enoki181
2023-10-04 18:14:14
35656文字
Public リプレイ
 

【:プレイ・バイ・レター】拝啓、大嫌いな愛しい英雄(きみ)へ(アレン×クイン)【リプレイ】

GM:エノキ PL:まるさん
シナリオ※シナリオ集内 https://booth.pm/ja/items/4165528


●文通フェイズ/2日目

――微睡の中に、過去の記憶の夢を見る。

これは、魔王討伐の最後……あなたが《魔王》を殺し、勇者としての責務を果たしたときの記憶。

《魔王》を斬り伏せ、あなたが荒い息を整えようとしたとき……

「アレン!」

必死の形相で、クインがあなたを突き飛ばした。
え、と思った瞬間に、《魔王》の身体から、黒い瘴気が爆発するように発散する。
刃の嵐のように吹き荒れる瘴気の中、クインはあなたを庇うように、じっと抱きかかえて……
すべてがおさまった時、ようやくあなたを解放した。
その頬からは、先ほどの瘴気で傷つけられたのか、赤い血が一筋垂れている。

……無事でよかった。これで本当に、終わりだね」

他の仲間たちが駆け寄ってくる中、クインはあなたに笑いかけ……



そんなところで、目が覚めた。
あれは仲が良かったころの……仲が良かったはずの、クインとあなたの思い出の夢。

今日も枕元にまた、クインの手紙が置かれている。
その横に、アデラから「気を落とさないように」と書かれたメモが置かれていた。
……要するに、気を落とすようなことが書かれているのだろうか。

溜息を吐きながら手紙を手に取った瞬間、あなたは奇妙なことに気が付いた。
今回の手紙は、インクをこぼしたような真っ黒な染みが、紙面の約半分程に広がっているのだ。

アレン:夢を見ていた。
魔王を倒した後、兄さんが溢れ出る瘴気から僕を守ってくれた時の夢。

瞳を開けると、身体は相変わらず重い。
左手の傷痕が訴えてくる痛みも、悪化こそしてはいないものの良くなっている兆候も感じられない。

(そう言えば、兄さんからの返事、もう来たかな……

首を少し傾けると僕の期待通りと言うべきか、サイドテーブルの上には一通の手紙が置かれていた。アデラからの「気を落とさないよう」と言うメモも。

ふふ、アデラはやっぱり優しいな。
大丈夫、僕は大丈夫だよ。
だって兄さんは、あの時確かに僕を守ってくれたもの。

本当に兄さんが僕を嫌ってしかいないなら、あそこで「瘴気に倒れた」って言い訳をして僕を見捨てる事だって出来たはずだもの。だから、何があってもまずは受け止めようと思うんだ。

ーーとは言え、やっぱり少しだけ怖いのは本当で。
無意識に小さな溜息が漏れる。

ああ、やっぱり僕はいつまで経っても根っこが意気地なしのアレンのままらしい。
腕の痛みとは別の理由で縺れる指を動かし便箋を広げると、その手紙には大きな染みが広がっていた。僕の心の不安を体現したかのように、白い紙面を染める黒。
一度大きく息を吐いた後で、覚悟を決めた僕は兄さんの綴った文字に目を落とす。

ーーーーー

(手紙の上半分は、真っ黒なインクをぶちまけたように大きな染みになっている。おそらく、手紙を書き終えた後にインクをこぼしてしまったのだろう)

あの狭く小さな田舎の村に、一緒に帰りたい?もし私がうんざりしていたとしても?
昔、村にキャラバンが来たことを覚えていますか。あのとき揃いのブレスレットを買いました。覚えているはずですよね。私が切りつけた左の腕、その手首に、ずっと嵌められていたのですから。
あの頃のあなたはいつも私について回っていました。元々鬱陶しくて仕方なかった。揃いの物を買うだなんて、冗談じゃないと思った。私を逃がさないつもりなんですか。どこで見ても、見る度にあなたを思い出すじゃないですか。
あのブレスレットが光ったから、だから、多分、咄嗟に左腕を狙ってしまった。

利き腕じゃなくて命拾いしましたね?動くんですよね?でも傷は一生残るのでしょう?
安心しました。私の望みがしっかりと叶うようで。
見る度に私を思い出すのでしょう?これ以上の仕返しもないのではと、とても自分で満足しています。

