enoki181
2023-10-04 18:14:14
35656文字
Public リプレイ
 

【:プレイ・バイ・レター】拝啓、大嫌いな愛しい英雄(きみ)へ(アレン×クイン)【リプレイ】

GM:エノキ PL:まるさん
シナリオ※シナリオ集内 https://booth.pm/ja/items/4165528


●対話フェイズ

――あなたは、微睡の中に夢を見る。
否。正確には、ただの夢ではない。これは、あなたの過去の記憶。
あなたが勇者として見いだされ、旅に出る前――

故郷で、平凡だが、幸せな生活を送っていた頃の記憶。

「アレン」

あなたを呼ぶ、『彼』の声が聞こえる。
これは、あなた達が「勇者とその騎士」でなく、ただの「アレンとクイン」だった頃の記憶だ。



クイン:「まだ見ているの?」

アレンが左手首を見て瞳を輝かせている。昼に村へ来たキャラバンで買ってからずっとだ。
自分の右腕にも同じようなブレスレットがはまっていた。紫色のガラス玉がはまっていて、これはアレンの瞳を思って選んだものだけど。その何倍も綺麗に瞳を輝かせ続けるものだから、照れ混じりに笑ってしまった。

「お互いの目の色にそっくりなものがたまたまあるなんて、運がよかったね」

アレン:「ふふっ、ほんとだね!」

ランプの灯りの下に手を伸ばし、ブレスレットに嵌まった紅色のガラス玉を光に透かす。
見つめている内に、知らず顔が綻んでいた。ずーっと前から、兄さんとお揃いのものが欲しかったんだ。
宝石みたいにきらきら輝くそれは、兄さんの瞳の色と同じ。
そして兄さんの手元にも、僕の付けているものと同じ意匠のブレスレットが嵌まっていた。

「なんだかこう言うの、コイビトみたいだね?」

コイビトの意味を深く考えもせず、何となくそう呟いてみる。

クイン:ああ、確かにそうだ。揃いのものを、それも相手の瞳の色を身につけるなんて、恋人として定番だ。
小さな村だからそういうことをしている二人がいたらすぐにわかるし、ちょっとした騒ぎになる。
アレンと自分では何も起きないのだろう。相変わらず仲の良い兄弟だね、と微笑ましく見られる。

「いつの間にそんなませたことを言うようになったの?誰かに何か吹き込まれた?」

弟の成長を喜ぶような、悲しむような。そんな風に苦味混じりで言って。
僕の腕もランプの下に伸ばし、灯りに透かした。
こつん、とアレンと腕をぶつけて笑う。

アレン:兄さんの温もりが僕の腕に触れる。ガラス玉同士が触れ合って、小さく音を立てるのが嬉しくて、くふくふと笑ってしまう。

「何か変だった?仲良しの証拠みたいで良いなって思ったんだけど」

先程ぶつけ合った手を握り、僕は兄さんを見つめた。正確には、朝露の中の摘みたて苺みたいな、綺麗な紅い瞳を。

「けど、僕ら家族だもんね」

コイビトはいつか別れる事もあるって聞く。けど、家族の絆は簡単には切れるものじゃない。
だから、家族の僕らはきっと、これからもずっと一緒。その証を目に見える形に出来た気がして、何だかくすぐったくて、嬉しくて、またも頬が緩み出す。

クイン:そうだよね、深く考えていない発言だったよね……
朝露をのせて光るスミレのような紫色の瞳は、穢れがひとつもなく、どこまでも純粋であることを物語っていた。

「ううん……ただ、アレンも色々なことを知って大きくなっていくんだなぁって。少しだけびっくりしてしまってね」
「僕が教えなくても、自分で知らない世界を広げていく力がついて。そうやって、どんどん僕から離れていくのだろうね」

ランプの灯が揺らめく速度で、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
明かりが眩しすぎて、少しだけ瞼を伏せてしまった。

「家族として、応援しないといけないね」

アレン:兄さんの物言いが何となく寂しげに聞こえて、僕はつい、コテンと首を傾げてしまう。兄さんたら、変なの。

「どうして?離れたりしないよ」
「応援してくれるのは嬉しい、けど。それじゃまるで僕が兄さんを置いて、一人でどこかに行っちゃうみたいじゃないか」

ランプのオレンジ色の炎が小さく爆ぜるたび、兄さんの表情に落ち掛かる影が何だかやけに気になって。
ギュッともう一度兄さんの手を握る。
僕が不安な時、よく兄さんがそうしてくれるように。

「僕はどこかに行く時だって、兄さんと一緒がいい。もちろん、兄さんが良いって言ってくれれば、なんだけどさ」
「だから兄さん、二人でどこまでも一緒に行こうよ!」

握った手に力が籠もる。重なる手と手に、紅と紫の光が揺れた。

クイン:アレンは優しい子だから、僕の憂いを感じ取ってしまったんだな。
気遣いは嬉しくて、それと同じくらい――

……そっか、そうだったね。アレンはどこにも行ってしまわないのにね」

瞼を持ち上げ、手を裏返して握り返す。
ブレスレットの石が小さくぶつかって音を立てた。

「悪いことなんてあるもんか。どこまでも君と一緒にいるよ、アレン」
「それにね、いつまでも離れられないと思うな。きっとどれだけ成長しても、心配は尽きることが無い……そんな、大事な大事な弟だからね」

