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櫨
2023-08-30 18:13:18
7087文字
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小説(pixiv公開済)
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全かれぬ世界
劇中劇ワンドロワンライ企画に参加して書いた掌編まとめ。単品でもアップしていましたが、こちらは大幅に加筆修正しています。
すべてナーヴ教会(+ユニティオーダー)というかエーテルネーアにまつわるエピソード。
それぞれの話に繋がりはありませんが、同一の世界線上の出来事として書いており、登場する人物は各話のエピソードを経たうえでの造形となっています。
彼らの行く末についての言及・匂わせが多々あります。
つらいと思われる方はご注意ください。
1. Turquoise Blue 祝祭の日の朝、鏡の前で。(アルム+エーテルネーア)
2. 綻びの糸 下界の拾い子を巡る思惑。(ミゼリコルド+エーテルネーア、ロイエ、シャオ)
3. 星に因る 星に願ったことはひとつだけ。(エーテルネーア+ミゼリコルド、ロイエ)
4. 全かれぬ世界 死の舞踏は続いていく。(クヴァル+ロイエ、クウラ)
タイトルは「まったかれぬせかい」と読ませます。捏造語です。
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2
3
4
3. 星に因る
願ったことは、たったひとつだけだった。
それは、ナーヴの定めた階梯において幼年から少年となり、初めて教会の奥深くへの出入りを許された日の夜のこと。
エーテルネーアとミゼリコルドは、ふたりだけで、アークの街を眺めわたせるテラスに居た。
頭上には、漆黒の夜空を彩る数多の星々。
今宵は、流星の雨が降るという。
「星が流れて燃え尽きるまでに、祈りを三回唱えられたなら、願いごとが叶うのだって」
星に願いをかけるため、祈りの言葉をしっかりと覚えるように、という教訓のついた小さな物語。それを読んで以来、いつかナーヴ教会の高い高い場所で、流れる星に願いを込めた祈りを捧げたいと思っていた。
けれど、ミゼリコルドの視線は、ずっと下へと向けられている。眼下には、アークの街の灯かりが整然と輝いていた。
「街じゃなくて、空を見て。今日は七年にいちどの流星群の夜だそうだよ」
いくぶん焦れてそう言うと、ミゼリコルドはゆっくりと面を上げた。夜の湖のように凪いだ目が、エーテルネーアを映す。
目と目が合って、エーテルネーアはほっと笑い、手を差し伸べた。
「ねえ、ミゼリコルド。一緒に星を眺めて。流れる星を探して」
ふたりで探そう。ふたりで願いをかけよう。
ミゼリコルドが、この手を取ってくれたなら。
☆ ☆ ☆
「
……
ということがあってね。ちょうど、この場所で」
茶器を傾けながら、懐かしむようにエーテルネーアが語る。
ナーヴ教会のテラス。そこにはいま、エーテルネーアとミゼリコルド、そしてロイエが居て、茶会の席を囲んでいた。
「はあ。それで、首尾は如何なものでしたか」
星のかたちに固めた砂糖菓子を指でつまみあげ、カップに入れながら、ロイエが聞いた。
「流星は幾つか、見ることが出来たのだけれど」
エーテルネーアが、琥珀色の茶を注ぐ。星はほろほろと崩れ、砂のようにカップの底に降り積もった。
「燃え尽きるまでに祈りを唱え終わることが出来なくて。そのうち大人たちに見つかってしまって、残念ながら」
軽やかで、けれど耳ざわりな音が断続的に響く。ミゼリコルドが、手にしたカップの縁をスプーンで叩いていた。
「ロイエ隊長。私のカップが見えるかい? このカップの底が?」
「は、失礼いたしました」
立ち上がったロイエがエーテルネーアの手から茶器を受け取り、ミゼリコルドのカップに茶を注ぐ。
傍から見れば不思議な光景だった。三人のあいだを行きかう茶器。注ぎ注がれる茶。
三人、ではあるが、実際のところはひとりとふたりだ。エーテルネーア。ミゼリコルドとロイエ。幼い頃から、内なる因を結ばれたミゼリコルド。ささやかなきっかけから、外なる縁を結ばれつつあるロイエ。
因と縁のふたり。いずれが運命となるか。いまは誰も知らない。
「そうだ、ミゼリコルド。ずっと聞きたかったのだけれど」
ふとエーテルネーアが口を開く。ミゼリコルドが瞳を向けた。
「あのとき君は、星に何を願ったんだい?」
ミゼリコルドは、ふむ、と小さく頷いて、カップを額の上に掲げた。
「そのような昔のこと、忘れてしまいましたが。おそらくは」
ロイエに注がせた茶をほとんどひと息で飲み干して、唇を笑みの形にし、言った。
「エーテルネーア様とおなじ願いをかけたことでしょう」
☆ ☆ ☆
あれは、いつの日のことだったか。
ミゼリコルドとの因。ロイエとの縁。心を結び、ともに未来を綯っていけるのではないかと、淡く予感めいたものを抱いていた。
それは今にして思えば、予感ではなく、夢物語めいた願望に過ぎなかった。
彼のいとし子を呪いに落とし、贄として召し上げたいま。外なる縁は断たれ、道は決裂した。
ならば未来は、内なる因を結んだ相手とともに造るしかない。
もしもあの幼い日の願いが、叶うのなら。
星にかけたふたりの願いが、同じものなら。
深く息を吸い、言葉を唇に乗せる。
「
――
友人として、聞いて欲しい。ミゼリコルド」
ずっと、奥底に秘めていた決意だった。
ふたりの代で終わらせよう。ふたりにできる罪滅ぼしをしよう。
切々と、言葉を紡ぎゆくたび、彼の蒼い瞳は、あの夜のように凪いでいった。
ミゼリコルドが、この手を取ってくれたなら。
☆ ☆ ☆
願ったことは、たったひとつ。それだけだったのに。
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