痛みを受け止めたいと言いましたね。
これが私の痛みです。驚きましたか。辛いですか。幼い頃のように泣きましたか。
どんな形でもいいのです。体だけではなく、あなたの心にまで傷が負わせられるのならば。

クイン・カレンデュラ

ーーーーー

GM:……奇妙だ。
クインの手紙に書かれた思い出の内容は、あなたもしっかり覚えている。
でも、こんなネガティブな思い出じゃなかったはずだ。
むしろあなたにとっては、クインとの大切な思い出のひとつだったのに……
あの時から、クインに見えていた景色と、あなたに見えていた景色は違っていたのだろうか。
それとも、クインかあなたか、どちらかの記憶が歪んでしまっているのだろうか?

アレン:兄さんの文字がぼやける。
まるで、兄さんと辿った幸せな日々の思い出が霞むかのように。
頬を滑り落ち便箋に落ちた僕の涙は、兄さんの綴った想いを次々と滲ませてしまう。受け止めると決めたはずなのに、情けない。

シンシアは言っていた。兄さんは、自身の本心を抱え込みやすい繊細な性格だって。
だとしたら、これが兄さんの本心なんだろうか。
今までずっとずっと、10年以上に渡って、僕は兄さんに我慢をさせてしまったんだろうか。僕の笑顔の裏で、僕の信頼の裏で、兄さんは苦しんでいたんだろうか。憎悪の炎を燃やしていたんだろうか。
だけれど相手が「勇者」と言う手前、憎しみをぶつけることすら出来ず、一人でその黒い感情を抱え続けていたんだろうか。
そう思ったら申し訳なくて、自分の無遠慮を何て詫びればいいか分からなくて、涙だけが零れてしまう。

「兄さん、ごめん、なさい…………

嗚咽と共に懺悔の言葉を呟いても、謝るべき相手は目前に居ない。
僕の手元に残ったのは、涙でふやけてしまった便箋と、思い出のブレスレットだけ。
兄さんの瞳の色をしたガラス玉が、僕の左手首で声も無く輝いている。責めるでもなく、ただ静かに。

………………でも)
(何か、おかしい気がする)

胸に湧く疑念。動く右腕で、グッと乱暴に目元を擦って無理やり涙を拭うと、僕は再び罫線の上に踊る文字を見つめ回想する。

(確かにシンシアは、兄さんが感情を内側に秘めやすい性格だと言っていた)
(けど兄さんはシンシアの前では、「それでも、僕はアレンがいるから頑張れる」とも言っていたはずでは?)
(パーティーのメンバーの手前、士気を下げないように感情を取り繕ったとも考えられるけど……

見れば見るほど、文面から感じられる兄さんの憎悪は凄まじい。
でも、それでも僕は

(これが兄さんの本心の全てだなんてまだ、信じたくない)

心の傷は痛い。身体の痛みなんかよりも、ずっと。
だけれど、もしかしたら兄さんはまだ他に何かを隠していて、それを言えずにいるのかも知れない。
或いは、魔王との戦いで瘴気を浴びたせいで、記憶が混乱している可能性だって捨てきれないじゃないか。
だったらまだ、絶望するには早すぎる。


(もし仮に、僕の事を本気で憎んでいたとしても……


それでも、出来れば兄さんには生きて欲しいって思うんだ。
僕が兄さんと居られて嬉しかったのは、何度も心を救われて来たのは、決して嘘じゃないんだから。
一緒に村に帰る事を拒むならそれでもいい。ただ、死んで欲しくない。
その為に今の僕が出来ることは、兄さんと対話する事。
何を言われたって、心がずたずたになったって、僕は兄さんの命を諦めたくない。


(癒えない傷でもいい。兄さんの言えなかった痛みを、僕は背負うよ)
(でも今はまだ、もう少しだけ僕らの絆を信じさせて。兄さん)

GM:……考え込んでいても仕方がない。
今日は少し体調も回復したし、頭の整理をするために散歩をしよう。
昨日話を聞けなかったもう一人に会いに行って、話を聞いてもよいし……あなたが世話になっている、神殿まで足を延ばしてもよいだろう。

