ツキシキ
2024-04-12 08:35:38
19865文字
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★夢遊猫シリーズまとめ

4作品。二次創作。イミテイション、サウザンドキングダム。


六郎が女になってギギとコンスケがケンカしてインダストリィが金的無双する話


・『夢遊猫イミテイション』のボスラッシュクリア後前提
・ギギ×六郎メイン
・↑六郎×インダストリィ、コンスケ×ギギ、コンスケ×六郎の要素あり
・原作程度の下ネタを含む
・色々設定ねつ造
_________



 説明しよう!
 六郎は里の外れに生えていた珍しいキノコを食べたことにより、一時的に女の子になってしまったのだった!

「というわけなんだけど」
「というわけも何もあるか!!」

 むがーっ、と頭上から煙を噴き出しそうな勢いでギギが叱りつける。けれども六郎はどこ吹く風、いつも通りにひひと笑うばかりだ。



 身体の変化を察した後の六郎は実に冷静だった。
 診察のためパラムの居所へ向かい、ごく稀に胞子の劣化遺伝で生まれる変異茸だと説明され、ついでに「あほうかお前は」ともっともな正論を賜った。

 ともあれ、対処法はたった一つ。
 時間が経てば治る。

 簡明で、いかんともしがたく、受け入れるしかない状況である。なあんだそっかあ、と六郎は飄々とした調子で里へ帰り、ギギにも状況を説明し────現在のお説教に至るのである。
 六郎としてもまあ戻るなら問題ないしせっかくなら楽しんでおこうなどと言おうとしたのだが、

「今回はただの偶然だ! もし猛毒だったらどうする!!」

 そうギギが涙目で訴えるものだから、非力代表一般人としては黙り込むしかない。

(俺って愛されてるぅ……なぁんて、考えるのは罰当たりなんだろうなあ)

 脳裏によぎるほんのりとした喜びを寂寥で押しとどめつつ、六郎は一応の説明を続ける。

「ほら、そのキノコもなんか被食作用というか、すごい食べたくなっちゃう何かしらを醸し出しているらしくてね?」
………………
「ハイ言い訳ですすみませんでした」

 ギロリと有無を言わさぬ瞳の鋭さは、怒鳴られる百倍恐ろしい。涙のしずくが淵に溜まっているならなおさらだ。

……っぱり……じゃ出られ…………

 ぼそぼそと呟くギギの様子はまるで消えかけの炎のように頼りなく、しかし、熱っぽい。努めれば拾い上げられなくもないだろう声だったが、六郎の勘はこれ以上ギギを困らせるなと囁く。あえて聞かなかったことにしておくのもパートナーとしての度量だろう。

「まあ食べちゃったもんはしょうがないし前向きに考えるとして」
「やらかした本人が言うセリフじゃない……!」

 まだ気炎を吐くギギをにへらと躱し、六郎が指したのは自分の胸元だった。

「これどう思う?」

 ゆるく留められたリボンは襟ぐりに十分な隙間を空けており、しかし布地は相変わらず広々として風を取り込んでいる。要は、ほぼ、ナイ。

「せっかく女の子になるならドインでバインになってみたくない!? いや、慎ましやかな胸もそれはそれでいいんだけどね!!」

 この日一番の大声だった。



 事の始まりで六郎が冷静を保てていたのも、つまりは見た目がさほど変わらないからだ。もちろん男の象徴は綺麗さっぱり失せているのだが、先にがっかりしてしまったおかげか焦ることもなく、最低限必要そうな女体のメカニズムだけパラムに教わって終わった。現代っ子の精神はなかなかに図太い。

「俺はもっと自分ならやれると思ってたよ……

 六郎は独白する。布地が余る胸元をふにゅふにゅと弄びながら。

「胸を揉みながら言うな……っ」

 自意識は雄のままだからか、所詮は自身の胸だからか、手つきにまったく色気はない。しかし、ギギはフゥゥッと威嚇のように息を吐く。
 そのあからさまな反応が六郎には微笑ましく、またからかい甲斐もあった。

「ギギもせっかくならある方が嬉しいじゃん?」

 六郎は下から掬い上げるようにして胸部をささやかに盛ってみる。当然、合う大きさの女性用下着など手元にはなかったので、身の着のままだ。柔らかな胸は簡単に形を変える。
 けれども、ギギは目を逸らして訥々と宣言した。

「オレは……性別とか、おっ、大きさとかよりもまず、ちゃんとロクロウのままがいい……

 思わず手が止まる。まっすぐな言葉に、面食らったのは六郎の方だった。

……俺って愛されてるぅ!)

