2023-08-30 18:13:18
7087文字
Public 小説(pixiv公開済)
 

全かれぬ世界

劇中劇ワンドロワンライ企画に参加して書いた掌編まとめ。単品でもアップしていましたが、こちらは大幅に加筆修正しています。
すべてナーヴ教会(+ユニティオーダー)というかエーテルネーアにまつわるエピソード。
それぞれの話に繋がりはありませんが、同一の世界線上の出来事として書いており、登場する人物は各話のエピソードを経たうえでの造形となっています。

彼らの行く末についての言及・匂わせが多々あります。
つらいと思われる方はご注意ください。

1. Turquoise Blue 祝祭の日の朝、鏡の前で。(アルム+エーテルネーア)
2. 綻びの糸 下界の拾い子を巡る思惑。(ミゼリコルド+エーテルネーア、ロイエ、シャオ)
3. 星に因る 星に願ったことはひとつだけ。(エーテルネーア+ミゼリコルド、ロイエ)
4. 全かれぬ世界 死の舞踏は続いていく。(クヴァル+ロイエ、クウラ)

タイトルは「まったかれぬせかい」と読ませます。捏造語です。

2. 綻びの糸


 出逢った時は、ずいぶんとみっともない、貧相な子どもだ、と思った。
 瘦せこけた手足。櫛を入れられてもまとまらぬ、艶のない髪。目ばかりが大きく、強く、こちらを見上げる。
……これを、手もとに置きたいと?」
 口調にねっとりと毒をまぶしたミゼリコルドの言葉に、ユニティオーダーの隊長ことロイエは深く頭を垂れた。動きがいくらかぎこちないのは、馴染まぬ左手の義手のためか。
「どうか、この子の養親として、育成を行う許可を。必ずや、アークに貢献する人材として育て上げることを誓います」
 下界の孤児を連れ帰ったという報告は先んじて受けていた。が、もう少し見栄えのするものを想像していた。どんな気まぐれか、あるいは重傷を負って失ったのは腕だけではなく頭の中身もだったのか。そんなことを考えていると、横から声が響いた。
――宜しいでしょう」
「エーテルネーア様?」
 仮面の下、エーテルネーアは薄く微笑んで、子どもを見下ろし、ロイエを見つめ、それからミゼリコルドへと目を移して笑みを深め、ゆっくりと頷いた。
 わかってくれるだろう、と信じている所作だ。踏みにじりたくなるほどに無邪気な。
 いまいちど、子どもを見る。臆せず見返す目の力は強いが、特に反抗的な色はない。
 次いで、ロイエを見る。此度の戦闘で失って戻らぬ腕のかわりに、無私な心で身の回りの世話をする者を得た、と解せば分からなくもない。
 最後に、エーテルネーアを見た。微笑みはそのままだ。
 子どもには恩義を、ロイエには褒美を。隷属を積みあげるのは佳いことだ。それをエーテルネーアからもたらすことにより、忠誠心はさらに固いものとなるだろう。
……エーテルネーア様の思し召しだ。その願い、許可しよう」
 重々しく告げる。ロイエが小さく息を漏らし、頬を緩めた。それにつられてか、子どもの表情も緩む。
 ミゼリコルドの思惑は、知らぬままに。


 次に逢った時は、すらり伸びた背と長い手足、風にさらりと流れる髪、そして己の幸福の地であるアークへの忠義を携えていた。
 ユニティオーダーへの入隊が正式に許可され、アークとナーヴ教会への忠誠を誓う任命式でのこと。
 叙任とともに、エーテルネーアから、直々の言葉が下賜される。
 常ならば古くからの定型文を口にするのみだが、今日は違っていて、その後にごく低く――エーテルネーア本人と、対峙するシャオ、そしてすぐそばに控えるミゼリコルドにしか届かないほどの、小さな声が付け加えられた。
「父君とともに、どうか仲良く――末永く、アークの民を守って欲しい」
 小鳥のような囁きが、淡く、優しく響き。仮面では隠し切れない白い頬は、柔らかな表情をかたちづくっていた。
 足もとに跪いていたシャオの怜悧な相貌に、わずかに驚きが浮かぶ。それは微かな喜色となって、瞳を色づかせた。
 一片の雲もないアークの空。ちらちらと瞬く美しい木漏れ日が、一幅の絵のように、彼らを浮き立たせ、輝かせていた。木々の葉から零れる、光と影の乱舞。
 何故だろうか。ミゼリコルドには、それは不穏な影に他ならぬものと感じられた。

 エーテルネーアは、シャオに、あの日のいとけない子どもを見ている。
 ロイエとともに親子として睦み歩んできた日々を重ね見ている。

 ナーヴ教会のトップたる者が、下界を出自とする者に過度の思い入れを抱くことは、綻びの最初の糸一本になる。
 であれば、それを手繰られる前に、機を見て断ち切らねばならない。

 ◆     ◆     ◆

――天子の生死は、問わない」

 聡い彼は、言外の意味をあやまたず汲み取り、アークへの忠義のままに任務を果たすだろう。
 さすれば、あの日の貧相な子どもは、呪いを一身に受ける。
 天子の呪い。否、アークという名の呪いを。


 ――それは、綻びの最初の糸。