enoki181
2023-10-04 18:14:14
35656文字
Public リプレイ
 

【:プレイ・バイ・レター】拝啓、大嫌いな愛しい英雄(きみ)へ(アレン×クイン)【リプレイ】

GM:エノキ PL:まるさん
シナリオ※シナリオ集内 https://booth.pm/ja/items/4165528


●文通フェイズ/3日目

――微睡の中に、過去の記憶の夢を見る。



これは、いつの日だったか。少なくとも、故郷で、あなたとクインが平凡な暮らしをしていた頃。
近所の猫がいたずらして、クインの文机に、インクをぶちまけたことがあった。

机の上の大惨事を発見したクインは「ああー……」と苦笑しながら、インクで真っ黒に染まった紙を、順々に窓に貼り付け始める。
なにをしているのかと尋ねると、彼はこう答えた。

「絵具とかを塗り重ねると、塗り重ねた部分だけ色が濃くなるよね? インクも、ものによっては『重なった部分だけ濃く見える』ことがあるんだ」
「だから、こうやって光に透かすと、インクが重なって濃くなった部分だけ浮かび上がって……インクをこぼす前の文字が読めたりする」
「もちろん、滲んじゃったりしてるところもあるし、全部の文字が読めるようになるわけじゃないけどさ。こういう時の応急処置なら、何とかなることも多いよ」



……そこで、あなたは目を覚ました。いつの間にか城に用意された自室のベッドに寝かされていた。
インクをこぼした手紙。ずっと昔の、忘れていた記憶。
もしかして、昨日届いた手紙のインク染みの部分も、同じ方法で読めるのではないだろうか?

アレン:瞳を開けると、知っている天井が僕の上に広がっている。
寝ている間に、誰かが王城まで運んでくれたようだ。
首を少し傾けると、サイドテーブルには兄さんからの手紙があった。そう言えば昨日読んだ後、開きっぱなしにしたままだったっけ。

インクで上半分が読めなくなった手紙。
それを見て僕は飛び起きる。

先程の夢。インクで読めなくなった文字の読み方を、兄さんはかつての僕に教えてくれた。
だとしたらこの漆黒の下に、兄さんの伝えようとした事がまだあったはずだ。

壁に手を突きながら、窓に向かう。南向きの部屋はちょうど眩い陽射しが射し込んでいた。僕は恐る恐る、ガラスに手紙を張り付けるようにして光の下に真実を明かそうとする。

ーーーーー

拝啓、愛しいアレンへ

性懲りも無くまた、愛しい、と綴っていた。無意識とは怖いものだね。

あのような手紙を送ってしまって申し訳ない。それなのに返事をくれたこと、とても嬉しく思っているよ。
傷はすまない本当に馬鹿なことをした。ただ、日々の暮らしを送ることはできそうで安心しています。故郷に帰って普通に生きていくことはできるんだね。
早く起き上がれるまで、ううん、それ以上に回復することを願っています。

君が謝ることはなにもないんだよ。僕の責任で、なのにまだ兄と慕ってくれることが、どうしようもなく胸を打つんだ。
アレンは本当に強くなった。幼い頃、病気に震えてベッドに沈み、僕の名を弱々しく呼び頼る君の姿を思い出せるのに。なんだか不思議な気分です。僕の思い出の中のアレンはずっと小さくて可愛い弟のままみたい。もう勇者様で、僕の痛みを受け止めたいなんて格好良いことも言ってくれるのにね。

ああ、今の君に会いたいな。きっと許されないし、叶いもしないだろうけど。
アレンとお揃いのブレスレット、牢屋でも取り上げられなかったんだよ。アデラかシンシアが掛け合ってくれたのかもしれない。嬉しくてね、日に何度も見ているのだけど。これに願ってみることにしようか。
けれど、もし、叶うとして。僕自身が迷ってしまうかもしれないな。君と顔を合わせたとして、

