01.エマージェンシーコールは止まない
外はざあざあ降りの雨だった。もう夜も遅く、仕事じゃなければ僕だって家に帰って床に就きたいくらいだっていうのに、そんな時間に大勢で押しかけてきた不良な高校生たちは鳴上悠を開放しろと宣った挙句、堂々と取調室で問答を交わし始めたのだ。
「いったん、全員で状況を整理しましょう。足立さんへの説明にもなる筈です」
そう言っておきながら好き勝手ぺらぺらと喋り出す白鐘も他のガキ共も、実際僕の相槌などろくに聞いちゃいなかった。菜々子ちゃんの失踪を知らせに来たまでは良いものの、これじゃあまりに横暴が過ぎるんじゃないだろうか。
そんな風に思いはしたものの言ってもたぶん仕方がないことだろうと判断したので、「え、えーと
……私たちの時?」「は?
……テレビ?なんで?」などと適当に合間を見てやり取りへの反応を挟む片手間、僕もまた僕の勝手に思考を巡らせていた。
こんな厄介も極まりない面倒なものを送りつけてきたのは、一体どこのどいつなのか
――と。
(生田目
……?にしては、内容が不自然だ
……もしもそうだとしたら、何で)
「足立さん!心当たりありませんか!?」
「っ、
……そんな、子供のお喋りから出た推理を急に言われても」
唐突に話を振るなよ、こっちも考えごとしてんだからさ
……などと返せる筈もなく、悪態は胸の内に押し込めて曖昧に応えた。ひとまずこの場を抜けだそう、そう思い立って探偵ごっこに熱が入ってきた子供たちに都合も物分かりも良い大人を演じ部屋を後にする。何も知らない素振りをするのはなんだかあまりに滑稽で、うっかり変な笑いを零したりしてないか少し不安になったけれど、どのみちあの調子じゃ目先の展開に囚われて、きっと彼らが気づくことはないだろう。
大丈夫、きっと大丈夫だ。
そんなことより今は急いで堂島さんと生田目、菜々子ちゃんを追いかける必要がある。
血相を変えて飛び出していった上司とその娘の顔が瞼の裏に浮かんで消えず、自分が思いの外動転していること、身近な他人の行方を心配するくらいの良心は持ちあわせていたことに図らずしも気づいた。
……ともかく鳴上の元に届いたという脅迫状については、後からもっとじっくり考えなければ。
*
「『僕は、新世界の存在を知った。なら僕は、人を救わなければならない』」
手記を読み上げる朗々とした声音が、その場に漂う空気が、全ての犯行は生田目によるものだと黙示する。
もはやこの先は約束された決定的なこと。そんな気すらしてきて僕は思わず張り詰めた意識を少しだけ緩め、そのゆとりでもって不意に再び受け取った脅迫状の中身を思い返した。
何の変哲もないコピー用紙一枚、手書きではなくワープロで打ち込まれて印刷された文字。
今後の展開がいかに決められたことであったとして、それでもやはり、どうしても生田目が出す意味がわからないその手紙。
(書かれていた文章は
――確か、)
「これは
……被害者たちの現住所!
山野真由美、小西早紀
……天城雪子、巽完二、久慈川りせ
……未遂で助かって世に出なかった三件目以降の被害者もちゃんと書かれてる。そして、諸岡先生の住所は、書いてない」
「すごい、そりゃ
……」
そうしてぱらりと頁を捲り言及を続ける白鐘の台詞には注意もそこそこに、続けて言葉を紡ぎ出した。まさにその瞬間。
キン、と甲高い音が僕のこめかみを鋭く貫いた。
――【何が『決まり』なんですか?】
――
「まさか、余罪
…ってこと?
『未遂で助かって』って、君たち
……一時期いなくなった時、一体何して
……?」
……いま、なんてことを言いかけた?
ひどく危うい真実がこぼれ落ちかけて、咄嗟に飲み込んだ空気が喉をぎゅっと詰まらせる。
引き攣り、上擦りかけた自分の声に、ぶわりと気持ちの悪い冷や汗が吹き出した。
(あぶ、なかった
…………、)
こんなくだらないところで、ボロを出すわけにはいかないのだ。
自分はもう、どうしてもそうするわけにはいかないようになっているのだから。
どくどくと脈打つ心臓の音が身体中に巡って不安を煽り、僕はたまらず切実に願った。
ああ、本当に、早く帰りたい。
<了>
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