enoki181
2024-07-22 00:44:52
10662文字
Public リプレイ
 

【ストリテラ】イスカリオテの名に恥じぬ

俳優:守部さん、エノキ
シナリオ https://talto.cc/projects/rC6ojtunsgHDRnXTWvZrf


かつての英雄が地に堕ちた。
国を追われ、命を狙われた英雄が頼ったのは、過ぐる日々を寄り添った腹心の従者。
共に逃げてくれとの頼みを快諾した腹心に、英雄はかつてのように背を預ける。
……その相手が、自身を堕とした裏切り者だとは知らずに。

英雄と従者の、終わりの前の数日間。
緩やかに滅びへと向かっていく、ふたりの最期の逃避行。

かつて主従が共にあった理由も、
そして裏切りがあった理由も、
――ふたたび従者が、落ちぶれた主人の手を取った理由も。
すべては、あなただけが知っている。

オモテとウラのRPG ストリテラ
「イスカリオテの名に恥じぬ」


オープニングチャプター


▼或る主従


これは、とある主従の、裏切りと終わりの物語。
……けれどそれを語る前に、ほんの少しだけ、時計の針を戻してみよう。

戻した針の先は、具体的には、『追われる英雄』が追われる前。
『英雄の従者』が裏切る前。
つまり、ふたりの物語が、終わり始める前――
ふたりが、みなに崇められる英雄と、その側に影のように付き従う従者だった頃。
主従として、ふたりがどんな日常を過ごしていたかを描き出してみよう。


フルカ:ある日の昼下がり。

「失礼します」

そう告げて、私のお仕えする英雄様のお傍に近寄る。

戦闘のない日、英雄様はこうして占いに耽ることも多い。
あたりに骨が散らばっており、不気味だ、と眉を顰められる方も多い。私はそうは思わなかった。

英雄様の太い指が細い骨を丁寧に拾う。
多くの命を屠ってきた手が、命を拾い上げる。

私はこの時間が好きだった。息を潜めて、じっと見つめる。

バルッダザーレ:血の匂いだ。肉の臭いだ。人が殺された後の香りだ。
美しく白い骨をいくつも手に取って、炎で炙っている。
出来上がったひび割れの形から吉凶を占う――それが戦に出ない日の過ごし方だ。
ゆるくとがったような形を指でなぞった。極端に悪い相だった。

「おう」

抜け殻みたいになった使用済みの女共はそこのガキに始末させればいい。いつもそうさせている。

フルカ:いつものように淡々とゴミを片付ける。

英雄様の元に献上された女は、夜を供にした後、最後は無駄なく消費される。

――もしかしたらこれは私だったかもしれない。

抜け殻の女を片付ける度に思う。
たまたま性別を勘違いされ、こうなりたくないから偽ったままで、こうしてお傍にいる。

けれども、私が従者である以上、あのように丁寧に触れてもらえないのだ。

死にたいわけではない。しかし、このままでいられるわけじゃない。
私も歳を重ねた。もし女だとばれてしまったら。どうなるのだろう。

……あの。結果、どうでしたか?」

どんな結末にせよ、離別が決まっているのだから。
この方との思い出が欲しくて、普段はしない話を振ってみる。

バルッダザーレ:「カスだ。こんな結果なら殺し損だった……
真新しい布で手を拭い、それを放り投げる。
この肩書を得てからというものの、消費するばかりの一方だった。
それを悪いと思ったことは一度もない。
英雄ならば、当然の行いだからだ。