仕方なさそうな口ぶりながら、肩を揺らして笑う様子に後ろ向きな感情は見受けられず。
幸せそうな二人分の笑みを、ランプの明かりが優しく照らしていた。



GM:――幸福だった頃の景色が、不意にぼやけて消えて……
あなたは半ば微睡の中、まぶたを開く。
ここは現在のあなたの寝室。現実だ。まだ朝は来ず、部屋は夜闇に沈んでいる。

「アレン」

あなたを呼ぶ、『彼』の声が聞こえる。
微睡から浮上する中、あなたはそう思って――

不意の違和感に慄いた。……彼の声?

現実の彼――クインは、罪人として牢にいるはず。
今、あなたの部屋で、声など聞こえるはずがないのだ。

それに気づいた次の瞬間。

――あなたは胸元に、息苦しい程の重みを感じ、ベッドにそのまま押し付けられていた。
顔を上げれば、クインがあなたに馬乗りになっている。
彼の手には、ナイフ。その刃が、月光を映して銀色に光る。

「アレン」

微笑むその唇が、もう一度あなたの名を紡いで――ぞわりと、あなたの背を寒気が走った。
先ほど、夢で、かつての記憶を思い出したからわかる。
ずっとずっと一緒にいた、幼馴染だからこそわかる。

【今目の前にいるクインは、クインではない】

クインの身体の中に何かがいる。あなた自身が以前対峙したことがある、空恐ろしい何か――

【《魔王》の影が、クインの瞳の中に蠢いていた】。

あなたがそう確信するとともに、ナイフがあなたに向けて振り下ろされる。
今この瞬間、あなたができることは――

【行動の選択】
A:枕下に隠しておいた勇者の剣を掴む

アレン:振り下ろされた刃に、現実に引き戻される。
どうやってここに、とか。兄さんをどうしたんだ、とか。
聞きたい事は山ほどあったけれど、「勇者」として歩んで来た身体は自然なまでの動きで剣を引き抜いていた。

こう言う事もあろうかと、神殿の人達の忠告に従って勇者の剣を隠し持っていて正解だった。

キンッ、と言う短い音が夜闇に響き、ナイフの切っ先は寸での所で受け止められる。

GM:あなたが咄嗟に勇者の剣でナイフの刃を受け止めた、その瞬間――

時が凍ったように、すべてが止まった。

クインの身体も、表情も――
虚ろな表情で、クインの顔をした「何か」があなたを見下ろして……

――その口から、絶叫が迸った。

「ああああああああああ!!!!!」

クインはナイフを取り落とし、悶え、あなたに覆い被さるように伏して痙攣する。
しかし、その動きもすぐにぴたりと止まり……
……先程の叫びとは明らかに色が違う、怯えるような嗚咽が漏れ聞こえてくる。
やがて顔を上げたクインの顔は、絶望の色に染まってはいたが……その瞳の中に、魔王はいない。
それは間違いなく、あなたが知る、幼馴染本人の表情だ。

クインはそのまま、ぎゅ、と縋るような形で、あなたの身体を抱きすくめて……
そのまま一言「ごめんなさい」と呟き、涙をこぼした。

アレン:「……兄さん……っ」

間違いない、僕には分かる。ここにいるのは兄さんだ。

「兄さん!」

両手を伸ばし、その身体を抱き締めようとする。
だけど利き手の右手はまだ剣を持っていて、兄さんの背に手を回せない。
傷ついた左腕は上手くまだ動かせなくて、兄さんの頬の涙を拭ってあげられない。
もどかしい気持ちをぶつけるように、せめてもとその肩に顔を埋め、ぐりぐりと擦り付ける。

「謝らないで……兄さんが、悪いんじゃないよ」

クイン:「アレン……

ああ、兄と弟の立場が昔と逆になったようだ。
それがどうにも胸をむず痒く撫で、たまらなくなって頭を撫でた。虚勢を張って、兄であろうとするように。

GM:今のクインには、先ほどまでの狂気的な様子も、瞳の中にあった《魔王》の影も見当たらない。
今ならきっと、互いに理性的に言葉を交わすことができるだろう。
だが、いずれにせよ……先程のクインの絶叫は、城中に響き渡るほどだった。
間違いなく、やがて人が駆けつけてくる。
そうすれば、罪人であるクインは牢屋に逆戻りだ。
ふたりきりで何か尋ねるなら……あるいは何かを伝えるなら、これが最後の機会になるだろう。

