色々SS詰め

pkmnと最後に沢田の短文



・マツバが奥さんをデートに誘う話

デートしようか。
起き抜けで頭の回っていない私にマツバが言った。
今日は久しぶりにジムを閉めたらしい。振り向いた彼の右手には珍しくフライ返しが握られており、リビングにはあまい砂糖の香りが漂っていた。

「たまの休みくらいゆっくり寝たらいいのに」
「そうなんだけど、自然と目が覚めるんだよ」
「まあ、マツバらしくていいけどね」

マツバの手元を覗き込むと、丁度ひっくり返されたばかりの美味しそうな焼き目が見えた。昨日の夜仕込んでおいたんだよと指差された先には、まだ食パンが一切れバットの中で卵液に浸っている。マツバお手製のフレンチトースト。一晩かけて液を吸わせたしっとりふわふわな生地がたまらなく美味しくて、私の大好物の一品だ。
冷たいコーヒーを二人分用意して、既に出ていたお皿の隣へ並べる。フォークを出して、あとはフレンチトーストが出来上がるのを大人しく席で待つことにした。

「マツバはどこか行きたいとこがあるの?」
「そうだなあ……

フライ返しを片手にうーんと悩んでいたマツバは、しばらくして閃いたように指を立て口を開いた。

「ジムのイタコさんから聞いたんだけど、アルフの遺跡の辺りに紫陽花がすごく綺麗なところがあるんだって」
「いいねえ!確かあの辺り、最近新しいカフェも出来たみたいだし。たまにはちょっと足伸ばしてみようか」

エンジュからは少し距離があるが、日帰りでも十分楽しめる。明日もジムは午後かららしいので、帰宅が多少遅くなってしまってもそう困ることはないだろう。
久しぶりのお出かけの予定に、ついつい口元が緩んでしまう。嬉しそうな顔してるなあとマツバに突っ込まれるが、そういう彼も心なしか口角が上がっているように感じた。

「マツバだってそんな顔してるわよ」
「そりゃあ、奥さんと出かける予定が出来たんだもの」

フライパンの中身を器用にお皿へ盛りながら、嬉しいに決まってるじゃないかとマツバが微笑む。鼻をくすぐる甘い香りも相まって、胸焼けしてしまいそうな彼の笑顔。砂糖抜きのコーヒーでも到底中和出来そうに無い、この穏やかで甘すぎる空気に、私は少し気恥しさを感じつつも幸福感に包まれた。