不破
2024-07-07 20:59:40
5381文字
Public 空戦
 

#21




『ブカレストを塞いだ以上、敵は別ルートから侵攻してくるでしょう』

 光学モニターに映し出されたロゼが言う。吸血鬼の異名を取る彼がブカレストの防衛を成功させた。まるで歴史の再現のような出来事だが、1つの都市を1つの隊で防衛するのは容易なことではない。少数精鋭を用いた電撃戦を主とするメルゼブルク軍ならば多勢に無勢は慣れたものではあるのだが、数というのは有無を言わせぬ力となることも多い。

「敵の進路予想は出来ているんです?」

『まずはアムステルダムでしょう。そこからベルリンを取りに来るはずです。レヴィン公ならその定石を打ってくると思われます』

 パーシヴァル・W・レヴィン。ウィンズレットの女王、ハーティア・ウィンズレットの従姉弟に当たる人物であり、堅実な戦いをするウィンズレット軍の大将。彼が指揮を執っているのなら、確実に定石は押さえてくるだろう。問題は、その上でどのような動きを見せてくるかだ。奇策を好んで講じるタイプではないにせよ、戦争はゲームではない。裏を掛かれれば敗北する戦い。だからこそ、どのような相手であろうと油断はならない。

「軍団長は当面ブカレストに?」

『ええ、シンクレア公が1度返り討ちに遭った程度で引き下がるとは思えません。それにブカレストは中東方面への守りの要所です。変えが利かないわけではありませんが、破られずに済むのなら越したことはないでしょう』

……わかりました。こちら側は私の方で対処します」

 丁寧な口調で返してくるロゼに、ジェンソンは短く返した。それに「助かります」と告げたロゼが通信を閉じたことでデスクの上に浮かんでいた光学モニターが消え、執務室に静寂が訪れる。
 肘掛け椅子の背もたれに深く背を預け、深く息を吐く。デスクの引き出しから煙草の箱を取り出し、1本咥えて火をつけた。