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櫨
2023-08-30 18:13:18
7087文字
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小説(pixiv公開済)
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全かれぬ世界
劇中劇ワンドロワンライ企画に参加して書いた掌編まとめ。単品でもアップしていましたが、こちらは大幅に加筆修正しています。
すべてナーヴ教会(+ユニティオーダー)というかエーテルネーアにまつわるエピソード。
それぞれの話に繋がりはありませんが、同一の世界線上の出来事として書いており、登場する人物は各話のエピソードを経たうえでの造形となっています。
彼らの行く末についての言及・匂わせが多々あります。
つらいと思われる方はご注意ください。
1. Turquoise Blue 祝祭の日の朝、鏡の前で。(アルム+エーテルネーア)
2. 綻びの糸 下界の拾い子を巡る思惑。(ミゼリコルド+エーテルネーア、ロイエ、シャオ)
3. 星に因る 星に願ったことはひとつだけ。(エーテルネーア+ミゼリコルド、ロイエ)
4. 全かれぬ世界 死の舞踏は続いていく。(クヴァル+ロイエ、クウラ)
タイトルは「まったかれぬせかい」と読ませます。捏造語です。
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2
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1. Turquoise Blue
白い部屋、白い壁に掛けられた長鏡に向かって立ち、己の姿を確認する。
高貴を示す豪奢な長衣。身を飾る黄金の装身具。光輪から垂れる重たげなヴェールに囲まれた小さく青白い顔は、不安げに揺れる瞳ばかりが目立って見えた。背からはまだ仄暗い朝の光が射している。
四年に一度の祝祭の日がやってきた。天子としてアークの民たちにまみえるにあたり、彼らに眼からも恩寵を与えるべく、少しでも見目よく整えるように、とミゼリコルドには言われている。
恩寵、とは。見目よく、とは。
なにも、わからなかった。
日頃より顔を合わせるのは、ミゼリコルドとエーテルネーア、そしてクヴァル。あとは僅かに身辺を整える者のみ。見る者も見られる者も、これらの人々に限られている。
だのに、四年に一度、この日だけ、大群衆の前に姿をさらし、崇敬と歓喜の声を浴びる。
従順に勤勉に日々を過ごしながら、祝祭の時をなによりも楽しみにしているというアークの民に、自分が与えられるものは何なのか。
――
本当にそれは、自分が与えているものなのか。
考えに打ち沈んでいると、小さくドアを叩く音がした。いらえを返すより早く、滑るようにして人影が入ってくる。
「天子よ。じきに祝祭の刻限となります。仕度は整いましたか?」
やわらかく耳朶に染み入る声。ふわりと流れる、白みにふちどられた夜闇色の髪。エーテルネーアだった。手に仮面を携え、いまは素顔で微笑んでいる。
「はい」
呟きを落とすように幽かに頷く。
エーテルネーアはつと立ちどまった。しげしげと、頭のてっぺんから爪先までを眺めている。瞳がゆったりと動いて、輪郭をなぞった。
暗紅色から「暗」を抜いたような色の瞳だ、と思った。けれど紅色ではない。暗きの気配は名に残り、香る。
そんな慨嘆を知る由もなく、エーテルネーアは自身の顎に指を当て、小さく首を傾げた。注視からのそれは不躾の一歩手前であり、彼の纏う邪気のない有り様があってのみ赦される仕草だった。
「あの
……
?」
なにか、おかしなところがあっただろうか。顔を伏せるようにして、己の姿を見下ろす。
黒を基調とし、いたるところに金の装飾が施された、荘厳で絢爛とした衣装。重ねた袷と耳を覆う布帛は、白に金の紋様。
白、黒、金。
それが、ナーヴ教会の象徴たる己に与えられた色だ。
真白い部屋で漆黒の衣服をまとい、光らぬ黄金で身を飾り立て、昨日までを過ごし、今日を過ごし、明日からも過ごしていく。
衣擦れの音がして、伏せていた顔を上げる。目の前で、エーテルネーアが身をかがめていた。
「何を
……
!?」
「少し、動かないでいて」
重いマントを持ち上げて、腰に手を回す。しゅるり、と優しい音がした。
「
――
はい。もう動いてもよろしいですよ。鏡を」
言われて、見てみる。
腰帯に結びつけて、薄衣のストールが巻かれていた。爽やかで美しい、青みがかった緑色の布。
意味もわからず、ただ、エーテルネーアを見つめる。と、彼は目もとを緩ませた。わずかに上がった口の端は、笑みを刷いている、のだろうか。
「さあ、外へ。民たちが待っています」
差し伸べられた手を取り、白い部屋から一歩足を踏み出す。
外の世界へと続く一歩を。
◆ ◆ ◆
たくさんの血と命を吸い込んで、世界は変わった。
人里から離れた地に日々を過ごし、痩せた大地に這うくすんだ緑を目にするたび、なぜだろう。思い出す。
運命の日の朝、あの人が、白と黒に差し込んでくれた色を。
二分から解き放たれ、すべてが渾然とした世界を、ひたひたと満たす生命の色。
「
――
私の声が、聴こえているだろうか?」
柔らかな布をふわり巻きつけるように。生きとし生けるものたちへと声を届ける。
大地すらも包み込めるように。願い、声をあげて、生きていく。
偶像ではなく、真の象徴として。
この世界をはぐくみ照らす光で有れかしと。
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