと笑う。ふうん、と勇は答えて、ばたりとベッドに倒れた。
携帯の画面を見つめる。勇に送ったというメールは、僕の願った証だった。
ボタンを押すと、カチカチと音が鳴った。程なくして勇の携帯が鳴る。
「誰だ
……
ってオマエか。しかもこれ今見てたやつだし。何?」
「送りたくて」
自分の手で送り直したかった。記憶はなくても、僕の言葉だった。僕の意志だった。
「もう一度、やり直したい」
「何を?」
「待ち合わせを。そのメールも。
今度は、遅刻しないからさ」
勇は首を傾げた。
*
休日の代々木公園は、人で賑わっている。
公園に散歩へ来ている人もいれば、公園のどこかで開催されているイベントを目的に来る人もいる。また僕たちのように、誰かとの待ち合わせに利用する人もいる。
時刻は、待ち合わせ時刻の十五分前だ。
本当はいつもこれくらいの時間に来る。だからようやくいつも通りだった。
「意外と千晶って来るの遅いんだな」
「まだ時間は全然あるけどな」
「オレらならどうせ遅刻するだろって思われてんのかね? 心外だわー」
勇はそう言って、お気に入りのキャスケットの鍔に触れる。
待ち合わせがしたい、と僕が言った。もちろん三人で、この場所で。
もう一度ここで会いたかった。それが僕のやり残したことだった。
そのためだけに、この世界があった。そう僕は納得した。どんな意味があっても無くても構わない。
確かに、難しく考える必要はなかった。
「つーかオマエさあ、その服寒くないの? いや、勧めたオレもオレだけど」
「今日は天気が良いし、ちょうど良いよ」
「それならいいけど」
黒と白に濃い青紫色のラインの入ったジャケットは割と気に入っていた。勇の言うとおり、気温は少し低いが、皮は風を通さないのであまり寒くない。しかも雲ひとつない空から降り注ぐ日光がしっかり吸収されるから、むしろ暖かいくらいだった。
服を選ぶとは言っても、下半身は前と全く同じ格好だ。半ズボンに、同じ靴。色々考えても、結局これが落ち着くという結論になった。
履き古したはずのスニーカーに砂は入っていない。泥も血も付いていない。
「靴紐、ちょっと緩んでるぞ」
「ほんとだ」
指摘され、しっかりと結び直す。立ち上がろうとすると、ちょうど名前を呼ばれた。千晶の声だった。
「なんだ、二人とも早かったのね。それならわたしももっと早くくればよかった」
小走りで近寄ってくる。僕たちはそれを迎える。
あの時とは逆だな、と思った。でも千晶が大きく片手を振っているのは同じだった。
「こいつが急かしたんだよ。遅刻のリベンジ?」
「そんなところかな」
「えらいわね。といっても、わたしも遅刻じゃないんだけど」
その通りだ。少し不服そうに口を尖らせる千晶を僕はなだめる。
「まあいいわ。で、どこへ行くの?」
「
……
決めてない」
「はあ?」
「オマエ
……
考えとくって言ってただろ」
「考えはしたよ。でも、思いつかなくて」
僕にとっての目的地はここだ。
二人に会えたならそれでよかった。
「これから考えちゃだめかな?」
僕は二人を見る。呆れた表情は、間が抜けていて、とてもおかしい。
「笑いどころじゃないでしょ、まったく」
千晶に頬を摘まれて、自分が笑っていたことにはじめて気づいた。
ごめん、と謝りながら摘まれていた頬を撫でると、千晶は鈴を転がすような声で笑った。千晶が声を出して笑うのはめずらしい。最近はめっきり見なくなってしまったから、少し嬉しくて、僕の顔は余計に緩んだ。
「へんなの。君、最近ちょっとおかしいわよ」
「ほんとなー」
逆の頬を勇にぐいっと摘まれる。勇、と言おうとしたが、うまく言えない。「さ」が「ひゃ」になってしまう。勇の気怠げな笑顔は、放課後の教室で見たものとそっくりだった。
「ま、とりあえず
……
どっか座ろうぜ」
「そうね」
先を行く二人を、僕は追いかける。追いかけることができる。
ここからどこへ行ってもいいし、どこにも行かなくてもいい。
僕は自由だった。
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