(ここで不自然に文字か途切れている。インク染みの下は昨日読んだ通りの文章が続く)

ーーーーー

GM:光に透かして読んだこの文面はまさに、あなたの知る「クインらしい」内容だった。
やはり1通目の手紙も、2通目の手紙の後半も、何かがおかしかったのだ。
しかし、どうしてこの内容がインク染みで読めなくされていたのだろうか?
それに、今日の分のクインからの手紙が届いていないのも気にかかる。
何かあったのだろうか……
クインからの手紙を待つ間、頭の整理をするために散歩をしよう。
さて、どこに行こうか。

【行動の選択】
・アデラに話を聞く

アレン:手紙を読んだ僕の唇から溢れたのは、慟哭の声。

一度でも兄さんを疑った自分を恥じた。
兄さんをあの瘴気の嵐から救えなかった事を後悔した。
そして、優しかった兄さんが闇に蝕まれつつある事実に心から憤った。

この手紙は間違いなく、僕の知る兄さんからだ。インクに塗り潰されていたのは、兄さんの中に荒れ狂う闇の仕業に違いない。
だとしたら、まだ希望はあるはずだ。兄さんはまだ、「生きている」のだから。

そうと分かれば、泣いている暇はない。
兄さんからの手紙がまだ届いていない事が気掛かりだけれど、その間に何か打てる手が無いか探してみよう。

そうだ、アデラ。王族である彼女なら、何かこの事態を打開する情報を持っているかも知れない。
腹が決まった後は早かった。素早く着替えを済ませ、僕は立ち上がる。
枕元に松葉杖が置かれていたのは、僕がこの事態にジッとしていられる人間ではない事を察した優しい誰かの配慮だろう。
有り難くその気持ちを受け取り、僕はアデラの下に向かうべく一歩ずつ歩み出した。

GM:アデラを訪ねると、彼女は酷く動揺した様子であなたを迎え入れる。

「すまない、今日はクインの手紙を受け取りに行けていないんだ。忙しくて……

自然と話に上がるのはクインのことだった。彼女は以下のことを語る。

・クインは恋愛的な意味で綴り人のことが好きだった。
・直接はっきり聞いたわけじゃないけど、視線とか所作とかアレンとそれ以外への反応の違いとかからして、絶対にそうだ。
・だから、今回の事件で殺そうとしてきたのは絶対おかしい!

あなたと喋る彼女の口ぶりは、どこか上の空だった。
指摘されれば、ハッとして謝ってくる。

……また後で、部屋に会いに行くよ」

そう言って彼女は去ってしまった。
その後、あなたはしばらく散歩をしてから部屋に戻ります。
まだ、クインからの新たな手紙は来ていない。
明日には、クインは処刑される予定だ。

どうしようかと思ったとき、アデラとシンシアが部屋を訪ねてきた。ふたりの顔は、妙に暗い。

……アレン。神殿の話、聞いたか……? 《魔王》がどうこうって話……

アデラは、次のような内容を語り始める。

・神殿は今朝、王家に対して、《魔王》の残滓が残っている可能性を報告した。
・その結果王家は、その《魔王》の残滓がクインに取り憑いていると疑っている。
・ただの錯乱なら、処刑の延期などを嘆願することもできた。しかし《魔王》が取り憑いている疑いとなると、アデラやシンシアたちがどれだけ頼んでも駄目だった。
・王家は、クインの処刑を明日決行することに決めてしまった。

「文通するように頼んでおいて、こんなことになって本当にごめん」
「でも、よければ、今日もなにか手紙を書いてやってほしい」
「少なくともクインは、昨日も一昨日も、アレンの手紙を届けた時は本当にうれしそうで……前みたいに穏やかな表情をしてくれてたんだ」

