2023-04-15 19:23:35
17270文字
Public 小説(pixiv公開済)
 

a song here

Re:vale記念日に寄せて、Re:valeの曲を愛し曲に愛された人たちの話を書きました。
掌編×4本。すべて独立したオリジナルキャラ視点のお話で、千も百も直接は出てきません。
時間軸はさまざま。ふんわり雰囲気で読んでいただけますと幸いです。

各話、下記ご注意ください。
1. If you 映画『星巡りの観測者』の公開から十数年後、夜勤の夜。
 ※イベストのネタバレがあります。
2. get lost, 鳴かず飛ばずの漫画家による新ブラホワ意趣返し。
 ※新ブラホワの結果への言及があります。
3. there's ゼロアリーナこけら落とし公演での父と娘。
 ※この話のみアニナナ(セカビ)準拠の世界線です。
4. a song here ずっと、かたわらにあった歌。
 ※曲クレジット表記は完全妄想(捏造)です。

3. there's


 サプライズの豪華な前座が終わり、ゼロアリーナは、さらなる期待と興奮のざわめきに満ちていた。
 二階スタンド席から見下ろすペンライトの海は、ゆるやかに波打っている。ふたつの色は偏ることなく、きれいに点在していた。まるでふたつでひとつ、ひとつでふたつのように。

「はい、お父さん。これ貸してあげる」
 隣の席からぽんとリレーバトンのように手渡されたのは、そのペンライトだ。可愛らしい色あいの、ペールグリーンとビビッドピンク、二本でワンセット。ペールグリーンにはYUKI、ビビッドピンクにはMOMO、と白文字のロゴが入っている。
「お父さん、最近は肩がしんどそうだし、ペンラ振るのはつらいかなって思ったけど、やっぱりないと手持ち無沙汰っぽかったから」
 ここのところ四十肩で腕を上げるのがつらいことも、前座でなんとなく居心地が悪かったことも、すべて見抜かれている。さすがわが娘。
 口惜しいような、頼もしいような、くすぐったい気分をごまかすために、ひとつ咳払いをしてから、ありがとうと礼を言った。それから、ふと気になって聞いてみる。
「お前これどうしたんだ。自分のぶんは?」
「もちろんあるよ!」
 娘の膝の上には、もうひと揃い、同じペンライトセットがあった。
「ソロ曲では色を揃えたいなって思って、二セット買っておいたんだ。でも、普通の色変えできるやつは持ってこなかったから、シャッフルユニットに対応できなかったのは残念だなあ」
 そう言いながら、手首にストラップを通し、カチカチとスイッチを押す。テスト点灯をしているらしい。
 真似をして、ストラップに手をくぐらせて握り、カチン、カチンと一本ずつスイッチを押してみた。思ったよりもずっと眩しく、鮮やかに、ネオンめいたグリーンとピンクの光が灯る。

 ペンライトがライブ必携アイテムになったのは、いつ頃からなのだろう。
 なにしろライブ鑑賞が久々すぎる。記憶を辿れば、結婚前、妻とのデートで、ゼロのライブに行ったのが最後だ。奇しくもその時と同じゼロアリーナの、リニューアル記念のこけら落とし公演に来ている。
 ペンライトのスイッチを切って、隣の娘を横目で窺う。ステージを見つめるわくわくとした横顔は、いつもより少し幼く見えて、微笑ましい。

 デートの日の妻も、一心にゼロへと声援を送り続け、ライブのあいだじゅうほぼずっと横顔しか見せてくれなかった。隣の恋人を差し置いて、ゼロだけに向ける熱い眼差しに、ちょっぴり嫉妬めいた気持ちを抱いてしまったが。
『楽しかったあ。今日はありがとう。ゼロのライブに、ふたりで一緒に来ることができて、本当に嬉しい!』
 終演後、まだ冷めやらぬ興奮に頬を紅潮させたまま、きらきらと輝く瞳でそんなことを言われたら、降参するしかない。アンコールで歌われたメロディを、ふたりで交互に口ずさみながら、ゼロアリーナを後にした。

 その夜、プロポーズした。

 ♪     ♪     ♪

 ふたりで行ったライブ。ふたりで作った暮らし。そして授かった、たったひとりの娘。
 三人で過ごした日々は短かったけれど、娘はいまもこうして手もとにいる。思春期ど真ん中の中学生、難しい時期に差し掛かっているが、ライブに保護者として同行を頼まれるくらいには仲が良い。多分。おそらく。
 ――たとえ、そこに至った経緯が、ケンカすれすれのものだったとしても。

 正直に言って、Re:valeに特段の思い入れはない。どころか、今回のゼロの曲のカバーについては、あまり好意的な印象は抱けなかった。
 あの日のゼロライブでのアンコール曲。妻との思い出に繋がっているゼロの代表曲『Dis one.』を、バラエティやドラマで人気のアイドルグループが歌う。しかも原曲とはかなり印象の違った、アレンジの施されたカバーだという。
 ゼロアリーナで、ゼロの曲を、自分たちが歌いやすいように歌うなんて、少しばかり傲慢じゃないか。第一、ゼロへのリスペクトを謳うなら、原曲のイメージを大切にするべきだろう。結局はゼロにあやかりたいだけではないのか。
 そんな考えをうっかり漏らしてしまい、娘とちょっとした言い合いになった。
「ゼロ党みたいなこと言わないでよ。Re:valeは作詞も作曲もぜんぶ自分たちでしてるんだよ。きっとすっごくいい曲になってるよ」
「まあ原曲がいいからな。どうアレンジしたってそこそこ格好はつくだろう」
 アイドルの小手先アレンジでも、うまく仕上がるだろう。というフォローのつもりだったが、完全に逆撫でしてしまった。
 娘はまなじりをきっと上げて、叩きつけるようにスマートフォンをテーブルに置いた。画面には、チケット先行申し込みの入力フォームが表示されている。
「申し込んで! ライブで聴いてよ! ぜったいぜったい、かっこいいんだから!」