アレン:「兄さん」
「大丈夫、僕は全部分かってる」

兄さんの耳元に小さな声を流し込む。
その時、びくりと兄さんの身体が震えたのが分かった。

「兄さん。あの時、僕を瘴気の嵐から助けてくれてありがとう」
「そして……その結果、こんな事になって、ごめん」

クイン:「……アレンが謝ることなんて、何もないんだよ」
「僕が自分でしたことで……僕のせいなんだ」
「ごめん、ごめんね、アレン」

アレン:「なんで……謝らないでよ」
「僕は兄さんを恨んでない。兄さんに傷付けられたなんて思ってないから」

話したい事が山のようにある。
でもきっと、こうして兄さんと言葉を交わせる時間はあと僅かだ。
なら、今一番言いたい事だけを兄さんに伝えるよ。

「だからさ、一緒に帰ろう」
「二人で、【魔王】を倒して、僕らの村に帰ろうよ」

クイン:「アレン」

アレンの頬に手をかけ、上を向かせる。
真っ直ぐに瞳を交わらせ、泣きそうな顔で息を吐いた。

「僕たちがふたりでいられるのは、きっとこれで最後だから。僕の懺悔と、お願いを聞いてくれる……?」

アレン:「……うん」

兄さんの泣きそうな顔に、僕までつられて泣きそうだ。でも泣いてるせいで兄さんの言葉を聞き漏らすなんて絶対嫌だから、歯を食いしばって涙を堪え、耳をそばだてた。

クイン:「改めて、手紙、ありがとう。……いろいろと、ごめん」
「もう、君はわかってるよね。僕の中に《魔王》がいること」
……これは、僕自身のせいだ」

アレン:「……兄さん自身のせい?」

その言葉に思わず目を見張る。
そんな事ある訳無い、と否定する事は容易い。けれど今は兄さんの話の全容を聞く方が先だ。

クイン:小さく頷き、息を吸い直してから続ける。

「僕は今でこそ『勇者一行の騎士様』だなんて持ち上げられているけれど……本当は実力も足りないのに、君の傍にいたいからって、無理やり同行しただけの凡人だ」
「魔王討伐パーティの中で、僕が足を引っ張っていた。あの旅の中で、劣等感や、嫉妬や、引け目を感じない日は一度もなかった……
……《魔王》は戦いの中で、僕のそんな気持ちを見抜いていた」
「だから、君が《魔王》を倒したあのとき。《魔王》は消滅するふりをして、僕に取り憑いたんだ」
「僕の中に潜む悪感情を糧にして、君に復讐するために」

アレン:違う。違うよ。
そう言ってあげたいけど、今の兄さんにそれを伝えたってきっと無意味だ。
だから、僕は何も言わずにただ兄さんの言葉を静かに受け止め続ける。

クイン:「そう、『僕の中に潜む悪感情』」
「《魔王》は、確かに取り憑いた人間の悪感情を増幅させるけど……最初から持っていない感情を、植え付けてくるわけじゃない」
「だから手紙に書いた内容は全部、間違いなく、僕自身が抱いていた感情だ」
「あんなの、人にぶつける感情じゃないことはわかってる。僕自身も、あんな感情が心の中に浮かぶ度に、自己嫌悪に苛まれていた」

――でもね。確かに、あれはすべて……僕自身の心の中に、よぎったことがある感情なんだ」

どこか自嘲的な笑みを浮かべたあと……アレンから視線を外し、堰を切ったように語り始める。

「ほかの仲間に対する劣等感や嫉妬なんて比べ物にならないくらい、君が憎い」
「君が嫌いだ。大嫌いだ。憎くて憎くてたまらない」
「君が、醜くて何のとりえもない、愚か者ならよかったのに。そうしたら、僕の手の中に囲って、撫でて、頬ずりして――僕だけが君を愛せるんだって、心からの笑顔で言えたのに」
……どうして、君はそうじゃないんだ?」
「どうして君は、大衆にきらきらとした目で見つめられ、褒めそやされたりしてるんだ?」
「僕以外のものになっていく君が大嫌いだ。『手に入らないもの』になっていく君が大嫌いだ!」
「僕だけが、君が特別なことを知っていればよかった!! 僕だけの特別でいてほしかった!!」
「世界にとっての特別になんて……『勇者』になんて、なってほしくなかった――!!」

クイン:だんだんと激高するように荒げられた声音。最後の方は、ほとんど叫ぶような声だった。
一瞬の間をおいて、優しげな様子でアレンを見やった。

――だから君に死んでほしかった。これ以上、僕から離れていってしまう前に」

クイン:「そう。さっき君を殺そうとしたのだって、僕自身が本当はそうしたいんだ」
「『君を殺してしまいたい』って考えが……こうしている間にも、ずっと頭の中をこだましてる」
「君が僕以外のことを考えられないくらい、傷つけて、痛めつけて、殺してしまえば……君はきっと、僕のことだけで頭をいっぱいにしたまま、事切れてくれるよね?」
「そうして死んだ君の横で、この生を終えることができるなら……どんなに幸せなことだろう……

