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雨宮水月
2024-07-01 18:39:48
5645文字
Public
探索者の日常
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15倍の戒め
ワードパレット三題噺
18.土星 「まどろみ」「指輪」「消える」
よその子をお借りしています
(2019年8月の作品)
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その約束を覚えていますか。
忘れても良い遥か昔の思い出を、金庫にしまっていますか。
いつの間にかまどろみに浮かんでいたちづるは、右頬にボールペンをくっつけながら起き上がった。どうやら自分の机で寝落ちていたらしい。ぽとりとボールペンが落ちたのも気にせず、ブラックホールに吸い込まれるような気持ちで右手の中指にそっと触れた。
ふと、部屋の前に誰かいるような気がしてそちらを見た。片腕のないシルエットは一人しかいない。どうぞ、と間延びした声をかけるとすぐに扉が開いた。空っぽの右袖をこいのぼりのようにひらめかせながら、二本柳惣一が慣れたように入り込んでくる。
「なんだ、その顔
……
変な物でも食ったか」
開口一番、惣一が面倒くさそうに彼女の顔をじろりと見た。ちづるの隈は三徹のお陰で、パンダメイクのようになっている。疲れ果ててやつれているくせに、気だるげな雰囲気と元々の造形美が良いせいで、黙っていればどうしましたか、と男が声をかけてくるような見た目だ。実際の彼女を知っている人間がほとんどなので、ここではそんなことありえないのだが。
惣一の言葉に、そういえば昨日自分が何を食べたのか思い出せないな、と頭をかく。相当参っているのか、あの少女との会話も曖昧にしか覚えていない。
「そりゃ徹夜を三日四日続けてりゃ、私も大人しくなるよ」
「いつもそうだと貫禄が出るんだがな」
「ンなもんいらねー。腹の足しにもならん。で、解剖結果は」
「これだ
……
って、おいお前」
書類を受け取ろうとしたちづるの右手に視線が注がれる。中指が見るからに鬱血しており、惣一はすぐに原因を取り除いた。幼い女の子が最近使っている透明で小さめの髪留めだった。これが締め付けていたようだ。
「なんでこんなものを」
「あー、マジか
…
気づかなかった」
「最近お前、痛みに鈍感すぎるぞ。もっと気を引き締めろ」
「うっす。さーせん」
どうしてそんなものを、とか。何故中指なんだ、とか。聞きたいことは山ほどあったが、自分が気にすることでもないだろうと判断して盛大な溜息を説教代わりに吐き出した。
「忘れたい事と忘れてはならん事を区別しろ」
そう言い捨てて、惣一は部屋を出て行った。それに適当な返事をしてから、ちづるはまた机に突っ伏する。スマホの連絡先一覧の中から、た行を引っ張ってきて、そこでスマホを置いた。
「悪役になる準備は出来たか
―
」
右手の中指がうずいて答えた。
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