 レーザーグラフィックで描かれたRe:valeのロゴが観客席を照らし、交差して走り抜けた。ひときわ歓声が高まる。いよいよだ。
 ステージに、豪奢な椅子に身を預けたRe:valeが姿を現す。絶対王者の名に相応しい、威風堂々とした登場だった。
 そこから一転、親しみやすい笑顔となり、楽しいやりとりをまじえながら過ごした年月への愛と感謝が語られるMCは、これまでの彼らを知らずとも、ぐっと来るものがあった。
 まわりのファンたちは、ある者は笑顔となり、ある者は鼻をすすり、いずれもみな瞳を潤ませている。
「大好き……Re:vale、大好き……
 横の娘が口を押さえて、嗚咽のような囁きを漏らした。隣の父親のことなど完全に忘れて、食い入るようにステージを眺めている。こっそりと苦笑した。血は争えない、というやつだろうか。
 五年分の感謝を込めて、と冠され――曲名がコールされる。
 モニタに映し出された銀色のRe:valeのロゴが閃き、その曲の名へと姿を変じた。
 Re:valeで、『Dis one.』。


 イントロが流れ出す。レーザーの乱舞とともにかき鳴らされるエレキギター、のっけから威勢よく叩かれるドラムに、度肝を抜かれた。予想だにしなかった激しい曲調に、口がぽかんと開く。原曲とのギャップが凄まじい。いきなり横っ面を引っぱたかれたような気がした。
 でも、決して嫌な気分ではない。
 白のジャケットにグリーンを差し込んだ衣装の方が、確か、千。長い髪をひるがえして踊る姿は、ステージによく映えている。
 歌い出しは千から。轟音のオケに負けない、深みを湛えつつ伸びやかなボーカルが真っ直ぐに耳朶を打つ。
 数小節を歌い終えて、わずかに下がる。てのひらを広げ、誘うように、願うように、もうひとりへと場を譲る。
 黒のブルゾンをピンクで縁どった衣装の方が、百。メッシュを入れた短髪が、ステージで跳ねる。
 ふっ、と息を吸い込む音がした。気持ちごと吸い込むような、美しいブレスだった。
 流れ出した歌声は、少年のように明るく伸びやかで、それでいて繊細な響きを帯びていた。バラエティで幾度となく聞き流していたはずの声なのに、いま聴いているこれは、どうしようもなく歌だった。歌声だった。
 ソロパートを過ぎ、サビに入る。声がクロスし、ひとつになった。異質な声のふたりなのに、重なりあえば輪郭がなくなるほどに溶けて、熱く揺れるゼロアリーナを満たしていく。
 切々と歌い上げるゼロの『Dis one.』とはまるで違う。しかしこれは、これこそが『Dis one.』の解き放たれた姿なのかもしれない。往年のファンですらそう思わせられる、魂に訴えかける強い強いロックチューンだった。
 ステージ上のふたりは、とても楽しそうだ。弾むように響きわたる歌声、身体のすべてを使い切って踊るダンス。ふたりで歌い踊る幸せが、たくさん伝わってくる。
 千が歌う。百が歌う。ふたり、声をあわせて歌う。
 ――あの日の帰り道、妻と、かわるがわる口ずさんだように。
「ああ……そうか……
 ペンライトを振りながら、声が出た。
 ふたりで歌うために、歌詞がひとりずつに割り振られている。けれど、分かたれてしまったわけではない。追いかけあい、重なりあう歌声。重なりあうダンス。
 生まれ変わった『Dis one.』は、ふたりで歌う、ふたりのための歌になっている。
 ひとりきりのゼロでは、歌えなかった歌だ。

 四十肩の痛みも、いまは忘れたふりだ。
 力いっぱい、勢いをつけてペンライトを振る。この光の飛沫が彼らに見えるように、少しでも届くように。
 会場はペールグリーンとビビッドピンクの海だ。みんな右手と左手に一本ずつ持っている。ふたつでひとつ。ひとつがふたつ。
 2コーラス目、タイミングは覚えた。
 娘と並んで、小さくジャンプした。

 ♪     ♪     ♪

 会場先行発売のCDは、二枚買った。自分の分と、娘の分と。
 先日の言い合いの完敗を認めて、というよりは、Re:valeの『Dis one.』を教えてくれてありがとう、の気持ちを込めて贈る。
 帰り道の車の中、助手席の娘が、さっそく開封したCDをカーオーディオにセットした。ボリュームをめいっぱい上げて、ライブの音が、熱が、いつまでも胸に留まるように、Re:valeの『Dis one.』を聴く。
「次、インスト。私は百ちゃんのパートを歌うから、お父さんは千さんのパートね」
 有無を言わさず千パートの担当にされた。千担。悪くないな。
 インストゥルメンタルにのせて歌いながら、ゆっくりとアクセルを踏み込んだ。足がだるい。明後日あたり、酷い筋肉痛になるだろう。それもまた愉快だ。
 運転に気を取られて、歌い出しはミスるし、コーラスは音程を外すしで、歌うより笑い転げてしまう時間の方が長かったけれど。
 ふたりで分けあい、重ねあって歌った。

 信号待ちに、間奏で息を整えながら、かたわらの娘を見る。
 愛する家族と、好きなものを教えあって、時にはすれ違ったり、些細なケンカもしつつ、一緒に暮らしている。
 ふたりで同じ歌を歌いながら、同じ場所で暮らしている。

 それはなんて、幸せなことだろう。


(feat.『Dis one.』)