GM:……少しずつ、少しずつ、彼の口調が熱を帯びてきている。
魔王の影響を離れ、冷静なはずのクインの瞳の奥に、暗い炎が灯っている。

クイン:「……ねえ、アレン。《魔王》に憑かれたものとしてじゃなく……純粋な、クイン・カレンデュラとしての、僕の一生のお願いを聞いてくれる?」

「愛してる、アレン」
「だから……僕と一緒に、死んでくれ」

GM:そう言った彼は、掬い上げるような視線で、あなたの瞳を覗き込んだ。

アレン:「…………
「兄さんの、ばか」

「嫉妬?劣等感?そんなの僕だって持ってるさ。
僕以外が勇者だったら良かったって、こんな弱い僕じゃなくてもっと心がしっかりした人が勇者だったら良かったって、何度も逃げ出そうとしたよ。だから兄さんと同じ。

僕だって、兄さんと二人で『ただの村人』で居たかった。兄さんに、こんな顔させるくらいなら」

「けど、そうはならなかった。
ならなかったから、『勇者』として出来る限りの務めを果たした。これからも必要とあれば果たすだろうさ」

「それもこれも全部全部、これから兄さんと生きていく世界の為だ!」

「手に入らない?
ふざけないでよ、僕はいつだっていの一番に『兄さんの家族』で在り続けるよ!」

「兄さんのそんな黒い感情も、独占欲も、全部全部兄さんの一部なら僕が受け止めて、大事にする。兄さんと生きてく為に」

「あくまでそれは兄さんの感情の【一部分】でしょ。全部ってわけじゃないはずだ。
なら僕は、『僕と生きたいはずの兄さんの気持ち』も尊重したいよ」

「だから、心中なんか真っ平御免だ!!」


クイン:「ああ……アレン、ごめんね」

残念とも安堵したとも取れるような表情で息を吐いて謝罪する。

「君は本当に優しいね。こんな、頭がおかしいお願いに、真面目に答えてくれるなんて……

クイン:「だからこそ、優しい君に手を汚させたくなくて……罪人として処刑されるつもりだった」
「罪人になる前に、もし僕が『《魔王》に憑かれてる』なんて誰かに相談してたらさ。きっと最終的に『勇者である君が、責任をもって僕を殺さなければいけない』ってことになってたはずだ」
「でも僕は……君に『幼馴染』を、『兄』を殺させるなんて。そんな重荷を背負わせたくなかった」

「だから、凱旋式で、あんな殺人未遂事件なんて起こしてみせた」
……そう。殺人未遂、に収めるつもりだったんだよ。正気の上で、罪人になるためだけに、君を襲うふりをしようとしたのに……
「君に対して短剣を抜いた瞬間、心の奥底から、抑えきれない『何か』が湧いてきて――
――気が付いたら、僕は狂っていた」
「《魔王》に体の制御を奪われて、君を思いきり斬りつけていた」
「さっきだって、ふと気が付いたら……馬乗りになって、殺そうと……

「どうやら僕は、自分で思った以上に潔くなくて、自分勝手らしい」
「きっと本当は、『処刑』なんて嫌なんだ。本当は、たとえ君に重荷を背負わせることになっても、僕はアレンの手で……

アレン:「……っはは」
「やだな、兄さん。僕は兄さんを殺さないし、殺させないよ。そう手紙に書いたじゃないか」

兄さんの瞳は真っすぐに僕を捉えている。だから、反らさず受け止めた上で力強く笑う。

「僕は世界の望む『勇者』だ。だから、兄さんを死なせないし、兄さんの感情の全部を背負って一緒に生きていく」

「けど」

「もし、もしもだよ。本当に、それ以外に手が無いって言うなら」

痛みを堪えて、無理やりに左手を動かす。
握力がかなり弱くなってしまった左腕は、僕の上に乗った兄さんを抱き締めるどころか、そっと手を寄り添わせるくらいしか出来なかったけど。それでも温もりを伝えるには十分だろう。

「僕が必ず、この手で」

クイン:「アレン、今その剣をとっていいんだ。本当に僕が狂ってしまう前に」

左手のぎこちない動きを見て、申し訳なく眉を下げてうなだれる。まるでその首を差し出すように。

「僕は確かに、君の手で死にたいし、僕の手で君を殺したい。それを、理性でぎりぎり抑え込んでいるだけだ」
「君の傍に、こんな男がいることが耐えられない」
「君に死んでくれとはもう言わない。それを言うことは、僕自身が許せない」
「ただ、願わくば、どうか僕を君の手で――

GM:……殺してくれ、とクインが唇を動かした瞬間。

かくん、とクインの身体が不自然に傾く。
気が付けば、クインの両の手が、あなたの首をすさまじい力で締め付けていた。
あなたを覗き込むクインの瞳には、またしても、《魔王》の暗い影が明確に蠢き始めていた。

