日向前主将との再会に花宮もついてきた話

花宮真、日向順平、学園アリス、黒子のバスケ

あいつは天才だ。聞かされる前から知っていた。あいつは天才だ。そう吹聴することもした。あいつは天才だ。疑うべくもない、天才だ。そう、知っていたのだ。あいつは天才だと、いざ〈それ〉だと聞かされる側に回っては、動揺を知ることもしたのだけれど。「あいつは天才やから、な」

クロスオーバーです。複数の作品の世界観を融合しました。


  五

 玄関の扉を閉めて、廊下からダイニングへ。花宮は「キメェぞ」の声で日向を迎えた。
「何だ、『つながってた』って」
「俺は別にそんな意味で言ったんじゃねえよ!」
 声を荒げる日向。対して、ふうん、と、冷めた様子の花宮。
「俺がどんな意味で言ったって?」
「だから親が——
 日向は顔を上げて、そこで言葉を切った。暗いばかりのテレビの画面、綺麗に片づけられたローテーブル、そして我が物顔でソファに沈む花宮が、黒のジャケットを身に着けていた。ほつれ破れた、黒の——作業服だ。
 今の今まで気がつかなかった。
「火災のニュース、おまえだな」
 だから気がついた。
 花宮は肯定した。
「そんなもんだ」
 今になって見れば、薄汚れた黒ずくめが、日向の目の前にいた。驚くことはない。花宮のことだった。後輩たちも驚かなかった。花宮のことだった。今にして思えば、日向は花宮の「仕事」をとやかく言ったのに、後輩たちが誰ひとりとしてそれに触れなかったことも、不自然以外の何ものでもない。だが、日向は驚かない。花宮が犯人だった。
「あいつらに——何もしてねえだろうな」
「『何か』してたら、あいつら飯も食わずに帰ってくれたとは思わねえか」
 いや、いや。今にして思えば。日向と後輩たちの再会は本当に偶然だったのだろうか。国語の課題などのために、生活圏から離れた美術館を訪ねて、そこが偶然にも今の俺の生活圏内だったとでもいうのだろうか。偶然にもあいつらが今の俺の生活圏を訪れたときに、偶然にも俺が買い出しのために外出していたとでもいうのだろうか。
 俺が偶然にも再会したあいつらを自宅に招いたことは、本当になりゆきに任せたできごとだったのだろうか。
 もちろん、そうであったに決まっている。後輩たちは偶然にも日向の生活圏を訪ねることになって、日向は偶然にも後輩たちと再会して、なりゆきに任せて彼らを自宅に招いた。いや、日向は、後輩たちが日向と花宮について知ることを、望んでさえいた。
 しかし花宮には、そういうことができる。
 日向に望ませることができる。日向に招かせることができる。日向を外出させることができる。後輩たちを誘い出すことができる。
 花宮には偶然を引き起こすことができる。
 花宮が意図すれば、日向の後輩は、飯も食わずに帰っていった。
 薄汚れた黒ずくめが、首だけを動かして、目を細めて、
「心配するなよ。俺はなんにもしてないからさ——記憶喪失の順平くん」
 日向を見て、笑っていた。
 それは。
 日向の胸の奥にまで手を伸ばしたようだった。布と皮膚とをすり抜けて、肉と骨とをかき分ける。差し込まれた手は、黒のグローブを嵌めている。その骨ばって長い指が、やすやすと日向の心臓に触れて、つかむ。
 昔のことだと言いたかった。今は違うのだと言いたかった。だから覚えてもいないと言いたかった。だから思い出したのだと言いたかった。
 日向の言葉を、ひとつずつ喉の奥に押し戻していくようだった。
 かろうじて絞り出した声は、「それは」と途切れて終わった。
「『それは』?」
 花宮は構わず催促した。
 それは。
 日向が答えなくてはならないことだった。
「それは」
 途切れて、花宮は口を開かない。それは。
 俺は記憶喪失だった。だが、それは。
「あいつらには関係ないことだ」
 日向は正面に花宮を据えた。グローブを嵌めた細長い指が、無造作に開かれた。そこから、すとんと落下する。ローテーブルの上に封筒が一通、表を向けて乗っていた。宛先が見えた。日向順平、様。
「『おにいちゃん』と『おねえちゃん』からだ」
 花宮は表情を繕うことをやめていた。俺は風呂に入る。日向の耳元を、色のない声が無感動に通り過ぎる。そして日向も、落とされた封筒をただ拾い上げ、躊躇の残る手で慎重に裏返す。