夜明 奈央
2024-05-06 08:34:22
9574文字
Public 中太小説
 

君の寝顔が見たい(全年齢版)

中太宅のベッドが壊れて一緒に寝たりベッドを買ったりする話 後日談
*全年齢程度の行為および事後描写があり R-18版
2024年3月17日初出



 太宰はセックスの後、大抵はしばらくぼんやりしている。ナカでイくと余韻がなかなか引かなくて、冷めるのを待っているらしい。そんな姿を見れば、放り出してすぐにシャワーを浴びにいくのもどうにも情緒がない気がする。だから最初の頃はピロートークなどに挑戦したが、当の本人に鬱陶しがられてすぐにやめた。俺は本来ならさっさとシャワーを浴びたいタイプなので、結局終わった後は情緒の欠片もなく各々好きに過ごしている。
 今までなら、俺がシャワーを浴びている間に太宰は身支度を整えてソファベッドに引き上げていた。疲れているらしく、シャワーは朝起きてから入ることが多い。俺は誰もいなくなったベッドのシーツを取り替えて、広々としたベッドで独寝だ。惜しい気持ちもあったが、当たり前だった頃は仕方ないと諦めていた。

 太宰の部屋ができて、幾日かが経過していた。つい先日まではセックス後も最終的には同じ場所で眠っていたが、今夜はそうはいかないだろう。セックスの後に抱きしめて眠るのは普段以上に格別だったのだが。
 戻れば太宰がいなくなっているのだと思えばどうしようもなく惜しい。あの感覚は、そう簡単に忘れられるものでもない。それだって、きっとどんどん記憶から薄れていってしまうのだろう。

 そう思っていたが、シャワーを終えて戻った俺が見たのは、未だ俺のベッドに寝ている太宰だった。セックスの名残が色濃く残るベッドの上で、服を着た以外は先程とほとんど同じ体勢のまま臥している。まだ移動する程回復していないのだろうか。
 不思議に思っていると、太宰が枕に預けていた頭を小さく擡げた。ナイトランプの光が太宰の頬を柔らかく照らす。
「ねえ、今夜は、ここで寝てもいい?」
「いい、けど……
 断る理由はないので反射的に了承する。
 よく見れば、枕が2つあった。1つは元からあった俺のもので、もう1つは少し前から太宰が使っているものだ。わざわざ自分の部屋に戻って取ってきたようだ。てっきりまだ動きたくないのかと思っていたが、違うらしい。確信を持てないながらも胸の奥がそわそわと落ち着かなくなる。
 引き出しから替えのシーツを取り出すと、察した太宰は大人しくベッドから降りた。疲れてはいるようだったが、指示せずとも自分から動く辺り、ある程度回復しているのは間違いない。
 まだ万全ではないようで、ぼんやりとした双眸に見つめられながら、シーツを取り替える。終えるといそいそとまた同じ場所に戻っていくのに合わせて、俺も同じようにベッドに入る。毎晩一緒に寝ていた頃の定位置だ。まだそう遠い過去でもない。
 肩まで布団を被ると、太宰がじりじりとにじり寄ってきた。太宰の身体に腕を回すと、まだ軽く火照っているようで、普段より温かい。首筋に顔を寄せると、雑に汗を拭っただけの太宰の肌はしっとりと湿っている。シャワーを終えた俺や替えたばかりの清潔なシーツからは失われた、行為の気配が残っている。
「ここじゃ寝れねぇんじゃなかったのか?」
「別に、寝れないのは、慣れてる」
 太宰の吐息が旋毛を揺らす。何と答えるのが正解かわからず、抱きしめる腕に力を込める。心臓の拍動が重なるぐらいに近かった。太宰の手が俺の髪をゆっくりと梳かす。その手つきが妙に優しくて、なんだか擽ったかった。
 そういえば、こうやって何もせずにただじっとくっついているのは、眠る時だけだ。それを悪くないと思っていたのは、やっぱり俺だけではないらしい。
「おやすみ」
「うん、おやすみ」
 挨拶を交わして、目を閉じる。太宰の体温と呼吸を感じながら、俺は緩やかに眠りに落ちる。夜の間、太宰が眠っているのかいないのか、退屈しているのかどうなのか、寝ている俺は想像するしかない。

 翌朝目を覚ますと、やっぱり太宰は俺の顔を眺めていた。その顔は穏やかで、いつもの意地の悪さは感じられない。
「昨日は眠れたのか?」
「あんまり」
 その割にはなんだか満足そうだった。
「私、君の寝顔眺めてるの、嫌いじゃないんだ」
「なんだよ、それ」
 太宰はくすくすと笑うばかりで、それ以上は何も答えなかった。
 そう言われて、もちろん悪い気はしない。けれどせっかくなら、太宰にもちゃんと寝てほしい。今すぐじゃなくてもいいから、太宰がこの腕の中でちゃんと眠れる日がくればいい。
 そして俺にもその寝顔を見せてくれれば、もっといい。


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