kurotera
2024-05-27 10:15:49
10495文字
Public
 

Même si ce n'est pas le destin. destiné aux adulte

東京流通センター(TRC)
TRCオンリーライブ2024 June.09
スペースNo.D23
サークル名:カノコソウ

【Même si ce n'est pas le destin. destiné aux adulte】
ラビ×リュカ
小説 成人向
文庫サイズ 110頁
800円(通販の場合+送料)/全年齢版とセット購入の場合は1500円

TwitterやWEBであげていたラビ×リュカの成人向けSSを再録した本です。
2024.6.9のラブアップ★チュウ21で頒布予定。
よろしくおねがいします:)


 

瘡蓋


 一人で受ける仕事も、随分と多くなったように思える。夕食を共に囲むのが四人になったり、三人になったりする日も増えた。
 それが悪いことだとは、皆まったく思わなかった。それだけ自分たちが目指すアイドルとして成長しているという、なによりの証左であったし、それで五人の関係性が揺らぐのではという杞憂はつゆほども無かった。
 ――それでも、幼いころに負った傷は痛むものだ。
「ラビはうまくやっているみたいだ」
 満足そうに伝えてきたノアが食卓につく。普段ならば五人分の食事があるはずのテーブルには、四人分しか用意されていない。
 よかったです、とほっとしたように朝陽が頷き、いいよなあとレオンが羨ましがっている。どうやら雑誌で読んで、行きたいと思っていた所らしい。
「きっとレオンにもそういった仕事が回ってくるさ。さあ、いただこうか」
 いただきます、とこの国に来てから覚えた言葉と共に手を合わせる。
 随分と慣れた様子で焼き魚を箸でほぐしながら、レオンが呟いた。
「ラビ、いつ帰ってくるんだっけ?」
「えっと……週末でしょうか」
 朝陽の答えにノアが土曜日の昼頃だよ、と付け加える。白菜の漬け物を摘まみながら、リュカはちらりと壁のカレンダーを盗み見た。
 今日は水曜日で、仲間が帰ってくるのは二日後だ。
 お土産はなんだろな、とレオンがそわついているのに気が早いよとノアと朝陽が笑っているのを聞きながら、白米を一口。
「リュカ?」
 朝陽に呼ばれ、はっと我に返れば琥珀色の瞳がおずおずとこちらを見つめていた。
……どうした?」
「いえ、あの……ぼーっとしていたから……
 具合でも悪いのかと、と不安を声に滲ませる朝陽に慌てて首を振る。レオンもへ? とこちらを見てきたので、思わず顔を顰めた。
「そういや今日のリュカ、なんか静かじゃん」
「お前がいつも以上にうるさいだけだ」
「はあ!? そんなことねーし! つーか心配してやってんのになんだよ!」
「あ、あの、二人とも……?」
 食事の手を止め、リュカとレオンが睨み合うのを見て朝陽の顔が青ざめる。よしたほうが、と言ってはみたものの、控えめな制止は二人に届かないようだった。
「レオン、リュカ」
 ノアの声が凜と響く。暫く沈黙が降りたが、そういえば、となんでもないようにノアが別の話題を切り出せばいつもの雰囲気に戻っていった。

「ノアが怒るところだった」
「夕飯での喧嘩は厳禁だっていつも言っているだろ?」
 夕食と風呂を済ませたリュカのスマートフォンが鳴ったのは、もうすぐ日付が変わるかどうかの頃であった。
 遅くにごめん、とスピーカー越しに聞こえるラビの声に、自分でもおかしいと思うほどに安堵しながらも、別にいい、と何でも無いかのように返したのだった。

 
 シェアハウスの様子を聞きたがるラビに夕食の席での出来事を告げれば、呆れた声で咎められる。しかしそれも、今のリュカにとっては些事である。
「そんなことより、お前はどうなんだ」
「オレ? 問題ないよ。剛もいるし、晃にも気にかけてもらってる」
……そうか」
 ラビの声はいつも通り穏やかだ。仕事も順調なのだろう、どこか機嫌が良い。
「それなら、いいんだ」
「うん、心配しないで」
「していない。……お前は上手くやるだろ」
 くすくすといった笑いが耳に届く。リュカの赤い目がそっと細められ、それがちらりと壁を見上げればいつの間にか日付が変わっていた。
「明日も早いんだろう。切るぞ」
「ああ、うん……そうだね。寝坊したら大変だ」
「ホテルの目覚ましは壊すなよ」
「流石に壊さないよ」
 リュカのからかいに心外だとラビが拗ねた声で反論すれば、どうだかと揶揄う。就寝に意識が向いたのか、欠伸をかみ殺すような声が微かに聞こえた。
……ラビ」
 無意識に呼んだのを自覚し、リュカは己の喉がひくりと動くのを感じた。その声に先ほどの会話とは違う雰囲気を汲み取ったのは、おそらくラビの察しの良さ故だろう。どうした? と聞いたきりこちらの言葉を待つ恋人に向けるものを迷い、そしてリュカは、そっと目を伏せた。
……おやすみ。ゆっくり休んでくれ」
……うん、ありがとう。おやすみ」
 それ以上、何も言わなかった恋人に頷きながらリュカは通話終了のボタンをタップする。黙りこくった手の中の端末が、短くも長くも無い通話時間を示していた。
 それをしばらく、ぼんやりと眺めていたがやがてスリープモードに切り替われば、諦めたようにリュカは、それをサイドテーブルに伏せた。
 はやく帰ってこいだなんて、子供じみたこと。
 もし言ったとしても、ラビは困った顔をさせてごめんね、と自分が悪いわけではないのに謝ってしまうのだろう。
 昔のように〝いつになったら〟と示されてもいないその日を思い、胸を締め付けられるようなものじゃないだけ、良い。あと数日過ごせば、恋人は帰ってくるのだ。
 ――それでも。