クイン:「――殺してやる。殺してやる! 何が勇者だ、愚か者めが!」

GM:そう哄笑する目の前の彼は、もうあなたが知るクインではない。《魔王》だ。

アレン:一瞬で分かる。
今僕の目の前に居るのは、あの時刃を交えた存在……魔王だ。

こいつが、兄さんを追い詰めたんだ。
例え兄さんがどんな感情を持っていようが、僕は構わなかった。
それを律せないほど弱い兄さんじゃなかったはずだ。
兄さんがその感情に突き動かされるように仕向けたのは、こいつだ。

苦しみよりも先に、兄さんに向けなかったぶんの怒りがこみ上げ、僕は剣を握った右腕でその手を振り払おうとする。

GM:次の瞬間、自室の扉がバタンと開き、兵たちがなだれ込んでくる。
兵たちの先頭にいたアデラが、あなたとクインの様子を見て悲鳴を上げる。

「アレン! くそ……っ、罪人を勇者から引きはがせ!!」

近衛兵が直ちにあなたとクインを引き離し、罪人であるクインを乱暴に部屋の外へと連れていく。
殺してやる、と彼の声で叫ぶ「なにか」が、遠ざかっていく――

アレン:一瞬とは言え締め上げられた喉がひどく痛む。
息が詰まって、咳き込みながらも僕は入って来たアデラに礼を告げた。

「あり、がとう……アデラ……
「危ない、とこだった」
「けど」
「まだ、兄さんは完全に魔王に飲まれた訳じゃない。兄さんと、少しだけ話が出来たんだ」

……兄さんは、僕に」
「殺してくれ、って……

アデラ:「えっ……

絶句する。
好いた者に「殺してくれ」と頼むなんて、自分の常識に存在しなかったからだ。

「それ、は……アレン……

言葉が見つからず、視線を彷徨わせる。

アレン:「……大丈夫」
「もし、それしか手段が無いなら。僕は、それも受け止めるよ。それが、兄さんの望みなら」

窓の向こうを見上げる。兄さんの想いを照らした日の輝きはまだ遠く、冷たい月明かりだけが水のように部屋を満たし、冷やしていた。

アデラ:「……そうか」
「きっと、私でもシンシアでもだめなんだな。アレンじゃなきゃだめなんだ」
「本当は代わってやりたいけど……私は、アレンも、クインも好きだから……二人が一番いいのが、きっといい」

アレン:アデラの言葉に、微笑みだけを返す。
大丈夫、代わってなんて言わないよ。

勇者に代わりが居ないように。
兄さんの愛する人間にも、代わりは居ないからね。

GM:事後処理がすべて終わって、また君は自室で一人になった。
アデラたちは心配そうにしていたが……今下手に声をかけるのも、と気を遣われたらしい。
――実際、少しばかり、一人でいたほうがいいだろう。
あなたには今、考えなければいけないことがあるのだから。
明日の昼に、クインは処刑される。
すべての事情と、クイン自身の意思を知ったうえで……あなたは今、クインをどうしたいだろうか?
彼に『生きていてほしい』だろうか。それとも、彼を『殺したい/殺してやるべき』だろうか?



王城近くの大広場に、断頭台が据えられている。
今日、クイン・カレンデュラは「勇者を害した裏切り者」として、ここで公開処刑されるのだ。
そのせいか、城の中も城下町も、どことなく浮足立って、ざわついている。

アデラ曰く、クインが《魔王》憑きである可能性は、一般には公表していないらしい。
民衆にパニックを起こさせないためとのことだ。
そして、クインに取り憑いているのは、あくまで《魔王》の残滓。
断頭台付近に結界を張り、聖別された刃で取り憑かれた者の首を落とせば、勇者でなくとも滅することができる……と、神殿は判断しているらしい。
……つまり、勇者であるあなたも、必ずしも処刑に立ち会う必要はないということだ。

やがてあなたは「クインの処刑に立ち会うか、立ち会わないか」を問われるだろう。
……あるいはあなた自身が望むなら、もちろん、「あなたの手でクインを処刑する」ことも可能だ。

【行動の選択】
B:綴り人の手で処刑を行う

アレン:僕は今、処刑場に立っていた。
見物席ではなく、処刑台の上の方だ。
右手には勇者の剣が握られている。

人々はこの有様を見て、僕を「悲劇の英雄」と呼ぶかも知れないし、「怒りの断罪者」と呼ぶかも知れない。けど、そんな事は僕にはどうだっていい。

勇者の剣は、魔王を倒す為のもの。それなら、この剣で魔王だけを兄さんから切り離し倒せはしないか。それを僕はずっと考えて来た。

僕は最後まで奇跡を諦めるつもりはない。
そしてそれが叶わなかった時の責任も負う気でいる。

GM:奇しくも凱旋式の日と同じ、抜けるような青空が広がっている。
処刑場となる広場の、その中央。
あなたはそこで、勇者の剣とともに、静かに時を待っていた。

やがて、ゴォン、ゴォンと正午の鐘が鳴る。
処刑の時間だ。
……群衆のざわめきが聞こえてきた。罪人であるクインが姿を現したのだ。
クインが処刑場の端に引き立てられると、早く罪人を殺してくださいと、あなたへの懇願と期待の声が群衆の中に渦巻きはじめる。