【行動の選択】
・神殿に行く

アレン:腹を決めた後は早かった。
あちこち痛む身体を起こし、僕は手早く着替えを済ませると部屋のドアを開く。
まだ少しふらつくけれど、それより先にすべき事がある。

(昨日、シンシアは「神殿も何か隠してるみたい」って言ってた)
(もしかしたら、神殿の人に話を聞けば、この事態に関する情報が手に入るかも)

壁に手を突きながら重たい足を引きずって歩く僕を見て、王城の人達が口々に「勇者様、まだ寝ていなくては」なんて心配の声を掛けてくれる。皆、相変わらず優しい人達ばかりだ。
そんな彼らに僕は笑顔で、「少し身体を動かした方が楽なんだ」って嘘を吐く。
ごめんなさい、皆の優しさを無下にして。
でも、じっとしてなんて居られないんだよ。もう、時間は無いんだから。

僕の足は真っすぐに、神殿を目指していた。

GM:あなたはアスタリア神殿に足を運んだ。
あなたがこの前昏睡状態になった時も、神官たちがかなり尽力してくれたと聞いている。そのお礼でも、と顔を出してみたのだが……どうにも騒がしい。

「勇者様! もう出歩かれて大丈夫なのですか……!?」

魔王討伐の際に世話になった神官長が、あなたを見つけて慌てて駆け寄ってくる。
神官長はあなたを個室へと通すと、少し悩んだそぶりを見せ、「実は」と以下の話を切り出した。

・《魔王》が滅びたら砕けるはずの国宝の水晶が割れていない。正確には、ひびは入っているけれど砕けていない。
・もしかすると《魔王》の本体は倒れても、どこかに分身という形で《魔王》の残滓が残っているのかもしれない。
・《魔王》は人に取り憑き、悪感情を増幅させ自らの依り代にするという。周囲で、様子がおかしくなった人がいたら気を付けてほしい。
・《魔王》は「勇者の剣」に弱い。念のため、常に身につけておくようにした方がいい。

「魔物が出没したり、天候が変に荒れたりという話は聞きませんので、《魔王》の残滓が残っていたとしても、以前討伐を行った時よりは弱い状態だとは思います。だからすぐに勇者様にご報告しなかったのです。お身体も万全でないときに、ご心労をおかけしたくなくて……
「我々も調査を進めます。勇者様も、どうぞをお気をつけて」

神官長はそう言って、あなたに深く頭を下げた。
行動を終了した時点で、綴り人は体力が限界になります。これ以上動いていては、手紙を書いている余裕はなくなってしまうでしょう。
これまでのことを考えながら、好きな場所でクインへの返信を書きましょう。

アレン:神官長の話を聞き終えるなり。
僕はその場に立っていられず、座り込んでしまう。周りに居た他の神官達が慌てて僕を助け起こし救護室へと運んでくれたけど、僕の身体を襲う震えは少しも収まらなかった。

神官長の話には、心当たりしか無かった。

「魔王は人に取り憑き、悪感情を増幅させ自らの依り代にするそうです。もし、勇者様の周囲で様子がおかしくなった方がいらしたら、お気を付けください」

ああ、ああ。
嫌だ、信じたくない。
それが本当なら、今までと変わり果ててしまった兄さんは。

(魔王の分身に、なってしまった……?)

思い当たる場面があるとすれば、魔王を倒した直後のあの瘴気の嵐。兄さんは僕を守って、あの瘴気の直撃を受けた。
あの時に、もしかすると兄さんは魔王の残滓に取り憑かれて……


僕は勇者だ。勇者の剣を振るい、魔王を倒す為に在るものだ。
ならば、僕は『魔王』を、倒さねばならない…………


(嫌だ)


ベッドの中で、右の拳を震わせる。

そうだ、僕は勇者なんだ。アデラが、シンシアが、王様が、国中の皆が……そして誰より兄さんが認め、背を押してくれた勇者なんだ。

勇者とは勇気ある者。
どんな困難を前にしても怯む事無く、皆を守るために幾度だって立ち上がる者。

本物の魔王なら、斬る以外の方法では倒せないだろう。
けど神官長の話を聞くに、魔王の残滓は本体よりも弱いと言う。
だったら、僕は兄さんを、兄さんとの絆を信じたい。

「魔王を倒す為」ではなく、「兄さんを守る為」に、戦いたい!