 下手に揶揄したくはない、だが正面から受けるには質量のある、純粋な好意の塊。何か応えることすら惜しくて、六郎はへらへらとした笑顔の裏で、しっかりと想いを噛み締める。

「な、なんだよ」
「なんも言ってないよ?」
「ニヤニヤしてるじゃんか」
「俺はいっつもパーフェクトな笑顔の爽やかボーイだよん」
「今はガールだけどな」

 軽口混じりのやり取りのうち、ギギの気持ちもほぐれたらしい。警戒するように強張っていた耳も尾も今は自然体だ。
 形は違えど魔物の耳や尾は六郎にもあるが、それにしても妙に、ギギの身体のあちこちが目につく。自分が変化したせいだろうか。地面に触れるか触れないかで揺れるギギの尾の動きは、まるで六郎を誘惑しているようだ。

「ギギー。場も和んだことだし、モフっていい?」
「なっ、どこを……いやっなんで?」
「なんか妙にギギが気になっちゃうんだよね。なんでだろ?」

 六郎は自問しつつギギににじり寄る。成長途中の尾に体毛はみっちりと集まっており、一見すると両手でもつかめそうにない太さだ。手入れや塗り物によるものではなく、内側から生命力を発するような艶がある。

「ろ、ロクロウ。息荒くないか」
「そうかな? 自分だとわかんないや……

 じり、じり。六郎はゆっくりと歩みを進める。言われてみれば、軽く運動した後のように身体が火照っているような気もする。すでに開いている胸元をさらに広げて扇いでみたが、すぐに止めた。熱はだんだんと内側から込み上げて、際限がないからだ。

「今は女……そういう、ことか? でも触ってないのに……?」
「なーにー? 俺にもおしえて?」

 また考え事を始めたギギに、六郎は肩を寄せようとする。熱っぽいせいか、意図せず言葉が間延びした。
 一方ギギは驚くほど俊敏に地を蹴って後方へ下がる。

「あ。きずつくなあ……
「あっごめ……そうじゃない、ロクロウ! 今のお前がオレに触るとまずいことが起こる」

 しょんぼりした六郎にギギも一瞬絆されかけたようだったが、そううまくはいかなかった。いつになく真剣な表情をして六郎を言葉で制した。
 その凛と釣り上がった眉が六郎にはひどく漢らしく見えて、ギギの警告も右から左へ抜けて行ってしまう。
 だって、里では別に遠慮なく二人でじゃれ合っているのに。きっとギギの照れ隠しだ。あまり回らない頭で六郎はそう結論付ける。

「やーだー。モフるのー」
「あとでいくらでもモフらせてやるから!」
「今がいいー」

 舌足らずに迫る六郎に、ギギはひたすら逃げの一手だ。抵抗するにも触れば終わる。

「やめっ、」

 あわや指先が触れる、その時だった。



「はーっはっはっは!!」



 窮地を砕く大音声、翳る太陽を背に現れる黒タイツ。隆々とはち切れんばかりに主張する漢らしさをぶら下げて、一見変態、実際血縁、ダークヒーローが現れる。


「お兄ちゃん、参上! とう!」


 お兄ちゃんであった。もとい、コンスケであった。


 どこからよじ登ったのか、コンスケは巨木から勢いよく飛び降りる。枝がぶぉんと大きくしなり、コンスケの体躯の良さを喝采するかのような音を立てて木の葉がはらはらと落ちた。着地点はギギと六郎が巻き込まれない位置なのも、お兄ちゃん的配慮である。
 謎の闖入者を思わず見守ってしまっていたギギと六郎は、コンスケだとわかるなりようやく解凍された。

「こんちわ~」
「馬鹿兄貴、ややこしくなる前に帰れ!!」

 あまりに対照的だった。

「こんにちは! うーん、俺の世界一かわいい弟が今日も元気でよろしい! だがいつもの遊びとは違うみたいだな」
「ロクロウが女になった!」
「どうも~女の子で~っす」

 へらりと笑う六郎と、必死な顔のギギもこれまた対照的。コンスケは二人の顔を見比べ、確かめるように六郎を上から下まで眺めやる。そしてピクピクッと二度耳が小刻みに動いた。まるで異性の飢えを感じ取ったかのように。