アデラとシンシアは、泣きそうになりながらもあなたに頭を下げる。
これが綴り人がクインに手紙を送れる最後の日です。明日には彼は処刑されます。
「2通目の手紙の前半」の文面や、処刑前日であることを踏まえて手紙を書き、クインに送りましょう。

アレン:アデラに会って話を聞いた後。
僕は自室に戻り、彼女から聞いた話をぼうっと脳内で反芻していた。

(兄さんが、僕を、好き)
(幼馴染としてでも、弟としてでもなく。恋愛的な、意味で)

緊急事態だって言うのに、そんな事で頭がいっぱいになるなんて我ながらどうかしてると思う。
けど、こればかりはどうしようもない。僕は今まで、そう言う恋愛沙汰らしいものにはひとつも縁が無かったんだから。
兄さんからの視線だって、本当に意識していなかった。僕は兄さんを「兄さん」としてしか見ていなかったんだもの。

兄さんの事は何でも受け止めるつもりだったけど、これは想定外過ぎて脳が処理しきれていない。
送られて来た二通の手紙の冒頭の「愛しいアレン」の文字を眺め、何だか頬が熱くなって来るのを感じた。ーーいや、きっとそう言う意味じゃないと思うけど。うん。

持て余していく熱を一気に冷ましたのは、部屋に飛び込んで来たアデラとシンシアの声。


『魔王の残滓に取り憑かれてしまった以上、明日行われるクインの処刑はもう回避できない』


二人の言葉で、全身の血が凍り付いたような気がした。



「いやだ……

「いやだ、いやだ!」

二人の前でそう叫んだ僕は、きっと聞き分けの無い子供のような表情をしていただろう。こんな事を言ったって、アデラとシンシアをいっそう困らせるだけって分かってるのに。
二人だって辛いに決まってる。兄さんの為に周囲に必死に掛け合ってくれた二人が今、無力感に苛まれているであろうことも察しが付く。
なのに、そんな二人の気持ちを推し量って感情を制御すると言う事が、今の僕には出来なかった。
こんな時きっと兄さんがいてくれたら、
(アレン、落ち着いて。大丈夫だから)
って言って、背中をとんとんって叩いてくれたんだろうな。

けど、兄さんはここに居ない。ここに居ないどころか、明日には永遠にこの世界から消えてしまう。
僕がきちんと魔王を倒しきれない、不甲斐ない勇者だったせいで。僕は、兄さんを…………


涙を浮かべ、やり場のない慟哭に肩を震わせる僕を責めるでもなく。
二人は僕に向かって頭を下げる。

「こんな事になってごめん」って。
「良かったら、クインの為にも手紙を書いて欲しい」って。

二人の目元にも僕と同じように涙が光っていた。


(手紙……そうだ)
(僕がここで泣いて折れたら、誰が兄さんを助けられるんだ)
(魔王を倒し、世界を守るのが勇者の役目だと言うなら)

(僕にもまだ出来ることが、きっとあるはずだ!)

兄さんは僕のたった一人の大切な家族なんだ。
まだ兄さんとは話したい事、やりたい事が沢山ある。
世界を救ったはずなのに、その世界の為に兄さんを殺すなんて、そんな事認めてたまるもんか。

今はただ、兄さんが絶望して完全に闇に飲まれてしまわないよう、呼び掛け続けることしかできない。けど、その呼び掛けが「奇跡」を紡いでくれるかも知れないなら。


勇者である僕は、最後の一瞬まで諦めず、足掻き続けて見せる。


最早、左手の傷の痛みなんてどうでも良かった。
ただ、兄さんを死なせたくない一心で、僕は机に向かいペンを走らせる。アデラとシンシアがそんな僕を見つめ、心配そうな表情を浮かべたのが見えたから、今度こそは
「心配しないで」
と僕の方から笑って見せた。