「近々悪い出来事が起こる、かもな」

フルカ:「え、あ……その、悪いことが起きると事前に知れているのは、それはそれで、いいんじゃないでしょう、か」

会話できたことに胸が高鳴っていた。
布を回収しながら、どもりながら、声を発する。

「避けられない運命ならば、身構えるしかないですし……あの……

バルッダザーレ:「ふーん、そうかよ」
ソファの上にどかっと座って欠伸をした。
収まりの悪い尻尾が背もたれを叩いている。

「身構えるぐらいの運命なら、俺は己の手で変えてやりたいさ」
「できるもんならな……
占いも一通り終わった。今日はこの他に予定はない。睡魔に身を任せる。

フルカ:あわてて部屋の中を見回すが、掛けるものはなさそうだ。

「毛布持ってきます!……えっと……

何気なく名前を呼ぼうとしたが、続きが出てこない。知らないのだ。聞くために睡眠を邪魔するほどでもない。

…………

その程度の関係なのだ、私たちは。

……おやすみなさい」


▼終わりの始まり


かくして、時計の針は正しい位置に。

今『追われた英雄』は、ひとり、牢の窓から青白い孤月を見上げている。
その身は悪鬼羅刹として告発され、処刑を待つだけである。

――告発は匿名だった。
故に、誰が彼を英雄の座から引き摺り落とし、貶めたのかもわからないが……ひとつだけ、明確な事実がある。
それは、最早『追われた英雄』には、この国のどこにも味方はいないということ。

……いない、はずだったのだ。

冷え切った牢の中、不意に、がちゃりと金属音が鳴り響く。
牢の鍵を外して現れたのは、『英雄の従者』。
彼の者はどう上手く立ち回ったのやら、主人の失墜にも巻き込まれず、今も国の中枢に座しているという話だ。

ともかく。
運命に光陰引き裂かれた主従は、今、どちらからともなく口火を切る。
「ここから逃げよう」
――差し出した手は、ひやりと冷え切っていた。


バルッダザーレ:冷たい床に寝そべっている。
この牢獄はひどく寒い。
処刑台に上がる前に体が凍ってしまいそうだった。
ここに毛布なんてものはない。

最初こそ牢を叩き壊すぐらいの勢いで暴れていたが、流石にもう余計な消耗をおさえて動かなくなった。
窓の外の月が俺を見下ろして笑っている。
悪い相は、当たっていた。

フルカ:――がちゃりと鍵の開く音が響く。

牢の扉を開け、自分の顔を覆っていたフードを取る。汗まみれで息が切れていた。
「これ、と、これ!」
持ってきた布を英雄様の頭に掛ける。角と顔が隠れるように。

それから、もうひとつ。その手に押し付けたのは、彼がいつも腰に携えていた剣だ。
彼が捕まる隙、思い出のつもりでこっそり盗んでいたものだったけど。私には重いし、やはり彼の手の中にあるのがしっくりきた。

「はやく!逃げますよ!」

手を差し出す。

バルッダザーレ:「…………何を考えている?」
「貸しか?弱みか?言っておくが、もう金と飯は出せねぇよ」
そう言いながらも、己の手は剣に伸びていた。
視界を覆う布であいつの表情はわからなかった。

フルカ:「そんなの、なにも……

早くしないと追手が来てしまう。気付かれるのは時間の問題だろう。
とても焦っているのに、彼の心に響く言葉なんて知らない。
あんなに傍にいたのに。好きなのに。見ていたのに。私はこの方の名前も知らない。

……ッ、ああもう!あなたのことしか考えてませんよ!」

腕を掴み、走り出そうとする。

バルッダザーレ:処刑までの延命程度、牢屋の不味い飯ではろくな力も出なかった。
引っ張られるようにして走っていく。
あの冷たい床を蹴って、遠くへ遠くへ駆けていく。
……
…………
「あんたの名前、何だったか」

フルカ:「わた、じゃない、ぼくの?」
……フルカ、です」

……あなたのお名前は?」
「その、知らないと不便ですから……

ずっと知りたかった、聞きたかった。

だから私は、この人を英雄から引きずり堕としたのだ。

こんなに早く聞けるのか。ドキドキと鼓動が速まっていく。

バルッダザーレ:「……ハハ」
「この後の生活を保障してくれんだったら、教えてやるよ」

フルカ:「……!」
「もっ、もちろん!ぼくがあなたの傍にいます!」
握る手の力が強くなる。

しかし、後ろから追手が迫る気配がする。
会話を続ける暇はなかった。


▼結末


無人の牢を、ただ月明かりだけが照らしている。
ここから始まるのは、緩やかに終わりへと向かう主従の物語。
堕ちた英雄よ、その信頼の言の葉は偽りか。
裏切り者よ、その忠義の誓いは偽りか。