その中にあって、クインは、ただぼうっとした表情で佇んでいた。
誰かを探すように、その場から見渡すように視線を走らせ……
……不意に、あなたと目があった。

彼が目を見開いて、にこりと微笑んで口を開く。
距離があるから、聞こえるはずもないのに――彼が何を言ったのか、はっきりとわかった。

クイン:「会いに来てくれたんだ」「今行くよ」

GM:その時。ごう、と目も開けられないほどの突風が吹き……
次に目を開いた時には、目の前には、幼馴染であるクイン・カレンデュラその人が佇んでいた。

今、クインの瞳の中では……昨夜見たクイン自身の炎と、《魔王》の影が、葛藤するように戦っている。

クイン:「アレン。さあ――僕を殺してくれ」

GM:彼は、絞り出すような声でそう告げる。
《魔王》に呑まれる前、クインに声が届くなら、今この時が最後ではないか。直感的にそう思った。

GM:ここで、綴り人が自分の意思で【クインを殺すか、生かすか】を選択してください。
これ以降、この選択を覆すことはできません。
ロールプレイの中でクイン自身に、綴り人自身の言葉で、綴り人の選択を告げましょう。

アレン:「ーーーー兄さん」
「これが兄さんの為になるか、僕には分かんないけどね」

「それでも僕はやっぱり、兄さんを殺したくないし、死んで欲しくなんか無いんだ」

「ねえ、兄さん」
「僕と一緒に生きてよ。僕、兄さんの事が大好きなんだ」
「優しい所も、繊細な所も、芯が強い所も好き。それと同じくらい、弱くて不安定な所も、黒くて独占欲が強い所も、これから愛させて欲しい」

「僕はまだ兄さんを知らない。だから、生きてそれを全部僕に教えて」

GM:あなたが告げた言葉に、クインは大きく目を開く。
その瞳が大きく揺らぎ……くしゃりと、今にも泣きそうに表情が歪む。

クイン:「……どうして。僕は、君を殺したくてたまらないと、あれほど言ったじゃないか」
「なのに、どうして……どうしてそんな甘いことを、いまだに……!」

GM:あなたはクインの瞳の《魔王》の影が、ろうそくの炎のように消えかけていることに気が付いた。

……ふと、昨夜のやり取りを思い出す。
《魔王》は、クインの「綴り人に対する悪感情」をもとに取り憑いた、と言っていた。
それでは、クイン自身の綴り人に対する悪感情がゼロに近くなれば、クインの身体から《魔王》の残滓を弾き出すことも可能ではないのだろうか?

GM:嘘だってなんだっていい。
今この瞬間、一時的にでもクインの悪感情を滅することができれば……
きっとクインを生かしたまま、《魔王》を滅ぼすチャンスを掴める。

あなたの前で立ち尽くすクインに対して、あなたは――

アレン:「兄さん。あれから色々考えたんだけど」

「僕、兄さんが好きだ。家族としての好き以上に、恋愛的な意味で」

左腕を少しだけ持ち上げる。
お揃いのブレスレットは今も変わらず僕らの腕に輝いていた。
太陽に透かせば、あの日ランプの下で見たよりずっと明るく眩く光を照り返す。

「普通は恋人が家族になるんだろうから、順序が逆かもなんだけど」


「僕を弟じゃなくて、兄さんの恋人にしてください」


そこで僕は勇者の剣を鞘に納め。
ようやく空いた右腕で、思い切り兄さんを抱き締めた。

GM:ここで〈運命の梯子〉が下りてきます。
運命の判定を行いましょう。


【運命の梯子の結果】〈奇跡〉


クイン:「――……

アレンが投げかけた言葉を、揺れる瞳で聞いていた。
それから、震える唇でこう囁く。

「嘘だって、なんだっていい。でも……君の言葉を信じたい」

GM:そして、ガクン、とその身体が傾き――
どす黒い瘴気が、クインの身体から洪水のようにあふれ出る。
それが――クインの頭上に淀み、実態を持った人型を形成していく。

GM:クインは一度その場に崩れ落ち……しかし、即座に立ち上がる。
彼はパニックを起こしている警備兵の剣を拝借し、すらりと鞘から抜き放った。

クイン:「アレン。もう一度、僕を信じて背を預けてくれないか」

GM:その言葉の裏で、人型の瘴気――《魔王》の残滓があなたに襲い掛かろうとしたが……クインはそれを、剣の一閃で弾き飛ばす。
……それは、あなたがずっと見てきた、信頼する幼馴染の姿だった。

アレン:「もう一度も何も」

僕も再び、鞘に納めた剣を抜く。

「僕は兄さんを疑って憎んだ事なんか無いってば。何かしらの理由があるに違いないだろうな、とは思ってたけど」
「僕はずっと、兄さんの優しさと強さだけを信じてた。闇に負けたりなんかしないってね」

いつもそうしていたように、左手を伸ばす。握力が弱まっているからいつもみたいに力強くは出来なかったけれど、こつりと兄さんの左腕にブレスレットを触れ合わせる。

「だから、行こう」
「二人で、魔王を倒しに!!」

クイン:情けないところばかりを見せてしまったのに、まだ兄だと慕ってくれる。嬉しいやら情けないやらで胸が痛い。
先ほどの言葉についても色々聞きたいことがあるんだよ?