「大丈夫。僕は世界を救う勇者なんだから」
「最後まで、奇跡と自分の可能性を信じてみるよ」


ーーーーー

前略 世界で一番愛している兄さんへ


昨日、兄さんがくれた手紙をもう一度読み返しました。
昔、猫がインク壺を書類の上に倒してしまった時、兄さんは日の光に透かして元の文字を読む方法を教えてくれましたね。
昨日はインクが掛かっていない部分しか読めていなかったので、あんなお返事になってしまってごめんなさい。意味が通らず、兄さんを困らせてしまったかも知れません。
だけれどようやく、いつもの兄さんの声が聞けた気がして、とても嬉しかったです。

兄さんは僕に会わせる顔が無いと思っているのでしょうか。
でしたら僕の方から、笑って兄さんを迎えに行きます。兄さんの負い目が消えるくらい、横で笑っていたいと思います。
最初の手紙に綴ったように、僕は許されるならこれからもずっと兄さんと一緒に生きていきたい。
僕達のあの村に戻って、エドさんやマリーおばあさん、それにジョンやセーラ、村の皆と一緒に穏やかな暮らしを続けて行きたい。
心からそう願っています。もう剣が持てなくても、兄さんの手を握れるなら僕はそれで充分なのです。

兄さんは今、自分の運命を受け入れて死に救いを見出しているのでしょうか。或いは恐怖や自責や絶望に苛まれ、苦しんでいるのでしょうか。
そんなあなたを今すぐ抱き締めて「大丈夫だよ」と言ってあげる事ができないことが歯がゆく、また不甲斐なく感じています。

だけれど、どうか世界を救う勇者を、あなたの弟を、今一度だけ信じて下さい。
僕は皆が宿命を受け入れようが、万策が尽きようが、あなたと僕の命が尽きる瞬間まで、僕らの未来を諦めないつもりです。

酷な事を言っている、と言うのは僕も重々承知の上です。
一度受け入れた運命に希望を持たせる方が、苦しみを長引かせる事もあるのですから。

だけれど僕は、魔物達の手から焼ける街を救えず涙を流したあの日から、いついかなる時でも迷わず、守るために右手を伸ばすと決めているのです。
僕を勇者だと見出してくれた、勇者の剣があるでしょう?
あの剣の輝きに懸けて、僕は兄さんを蝕む闇から必ず、兄さんを救い出しに行きます。

僕はまだ、兄さんにきちんと告げていないひとつの大切な言葉があります。
それは先の手紙に記したように、便箋に書き出したら何枚になるかも分からないほどの大きな大きな想いです。
きっと口にしたら、ほんの数秒にも満たないほどのフレーズになってしまうのでしょう。
だけれど、それを兄さんに必ず、直接会って伝えに行きます。
だから待っていてください。

僕は世界を救う勇者です。
それ以前に、あなたを想う家族です。

あなたの為に、僕は最後まで奇跡を願い続けます。
そして必ずや、奇跡をこの手で起こしてみせます。


それまでどうか負けないで、兄さん。



あなたを照らす光になりたいと思う男 アレン・ヴェルヴェーヌ

ーーーーー



太陽に透かされた闇色の便箋の向こうに浮かび上がる、優しい兄さんの文字。
今は僅かに持ち上げることしか出来ない左腕だけど、日の光はあまねく部屋中に射し込んで、僕の手元の紅いガラス玉を輝かせた。

あの太陽が沈み再び上がって中天に差し掛かる時、兄さんは処刑台に登る事となるだろう。
だけれどその最後の瞬間まで、僕は運命に抗ってみせるよ。


光があれば必ず闇は生まれる。
だけれど、闇が生まれるからと言って光を望まないなんて選択を、僕はしたくない。

どんな状況でも、僕は光だけを見つめていく。

GM:明日の正午、クインは処刑される。
何かやっておきたいこと、考えたいことはあるだろうか。
……しかし、いまだ毒の後遺症に悩まされるあなたの身体は、もう限界だった。
あなたの意識は、ふとした瞬間に眠りに落ちていく……