救護室のベッドから無理やり身体を起こし、止める神官の人達に無理を言って紙とペンを用意して貰う。

仮に兄さんが僕を本当に嫌っていたなら、それでもいいと思った。
けど、それが兄さんの本当の気持ちじゃないなら。魔王によって歪められた可能性がある感情なら。

(本当の兄さんの声を聞かせて貰えるまで僕は、諦めるもんか)
(僕が、本当の兄さんを取り戻して見せる)

昨日よりは幾らかしっかりとした文字で、僕は手紙を綴り始めた。

ーーーーー

前略 僕の大切な兄さんへ


先程はお返事をありがとうございます。
兄さんの抱えた痛みはとてもよく分かりました。
正直を言えば、とても心が痛みました。身体の傷の痛みなんかより、ずっと。

だけれど、僕は兄さんとの対話を諦めません。
兄さんが例え僕の事を好いていようが嫌っていようが、僕の兄さんへの愛情も感謝も信頼も、前と少しも変わらないからです。

覚えていますか。僕がかつて、父さんと母さんの命を奪った流行り病に倒れた時の事を。
あの時、兄さんは何度も僕の名を呼んで必死に看病してくれましたね。「死ぬな」「生きろ」と、ずっと傍らで励ましてくれましたね。
あの言葉が無ければ僕は、とっくのとうに病魔に倒れて天に召されていたでしょう。こうして生きている事は適わなかったに違いありません。

覚えていますか。僕が旅の行商のアクセサリー店を見て「お揃いのブレスレットが欲しい」とねだった時の事を。
あの時は二人で選んで、お互いの瞳の色のものを選びましたね。兄さんの腕にも、紫色のガラス玉が付いたブレスレットが今なお嵌まっているかと思います。
このブレスレットは今でも、僕の宝物です。兄さんの優しい瞳を思い出させて、僕に勇気を授けてくれます。兄さんが与えてくれた温もりが、僕を勇者にしてくれたと僕は思っています。

そう言えば兄さんは、「僕を憎む原因を教えて欲しい」と言ったのに、前回の手紙にその旨を書いてはくれませんでしたね。
ですから、僕が先に書きます。
あなたを慕う理由を。あなたを信じ、敬愛する理由を。
書き始めたら便箋が何枚あっても足りなくなるくらい、僕は兄さんが大好きです。
あなたが別離を望むなら「共に在れなくても良い」と思えるほど、僕はあなたから沢山の光を受けて来たのです。
だからこんな事になった今でもなお、僕はあなたを変わらず愛しています。


世界は僕を「勇者」と呼びます。

だけれど僕は、本当の勇者は兄さんのことだと思います。
僕は兄さんに守られてここまで来たのですから。
あなた無くして、「勇者」は存在しえなかった。

もちろん兄さん以外にも、アデラやシンシアや神殿の人達や王宮の皆、これまで出会った街の人々全てが、僕を助け導いてくれたのは間違いありません。
だけれどそこに辿り着くまでの道のりで、真っ先に手を伸ばしてくれたのはいつだって兄さんでした。

そんな兄さんの強さを、僕は誰より知っています。
だから僕は、兄さんの抱えた痛みを背負いたいと思う反面、兄さんがその痛みに容易く屈する人ではない事を、心から信じたいと思っています。

兄さんが僕を傷付けたいと思うなら、幾度だって受けて立ちます。
でも僕はいくら傷を負おうが、決して膝を折りません。いくら泣こうが苦しもうが、絶対に負けません。
だから、兄さんも負けないで下さい。あなたの内側に渦巻く闇なんかに飲まれてしまわないでください。

僕はあなたが生きてさえいてくれれば、それで十分幸せです。
だからと言って、「自分が生きている限り幸せだと言うなら、自分が死ねばアレンを不幸にしてやれる」なんて考えても無駄です。


勇者アレンは、あなたの未来を一分たりとも諦めていないのですから。


あなたを心から敬い愛する弟 アレン・ヴェルヴェーヌ

ーーーーー



これでいい。
今、僕が言いたい事は全部ぶつけてやった。

後は兄さん次第だ。
満足げに僕は一つ息を吐き、神官の人に

「これを、兄さんに届けてください。どうかお願いします」

そう告げるなり、意識を手放した。

GM:書けた手紙を渡したところで、あなたは体力の限界となって崩れ落ちます。