 帰ってくるまでの数日、リュカは自分から連絡をとるような事はしなかった。
 遠方での仕事が数日となると流石に疲労が溜まっているだろうと遠慮したし、なにより、自分のエゴを自覚するのが嫌だったのだ。
 日付が変わるか変わらないかの時間に、ラビが寄越してくるLIMEに一言二言返事をして、おやすみと告げるだけの数日がひどくもどかしく感じてしまっているのだから、きっといま、声を聞けば「寂しい」と言ってしまうのは容易いだろう。
 ……それが嫌だった。
「夕方になるみたいだ」
 どうも渋滞に巻き込まれてしまっているらしい。リビングにやってきたノアが告げてきて、リュカは壁の時計を見上げた。丁度、正午になったばかりだ。
 そうか、と頷いて開いていた雑誌に視線を落とすが、内容があまり入ってこない。
「ノアー! 夕飯、ボルシチにしない?」
「良いと思います……!」
 レオンと朝陽の言葉にいいアイデアだね、とノアが肯定する。早速、彼の有能な執事に言いつけにいったらしくリビングから去って行った。

 ラビがあと三十分で帰ってくるとLIMEで告げてきたのは、それから数時間後のことだった。すでに夕方に差し掛かっていると言っても差し支えない時間だ。
「セバスチャンは夕食の準備をしているし、迎えに行こうかな」
「オレが行こう。外の空気を吸いたいから、ついでに」
 薄手の上着を羽織ろうとしたノアを引き留め、リュカが名乗り出る。珍しいと少し驚いたようにノアが飴色の目を見開いて、それから柔らかく笑った。
「お願いするよ」

 ノアに従ってニットカーディガンを羽織ってよかったと思う。日が落ちかけた外はやや肌寒い。駅に向かうべく住宅街を歩いて行けば、そこかしこの家々からは子どものはしゃぐ声や料理をしているらしい音が微かに聞こえてくる。
 ――寂しさを呼び起こす音だ。
 そんなことを考えながら道を行けば駅前の賑やかな場所に出た。家路に向かう人々は早足に、リュカとすれ違っていく。駅の改札に着けば、そこからどっと人が流れてきたので、仲間の姿を探した。すぐに見つかった。――人混みに長身は目立つ。
「あれ、リュカ?」
 リュックを背に、ボストンバッグを手に提げたラビが同じく長身の類いに入る仲間を見つけるのは早かった。軽く手を上げて応えたリュカに歩み寄り、首を傾げる。
「迎えに来た」
「そんな、良かったのに」
 貸せ、とラビの手からボストンバッグを取り、来た道へと歩き出す。数日ぶりに見た仲間の顔にはやや疲れが見えていて、迎えに行くというノアの判断は正しかったのだとリュカは悟った。
「ありがとう」
……家で皆が待ってる」
 二人で住宅街を歩いて行く。家々の窓からは明々と光が漏れていて、その中で過ごしている人々の気配も感じられる。ラビが欠席していた授業の内容を聞いてきたので答えてやれば少し難しそうな顔をさせた。
「明日にでもノートを見せてやる」
「いいの?」
「オレじゃなくてもいい。誰かしらが見せてくれるだろう?」
「いや、リュカがいいな」
 喜色を孕んだラビの声に、ぽつ、と頬に熱が灯る。さいわいなのは赤くなったそこが暗がりで見えないことだ。
 もう少しだけ素直になれれば、とこういう時に感じてしまう。ほんの少しでいい。レオンのように軽い調子で寂しかった、なんて言えるような人間ならば。
 言ったとして、隣の男はどんな顔をするだろうか。驚くかもしれない。
 そんな思考に陥りかけたところで、シェアハウスの灯りが見えた。ああ、やっと帰ってきたとラビがほっとしたような声を漏らしたので、ひとつ頷いた。