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kurotera
2024-05-27 10:15:49
10495文字
Public
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Même si ce n'est pas le destin. destiné aux adulte
東京流通センター(TRC)
TRCオンリーライブ2024 June.09
スペースNo.D23
サークル名:カノコソウ
【Même si ce n'est pas le destin. destiné aux adulte】
ラビ×リュカ
小説 成人向
文庫サイズ 110頁
800円(通販の場合+送料)/全年齢版とセット購入の場合は1500円
TwitterやWEBであげていたラビ×リュカの成人向けSSを再録した本です。
2024.6.9のラブアップ★チュウ21で頒布予定。
よろしくおねがいします:)
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3
4
Affection et regret
恋人は作曲家、と声に出してみるとちょっとしたドラマのような謳い文句に聞こえる。これが本当にドラマだとしたら、相手を想って曲を作っただとか、そういう展開もあるのだろうなと考えたところでふと、恋人のある言葉を思い出した。
――
お前のために作った。お前が思いきりドラムを叩けるように。
実際にはそれは恋慕からくるものではなくバンドメンバーへの普段は曲調に合わせてセーブしている演奏に対しての気遣いか、はたまたお前の本気をみせてやれというメッセージかといった具合のものだ。
当時の自分にとっては恋慕以上に喜ばしいものであったのだが。
「
――
……
」
思い出しては自然を緩む頬を取り繕いながら、一メートル先の背中を見やる。ヘッドフォンで外側の刺激一切を遮断して、作曲作業に没頭している。
唯一無二、I❥Bの作曲家にしてバンドの根幹を担うリズムパートの相方兼、愛おしい恋人は数時間前からこちらを振り向きもしない。
ラビにとってはすっかり慣れたものだった。
幸いなことに彼の部屋に入り込み、その背中を眺めながら読書、ゲーム、台本の読み込みと、そうやって傍にいることをゆるされている。
――
彼曰く、曲を作るということは。
冥(くら)い深海の底で小さく輝く貝殻を見つけるようなもの、だという。
どのメロディラインが最適なのか、どの音を拾い上げるのか、テンポは、転調は。そういったものを注意深く拾い上げては捨てて、手のひらに残るものの結果なのだと。
――
こうも言っていた。
銀河の中でたったひとつの星を見つけるに等しい行為だ。
泥の中に手を突っ込んで、きらきらと光る石を探し当てるに等しい行為なのだ。
「だから、きっとお前が見えない時なんてざらにある。オレはそれを改めることはしない」
いつだったか、きっぱりと、そして寂しく恋人は言った。
どう返したか。
オレはリュカのそういうところが好きだからとか、オレ達の本分だよ、とかそういう言葉を吐いた気がする。動かしようのない事実なのは、こちらも承知している、と。
あのどこか危なっかしさも孕んだ真っ直ぐな性根は、ラビが持ち合わせていないものだった。とうの昔に、凍った水面の下に落とした気がする。
それは尊く、美しいものだ。
だからこそ放っておけばこいつはどこまでも行ってしまう。一つ星を頼りに大海にこぎ出す、碇を持たない小舟のように。
だから手首を掴んで、引き寄せたい。引き寄せて、お前のいる場所はここだ、と。そんな自惚れをかましたくなるのも、また、若者の確かな欲であった。
「
……
リュカ」
そう思えば無意識に読んでいた。小さく、囁くレベルの声量。それすら一メートル先の男には届くはずもない。空虚に落ちた呼び声は受け取られることなく消え失せて、時計の秒針の針をいたずらに大きくさせた。その音の煩わしさに、ちらりと時計を睨みあげる。その拍子に何か、たがが外れたような心地がして、駄目だよ、いいこにしなきゃ、と理性を働かせてみたものの。
ぎし、とベッドのフレームが鳴った。
リュカ、ともう一度。彼の座る椅子の背後にそっと立ち、ゆっくりと手を、恋人を閉じ込めているヘッドフォンに添えた。プラスチックと指が擦れる音が鼓膜に伝わったのか、びくりとリュカの肩が跳ねる。
この部屋に居座っている人間の意図を察して、それを阻止しようとした手を、もう片方の手がやんわりと抑えた。そっと耳を覆うそれを取りあげ、外す。
コードが引っかからないように慎重にデスクに置けば、向けられたカーマインの瞳は怒りを孕んでいた。
「ラビ」
あれほど愛情を込めて呼んだというのに恋人が自分を呼ぶ声は苛立ちに塗れていて、ラビは思わず苦笑した。と、同時に、そうでないと
――
といったどこかおかしな信頼すら抱いた。ごめんね、でももうこんな時間だと言い訳をしてその柔らかな耳のふちを指でなぞる。
「そろそろ耳を休めなきゃ」
「
……
っ」
すり、と指の腹でその輪郭を辿れば、ぴくりとリュカの目尻が引きつる。恋人の呼びかけと戯れに抗うように、少年は沈黙を貫いていた。
「
――
……
」
ヘッドフォンの奥、深い海の底、星々の瞬く闇、泥濘みの中にまだ未練があるのならば、無理矢理にでも引き上げればいいのだ。
己の全てを以て。
そんな残酷ともいえる企みが、ラビの中で頭をもたげた。
ゆっくりと、リュカの耳元に唇を寄せる。
ギュ、と椅子が軋む音が二人の間でひずんだ。
ここなら届く、確実に、声が。
「リュカ」
哀切極まりない声だった。低く、柔らかな、短くも確かな言葉。
「っ
……
あ
……
?」
おかしい、と思う。しかし自分の鼓膜をどうにかするだなんてどだい無理な話で、ならば耳を塞いでしまえばいいのに、この男はそれを許さない。
恋人を椅子から立ち上がらせ、ベッドへ導いたかと思えばそのままさほど変わらない背丈の己を易々と後ろから抱きかかえている。そのまま体重をかけ、肩に頭を預けるような格好でくすくすとラビは笑っていた。
その笑い声と共にかかる吐息にすら、己の身体はそわそわ、落ち着かないと思考に訴えかけてくるのにリュカは、混乱の渦に取り込まれつつあった。
――
どうして、こうなった? いや、分かりきっている。こいつが。
「リュカ、ねえ、リュカ?」
「ま、待てっ
……
近い
……
!」
焦りながら藻掻くリュカの抵抗も、どうということはないと言いたげに、ラビが彼の耳のふちに口づける。
わざとらしくリップ音を鳴らせば、面白いほどにリュカの身体はラビの腕の中で震えた。思わず口の端が上がり、腕に力が篭もる。
きっと今、自分はひどく、惨い笑みを浮かべているに違いない。そんな自覚になけなしの罪悪感を預けつつ、恋人を苛むのを止められない。
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