雨宮水月
2024-07-01 18:39:48
5645文字
Public 探索者の日常
 

15倍の戒め

ワードパレット三題噺
18.土星 「まどろみ」「指輪」「消える」
よその子をお借りしています
(2019年8月の作品)


 適宜水分を取りながら、三人は半径三メートル分はある祭り会場を練り歩いた。時折ちづるが謎の動きをして日傘の代わりになっていたり、賑わいに乗じて現れたコンビニの万引き犯を取り押さえたり、いつの間にかどこかへ行って気づいたら帰ってくるといった妙な動きをしていた。そのため、さらの面倒はもっぱらふみが見ており、すっかり懐かれて傍を離れなかった。
 結局半周したところで手掛かりも何もなく、ベンチに座って三人は厚さに喘いでいた。五本目に買ったスポーツドリンクも、もうほとんど空っぽになっている。ふみがハンカチで眼鏡を拭きながら、「これ無謀ですよぅ」と零した。
 「買い直すのじゃダメなんですか?」
 「だめなのぉ!」
 「うん、だめだねぇ」
 「えっ、ちづるさんまで?」
 ぷはぁ、と麦茶を飲みほしたちづるが言いたげな顔をしているふみに苦笑した後、後ろにあったゴミ袋にペットボトルを投げ入れた。小気味良い音がしたのを確認して、ちづるはふみの頭を撫でる。
 「大切な人との約束と思い出は、なくしたら悲しいでしょ?」
 ひどく優しい声色で、遠くまで響くように彼女は諭した。自分自身に言い聞かせているのか、ふみに語りかけているのか判別するのが難しい表情だった。逆光になってちづるの顔に影が差しており、泣いているんじゃないかとも思ったが、口元はいつものように笑っていた。
 ちづるはそんな雰囲気から一転していつもの調子で指輪は確かに難しいかもしれないね、と膝に腕をついてから思いっきりうなだれた。しかしすぐに顔を上げ、さらの目の前に移動してしゃがみ込む。
 「ところで、ママとはどこではぐれちゃったの?」
 「ママ……白いポンポンを持った、くまさんのとこ」
 あっけらかんと答えるさらに、二人は首を傾げた。そんな催し物はあっただろうか、と早速ふみがスマホで夏祭りの公式サイトを開く。イベントステージでは打ち水や盆踊りの練習、人気アニメキャラクターやライダーヒーローたちのショーが行われているが、クマのクの字も見当たらないほどに目ぼしいイベントはなかった。
 ううむ、とふみが唸りながらホームページをくまなく探している横で、ちづるが弾かれたように立ち上がった。ちょっとごめん、と言い残して誰かとトランシーバーで話し始める。なかなか大変だな、と思いつつ何故さら一人の、しかも指輪という些細な落し物にこだわって捜索を手伝ってくれているのだろう。それほど優しい人なのか、似たようなことがあったのかはわからないが、確かに大切な人との約束の品はなくしたら悲しい。自分もきっと、兄やあの青年との思い出やお互いにとっての宝物を失ったら、一心不乱に探すに違いない。今までの思い出が、脳裏に浮かんでは消える。
 そんなことを思案している間にちづるが帰ってきた。そしていつの間にか新しいペットボトルを人数分抱えて、駅前広場へ行こうと提案する。恐らくクマはそこにいる、とも付け加えて。
 「なんでですか?あそこは混雑するので、催し物はやってませんよ。そもそも今回のお祭り、熱中症になるからって着ぐるみとかは禁止って書いてあります」
 「うん、だからだよ」
 その返事に、ふみとさらは顔を見合わせることしかできなかった。