でも、今じゃない。

僕はアレンの騎士なのだ。
アレンを害そうとするものを屠る者だ。
今はアレンを護ることが僕の使命だ。

「ああ!君は下がって!」

そう言って前に出て行く。
腕が重怠そうなことは、さっきブレスレットをぶつけたときにわかっていたから。

昔、ひとつの街を救えなかったことがあった。好きな人の傍にいたいだけで僕が騎士になってごめんなさいと、誰にも言えずに懺悔した。
それから稽古を重ねた。あのとき共に泣いていた、好きな人の涙をもう見ないために。

「アレン!」

《魔王》に斬り込む中、不意に隙ができる。
ここを、勇者の剣で……

アレン:名前を呼ばれるだけで、兄さんの意図する所は分かった。
返事の代わりに、口元に笑みを湛え大きく首を縦に振る。

最早派手な魔法を撃って来るだけの力は魔王に残されていないようだ。ある程度の攻撃は先程すべて兄さんの手で往なされている。
神官の人達が予め張ってくれた結界のおかげで、街の人々に戦いの余波が及ぶ事も無い。
シンシアとアデラが視界の端で避難誘導をしてくれているのも目に入ったし、誰かが僕に向かって声援を送るのも聞こえた。

ああ、皆、ありがとう。
これが終わったら、僕は『勇者』を辞めて、ただの『アレン』として兄さんの隣に在る事を選ぶつもりだけれど。
皆のことも、きっと忘れないからね。

漆黒の闇の波動が地を穿つ。
すっかりと毒が抜け軽くなった身体でその攻撃を躱し、僕は高く高く、鳥のように翔び上がる。

そして、太陽の下に色濃く浮かび上がる闇に向け、勇者の剣を振り翳し。

「これで本当の終わりだ、魔王!!!!」

白金のきらめきの下に、世界の敵を一刀両断する。


人は誰だって闇を抱えている。僕だって、兄さんだって。
それらが凝り固まって、魔王はこれから先も何度だって生まれてくるんだろう。

だけれど、それは闇に飲まれる理由にも、屈する理由にもならない。
もちろん、不必要に閉じ込め蔑視する理由にだって。

闇だって、人の心の大切な一部だ。
だから僕は、兄さんの抱えた暗い部分をも等しく愛し、それを受け止め続けようと思う。
見つめることで、愛することで、闇もまた安らぎの夜に変わるはずなのだから。

GM:人型が真っ二つに裂ける。
太陽の光の下、黒い霧は霧散していった。断末魔も残すことがなく。

こうして、《魔王》復活騒動は、アレンとその騎士・クインの活躍によって幕を下ろした。

GM:クインはその功績をもとに、国外追放に減刑される。
……予定だったが。
アレンの訴えにより、二人の故郷の村へ戻ることになった。アレン自身が監督すること、また、アデラやシンシアの口添えが大きく働いた。
王都から遠く離れた村には、首都の騒動はまったく伝わっていない。二人は昔の通りに暮らすことができるだろう。

いずれにせよ……今、クインは、あなたの隣に寄り添い微笑んでいる。

クイン:「……ねえ、アレン。忘れたわけでは、ないよね」

GM:……なんのことか、とはクインは言わない。
しかし彼は当然のように身を寄せると、その手で、あなたの首筋を包むように撫でる。
危うさをちらつかせながらも、彼は、穏やかにあなたに笑いかける。

――もう、何も知らない頃には戻れないかもしれない。
だけどあなたは選んだのだ。この厄介な幼馴染と、共に生きていくこの道を。

アレン:「あの、兄さん……くすぐったいんだけど……

そう返して、こそばゆさから逃げるように身をよじらせたら、兄さんは少しだけ不機嫌そうな顔を見せた。
ああ、駄目だな。まだ「兄さん」って呼んじゃう癖が抜けない。あれから二ヶ月も経ったのにな。

「ん、ごめんね。…………クイン」

相変わらず僕らは家族だけど、もうただの「兄弟」じゃないからね。
名前で呼ぶって約束したんだ。

クイン:「ん」

満足したように笑って返す。

……本当はそれだけじゃないんだけどね。
殺してしまいたい。閉じ込めてしまいたい。
そんな気持ちがなくなったわけじゃない、けど。

嫌いだけど、大嫌いだけど。それ以上に好きで好きで好きで仕方ないのだから。
一緒に生きて、とワガママを言うのだから。
全部知った上で僕を愛していると言うのだから。

僕は結局、アレンのワガママには弱いんだ。昔から変わらず。

「怒ってないよ、少し……拗ねただけ」

ゆっくりと寄り掛かった。
こうやって弱さをちょっとずつ見せられるようになっていけばいいな。

アレン:「……ふふ」
「でも、拗ねるクインも可愛い」

思わずふにゃりと頬が緩んだ。
「勇者」だった時にはほとんど見せられなかった、脱力しきった笑顔。
シンシアもアデラも知らない、クインの前だけで見せる「アレン」の顔だ。

