大きな祭りの季節は、度々出動命令をかけたりかけられたりする。年がら年中同じようなものだが、特に年末年始と夏は羽目を外す人が多い。大量の人が行き交うので、迷子の通報や問い合わせも当然多い。
熱中症対策を部下にしっかりと取らせ、自分も自販機で麦茶を購入したちづるは近くにあった腰まである高さの塀に寄りかかる。ふぅ、と息をついて買ったばかりの水分を一気に半分まで飲み干した。なんでこれは経費として落とされないのか、とぶうたれながら塀に登る。行儀は悪いが、背の低い彼女はそうしなければこの人混みの中の異常をすぐに察知できないのだ。
「あ、ちづるさん!危ないですよ!」
幼い子が弟妹に注意するような声色で、ちづるの元に走ってきたのは眼鏡をかけて片手にラムネを持つ少女。積木ふみだった。午前中に交番の前を通りかかったところ、泥酔者を送り届けた後のちづると遭遇したため、そのままパトロールまでついて来ていた。探偵とはまた違う警察の仕事を見てみたかったという好奇心や、普段よりも本気を出しているちづるを見てみたいという気持ちでいたのだが、今のところ特に変わりはなかった。
「うん。ちょっと見えなくてさー、っと。ふみちゃん、ついて来てね」
「え、ちょっと?どこ行くんですか?!」
ふみの空いている手を取って、ちづるは迷うことの無い足取りで人混みの中へ進んでいく。ふみと並んで人の流れに身を任せながら、目的地へ到着した。ふみは手を引かれるままに歩いて行くが、やがて向こう岸に着く頃、きょろきょろと何かを探す仕草をしている少女を視界に入れる。迷子だろうか。周りに親御さんらしき姿は見えない。
少女は黒地に鈴蘭の花があしらわれている浴衣を着ており、斜めがけの赤いバッグを大事そうに抱えながら屋台の裏やベンチの下などを見ている。迷子ではないのだろうか。落し物かもしれない、とふみが考えているとちづるがその少女に話しかけに行った。
「こんにちは!何かお困りですか?」
相変わらず左手で敬礼をしていることに苦笑したが、今日見ていた限りだとどうやら癖らしい。おっと、と自分で気づいて右手にやり直していた。少女は突然私服の女性が現れたため、ポカンとしている。
「落とし物ですか?良かったらお話、聞かせてください」
しゃがみ込んで女の子よりも少し下から目を合わせる。ちづるは人懐っこい笑顔を向けて、自己紹介をした。ふみも近くまで来ていたので、ちづるの隣に立ってから名乗る。すると、少女が喧騒に掻き消されそうな声を出した。
「みしま、さら…………です。ろくさいです」
「さらちゃんかー。六歳ならもうおねぇちゃんだねぇ」
「さらさんは何を探していたんですか?」
さらは両手を下の方でもじもじと動かしながら目を逸らした。そして、通りすがった女性に目が移り、じっと一点を見つめた。ちづるとふみが動くものを視界に捉えた猫のようにそちらを見る。赤いマニキュアが塗られた指先はラメのデコレーションで輝いており、更にいくつかの金やオレンジ色で細く白い指が飾られている。もう一度さらを見ると、その手を見ながら「あれ」と小さく呟いた。
「うーん、指輪?なくしたの?」
ちづるが指輪をつけたり外したりする仕草をしながら、隣でふみがスマートフォンで表示した指輪の画像を見せる。するとさらはブンブンと首を振る。どうやら話を聞くと、屋台でよく売られているようなおもちゃの指輪のようだ。ふみが見せた指輪はもう少し大人の女性がつけるシンプルなものだったため、彼女は違うと思ったらしい。おもちゃの指輪はダイヤモンドのように透明なジュエルで、形は五つの花弁で成る花型だそう。真ん中が少し青く変色しており、恐らくグラデーションがかかっているものなのだろうと二人は推測した。
どこで落としたのかわからず、ずっと色んなところを探していたらしいさらは目じりに涙が溜まってきていた。ちづるがすかさずティッシュを取り出すが、我慢強い子らしい彼女は泣きそうになりながらもほにゃほにゃと探す理由を口にした。
「かっちゃんと約束したのに……!次のお祭りになったら、また交換こしようねって、約束したのに……」
次のお祭り、というのはきっと来年のこの夏祭りのことだろう。この辺の地域は小さな盆踊り大会は行われているが、この祭り以降に近所でお祭りの予定はないはずだ。
どうしたらいいのかと、ふみがあたふたしながらちづるの手からティッシュをもらおうとして、彼女が祭りの雰囲気に酔いしれている人の流れを淡々と見つめていることに気が付いた。声をかけようとしたが、その前にちづるがくるりと向き直ってさらの頭をわしゃわしゃと撫でた。その後、ちょっと申し訳なさそうに髪や浴衣の襟といった身なりを整えてやる。
「じゃあ、ちょっと違う場所探してみようかー」
「ええ?!ちづるさん、本気ですか」
「とりあえずね。色んなとこ回りながら不審者に対する警戒も出来るし。では、しゅっぱーつ」
えいえいおー、と三人で掛け声を上げ、約束の指輪捜索が始まった。
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