雨宮水月
2024-07-01 18:39:48
5645文字
Public 探索者の日常
 

15倍の戒め

ワードパレット三題噺
18.土星 「まどろみ」「指輪」「消える」
よその子をお借りしています
(2019年8月の作品)


 「あ、ほら!あれじゃない?」
 広場の真ん中にある噴水に到着した一行は、向こうに見える駅舎の大きな時計を見た。
 それは午後二時を知らせるための音が鳴り響き、お姫様や動物たちが踊りだしている仕掛け時計だった。そしてその中にはもちろん、クマも見える。
 「ポンポンのくまさん!」
 さらがそれを見て叫んだ。きゃいきゃいとはしゃいで、ポンポンだよ、と二人に教えてくれる。確かによく見ると、クマの近くにある白くて丸いものがまるで、応援団の持つポンポンのように見えている。
 「ほ、ほんとだ……。でもあれ、ポンポンじゃないですよね」
 「うん、鈴蘭らしいよー」
 さらちゃんの浴衣と同じだね、とちづるはカラカラと笑う。何故彼女がここだと思ったのかはとりあえず置いておくことにして、ふみはさっきまでの癖がついていたのか周辺の足元を見渡した。すると、噴水の縁の下に入り組んでいるへこみがあり、そこにキラリと光るものがあるのに気づく。
 「あ、ありました!」
 反射的にそちらへ飛び込むようにしてふみがそれを手に取る。上着が少し水で濡れてしまったが、満面の笑顔を讃えている。その手にはグラデーションのかかった、花型の指輪が。さらが転びそうになりながらも飛ぶようにふみのもとへ向かい、指輪よりも先に小さなお姉ちゃんへ抱きついた。
 「すごい!これだよ!おねえちゃん、ありがとう!」
 「ふふん!当然です」
 自信満々にふみがふんぞり返りながらも、照れくさそうに笑って指輪を渡した。二人が満足そうにしていた、その時だった。
 「離して!!何するのよ、あたしが何をしたって言うの!」
 「お母さん、落ち着いてください!」
 近くで若い女性が複数人の警官に取り押さえられていた。周りは何事かとざわめき、ふみもさらもそちらへ視線を送る。現場の傍にはちづるがおり、その女性に何か話しかけていた。ふみの腕の中で、さらが「かっちゃん」と呟いた。
 やって来たパトカーに女性は乗車し、その場を去って行った。ちづるが二人の方へゆっくりと近づき、さらと手を繋ぐ。ふみは何が何だかわからない顔で、その様子を見ていた。
 「三嶋沙蘭さん。お母さんのところに行こうか」
 その言葉に、沙蘭は静かに頷いた。
 「ふみちゃん、ごめんね。全部終わったら、ちゃんと話すから」
 「ま、ってください!!なんでですか?なんでさらさんのお母さんは……!!ちづるさんは、なんで指輪を探してたんですか?!」
 ちづるの手を引っ張り、ふみが問いただす。それには何も答えず、難しい顔をした後に力ない笑顔を返答とした。
 「……指輪探しを手伝ってくれて、ありがとう」
 そのまま二人はパトカーに乗り込んで去って行く。ふみはそれを見送りながら、ただ自分の麦茶を抱きしめていた。