「ねえ、クイン」
「僕さ、今度行商の人が来たら欲しい物があるんだ」

クイン:「……可愛いは……いいけど」

弟分に言われるのはまだ慣れなくて、口をもにょもにょさせる。結局嬉しいから、ほんとにいいんだけど……

「うん?なぁに?」

お揃いの腕輪を撫でながら聞いた。

アレン:腕輪を撫でるクインの左手を取り、そのまま彼の薬指に軽くキスをする。
そして、ここぞとばかりにおねだりをするんだ。

「おたがいのここに嵌める指輪が欲しいんだ。もちろん、お揃いのやつね?」

何にも知らない村の皆は驚くかもな。でも良いんだ。
これは、兄弟だった僕らが恋人になって、そしてまた新しい家族になるために必要なことだと思うから。

平和を取り戻した世界で、幸せを目いっぱい享受して、僕達はこれからも光と闇の狭間で生きていく。僕らが終わるその日までずっと、二人一緒に。

その誓いを、目に見える形で立てたいんだ。

クイン:暫く硬直する。

……アレン……僕、死んでしまうかと思った……

やっと呟けたのがこれだ。
驚き過ぎて息が止まってしまうかと思った。

アレン:「あっはは、やだなぁ!僕はクインを殺さないって前も言ったじゃん」

軽く笑って、その後でグッとクインに顔を近付ける。

「死なせないよ?生きて、もっともっと、僕を感じて貰うんだから」

『勇者』はもう辞職したからね。だったら、こんな風に少しだけ欲張りな僕の事も、受け止めて欲しいな?

クイン:「だって、ねえ……そんなませたこと、どこで覚えてきたの。誰かに吹き込まれたの?」

思い切り眉を吊り上げる。
いつか、腕輪を行商で買った時。お揃いのブレスレットを「恋人みたい」って言った時のアレだって、こんな風に詰め寄りたかったんだよ。

「僕の知らないアレンを出すときは予告してよ」

よくわからない上に相当な無茶を言っている自覚はある。

アレン:「んー?別に、誰からも聞いてないけど……クインが好きだなあって思ったら、自然に体がこう動くって言うか……

クインは最近、僕の前でよく表情を変えるようになった。
元は穏やかに笑っている事が多かったけど、今の拗ねたり怒ったりするクインも僕は大好き。僕だけが受け止めることを許されたクインの感情だもの。愛しくて堪らないんだ。

「わかった。じゃあ、今から予告するね」
「キスしてもいい?おやすみのキスじゃなくて、恋人がするやつ」

クインの唇に人差し指を這わせる。
指先に触れる熱が心地よくて、クインの許諾の声も聞かないのについ顔が近付いてしまう。

クイン:「予告ありがとうね……

僕の無茶ぶりを苦も無く付き合ってくれる姿に、申し訳なさが湧いて照れてしまった。
素直になるのは慣れないけど心地好くて、はまってしまいそう……もうはまっているのかもしれない。

「でも、僕が先。アレンにやられたから、仕返しが先」
「指輪、欲しい。アレンのは僕に嵌めさせて」

アレンの左手を掬いあげ、薬指にキスを――してから、口を開いて甘く根元に噛み付いた。
白い肌に薄らと歯形が残る。仄かなピンク色は、それほど経たずに消えてしまうものだろう。それでも、“今”の僕は満たされる。

「ふふ、はい、僕が恋人にするキス。アレンもするの?どうぞ?」

悪戯に笑って瞼を伏せ、唇を突き出した。

アレン:「~~~!!ず、ずるい~~~!!」

そう言うとこほんとずるい!
いつも年長面して余裕で僕の上を行くんだから、もう!仕返しって何さ、たまには勝たせてくれたって良いじゃん!!

けど……
やっぱり、クインのそう言う所も大好きなわけで。
痛みと共に刻まれた薬指の痕をうっとりと右手で撫でた後、差し出された唇にそっと自分のそれを重ねる。

しばらく啄むように味わった後で、まだ睫毛が触れ合うような距離でクインに微笑んだ。

「じゃあ、約束。次の市には一緒に行って、二人で指輪の交換しようね」

クイン:「ふふふ、かわいい」

ちゅっ、と軽い音を立てて唇を重ねた。
弟にする親愛のキスとは違うそれは、甘くも苦くもあり、とても背徳的で。なんとも癖になる心地だった。

拝啓、大嫌いで愛しい英雄(きみ)へ。

ずっとずっと、これからも好きで、嫌いで、いさせて。
僕を夢中にさせてね。

クイン・カレンデュラより。