茜屋(せんや)サナ
2024-08-24 06:38:39
17709文字
Public
 

白鴉の爪痕

8/24・25開催のアーマードコアシリーズwebオンリーイベント「無限の戦火よ、鋼鉄よ」展示作品です。
『ARMORED CORE Ⅵ FIRES OF RUBICON』のレイヴンの火ルート、カーマンライン突破主人公敗北IFです。カップリングはラスティ×621(♀)になります。


 その後、621 はV.Ⅳラスティと関わりを持った。燃料基地襲撃のあとに直接会う約束をした。噂の傭兵を一目見たいとのことだ。
「621、お前はマスコットではない。それと相手は企業だ。用心を怠るなよ」
「はい。ハンドラー」
 移動用ヘリの中、仕立ての良いスーツにコートを着た白髪の目立つ初老の男性が、621 の首にマフラーを巻く。パイロットスーツの上から防寒ジャケットとオーバーパンツを履いただけの洒落っ気のない地味なファッションだ。更に耳当てのついたツバ付き帽子も与えられる。
「ハンドラー、この装備はやや大袈裟では」
 疑問を呈する猟犬に飼い主は否と言う。
「傭兵は身体が資本だ。体調が常に万全であるように気を配れ」
 頷いて621 は帽子をかぶる。つばが広いので、彼女より上背のある人物からは顔を見られ辛い。ウォルターの最後の猟犬は見目麗しい方だ。無用なトラブルに巻き込まれないように、彼は気を配る。
……そろそろ合流地点だ」
「はい」
 こちらから指定したポイントに到着すると、灰色の雲の切れ間から一機のAC が降下して来た。鳥に似たシルエットの機体は、スティールヘイズ。V.Ⅳラスティの乗機だ。重量を感じさせず、スティールヘイズは軽やかにヘリの隣に着地する。さながら、鳥のようだ。
「来たな」
 ヘリのドアを開けると、ルビコンの荒涼とした風が吹き込む。白銀の風を纏いながら、長身の男がやって来た。
「お招き頂き感謝申し上げる、ハンドラー・ウォルター。お会い出来て光栄だ。私がV.Ⅳラスティだ」
 男は礼儀正しく、ドアの前で挨拶した。
「こちらもヴェスパー部隊の部隊長に会えて光栄だ」
 恭しい態度のラスティとは対照的に、ウォルターの声音は固い。
「そこでは冷えるだろう、中へ」
「ありがたい。失礼する」
 ヘリ内にラスティが入り、ドアが閉まった。ウォルターの背後にいた621 にラスティは声を掛ける。
「君がレイヴンか」
「ええ。初めまして、V.Ⅳラスティ。私がレイヴンです」
 鏡を見て練習した通りに、彼女は口角と口端を上げる。目は不自然にならない程度に細めた。これで笑顔が出来たはずだ。ビジネスの基本は礼儀正しさから。
「失礼」
 621 は自分より背が高いラスティからでは顔が見えないだろうと帽子を脱ぐ。つばの下から現れた白皙の容貌に、彼は少し目を見開く。その様子をウォルターは苦々しく思った。
 ラスティが想像するレイヴンは屈強な成人男性だったが、まさか麗しい容貌の若い女性とは思わず驚いた。
 溶けない氷を思わせる美貌は、どこか作り物めいている。先ほどは綺麗に笑っていたが、綺麗過ぎる。恐らく、日常的に表情を動かさないのだろう。
 一方の621 は無感動にラスティを見遣る。すらりとした筋肉質な長身をパイロットスーツに包み、上からヴェスパー部隊のエンブレムが入ったジャケットを羽織っている。精悍な容貌だが、どこか愛嬌がある。緑の綺麗な瞳に、すっと通った鼻筋が印象的だ。鳶色の短髪は刈り上げられており、寒くはないのかと621 は思った。
「改めて、初めまして」
 ラスティの差し出した手を621 は握る。少しかさついた、自分より大きな手を彼女はまじまじと見る。
「何か珍しいかな?」
「いいえ。ただ……人と握手するのが初めてでして」
「おや。それは嬉しいね」
 ふとラスティは傍らのハンドラーから厳しい視線を向けられていることに気付いた。この視線がEN 兵器だったならば今頃ラスティは蜂の巣にされている。存外、ハンドラーは猟犬に過保護なようだ。面白い、とラスティは内心で笑みを閃かせた。

「ラスティはなかなかのハンサムでしたね」
「そう? 美醜はよく分からないな。AC 乗りは強弱が全てだから」
 脳内に響く声――ウォッチポイントで出会った、目には見えぬルビコニアンことエアと621 は語らう。自室のベッドに腰掛けた彼女はホットフィーカを入れたマグカップにマシュマロを浮かべている。ラスティが持参した土産の1つである甘味は621 の関心を買った。甘い物は621 の少ない嗜好品だ。
 感情がない621 は人間味が薄い。ビジネスの場では相手に要らぬ不信感を与えることにもなる。彼女の危惧を聞いたエアはまず口調から変えてみては、と提案した。程よく砕けた口調はアイスブレイクにもなるはずだ。その一環として、エアには砕けた言葉で621 は話す。だいぶ、彼女の敬語につられないようになってきた。
「レイヴンには甘いマスクも通じませんか。彼も苦労しそうですね」
 エアから見るとV.Ⅳラスティはレイヴンに人並み以上の好意があると見て取れた。あのあとの会話でも彼女について知りたいように伺えた。通常の人間であれば彼に好感を持ちそうではあるが、レイヴンの感情は至ってフラットなままだ。
……私は機会があればスティールヘイズと手合わせしてみたいけど」
「気になりますか?」
「アーキバスの所属だけど、アーキバス社製のパーツを1つも使っていない。企業所属としてそれはどうなのだろうな。それにあのジェネレーターだとEN 容量がギリギリだ。アーキバスのジェネレーターならそんな苦労しなくても良いだろうに。取りうる戦術はシンプルだけど、見方によっては余裕が少ない。けれども、いや、だからこその強さなのか、気になる」
 本人より乗機の方への興味が強いらしい。エアは小さく嘆息した。
「なぜ、溜め息を吐くんだ。エア」
「何でもありません。それから、レイヴン。私はこれでも空気の読めるルビコニアンです。貴方とV.Ⅳラスティのお喋りの時は静かにしていますので、お気になさらないでください」
 なぜ、と彼女に問われたエアは今後のより良い関係性のためですよ、と妙に大人っぽく言い放ったのだった。