「なるほど……

 登場時の勢いとは逆に、コンスケは落ち着いた様子で頷く。動揺すら見せないその姿に、ギギはどこか縋るようなまなざしで答えを待った。

 コンスケとギギは共に狐の兄弟であり、能力は異なるものの、体質は共通だ。すなわち、女性にだけ効果抜群のフェロモン体質である。効能も見惚れる程度なら可愛いもので、実態はなかなかに肉欲溢れる有様だ。
 特にギギは自身の体質を誰よりも疎ましく思っていた。
 ギギが六郎を視界の端で盗み見れば、ふにゃふにゃと笑っている。その笑顔はいつも通りのようでいて、ギギからすれば、まったく違った。六郎の根本に潜む聡明さが、まるっと削がれてしまったような。

 これ以上、自分の体質のせいで六郎を狂わせたくない────。

 そんなギギの切実な想いを受け止めるように、コンスケがやがて顔を上げた。そうして、逞しい胸筋を張って朗々と答える!



「兄弟丼って言うのは」
「帰れ!!!!!!」



 もはや絶叫だった。


「大丈夫お兄ちゃんは2番目で良いから、」

 妥協案のように論外を述べるコンスケを、ダンッ、と力強い音が遮る。目の前のギギが割れんばかりに地を踏みつけた音だった。怒気と脚力のせいで、土と草は吸収するはずの音も吸収しきれていない。

……潰す…………

 どこを、とは言わずともコンスケの発達した肉体を見ればよくわかる。

「わっ、悪かった! ギギ、な、お兄ちゃんが悪かった。ほら発散したらサクッと解決するかと」
…………

 言い募れば募るほど墓穴は深くなっていく。そんな兄弟の後方で、

「ふえぇギギぃ……がちむちこわいよぉ……

 と六郎が怯え出すものだから怒りの熱はなお温度を上げた。コンスケから距離が離れたおかげでギギと六郎の接触の心配も減ったのは安心だが、貞操の脅威が増えた点ではプラスマイナスゼロだ。

 そして何よりシンプルな話として。
 ────じっとりとした執着を芯に持つ獣が、番を寝取られるなど黙って受け入れるわけがない。


「フゥゥ……フゥー……

 ギギの瞳孔が獣性に従い細く鋭く研がれていく。ただでさえ直前まで、普段飄々としているパートナーからのめいいっぱいのアプローチを受けていたのだから、臨界点は近い。
 番に応えること、別の雄に番を獲られないこと。ポジとネガの動機が相乗効果でギギの雄としての本能を際立たせていく。

「あっ……ギギすごい、おっきい……

 本来ブレーキ役になるはずの六郎は今やすっかりメロメロだった。自分を守るように立ちはだかるギギの背を見て、うっとりとつぶやく。ギギの後姿を実際の尺より雄大に感じさせているのもフェロモンによるものか。
 コンスケはギギが昂る間も最愛の弟の機嫌を損ねたことを後悔し平謝りしているのだが、その謝罪の声もギギにとっては風のそよぐ音に等しいらしかった。
 高まりゆくボルテージを止められる者はもはやいない。


 ────否、いないはずだった。



「隙ありぃ!!」
「ひギィっ!?」


 日陰者を体現する薄汚れた毛色が、コンスケの死角から襲来する。
 その名をインダストリィ。
 彼のヤり慣れたキックは狙い過たず見事、コンスケがぶら下げる大物にクリティカルヒットしたのだった。



「なっ!?」
「いよーう皆さん、お揃いで」
「あぎ……ィっ、あぁ゛……

 驚き、茫然、悶絶。各々がリアクションする中、まず我を取り戻したのは六郎だった。

「インダストリィ、なんでここに!?」
「たまたまそこら辺をぶらついてたら覚えのある声が聞こえたもんでね」

 運よく、いや、運悪く・・・。ちょうどコンスケが現れた頃のタイミングでインダストリィもまたこの場に出くわしていたらしい。奇しくも里の騒動でドンパチフェイクマテリアルをやった間柄だ。そして、

「こいつら兄弟見てたら、気持ちの良いキックが放てそうだったから状況を伺ってた」
「お前らしくて何よりだよ」
「最低だけど助かってるから何とも言えない……!」

 金的のチャンスを決して逃さない貪欲さでここに登場したらしかった。少なくとも、今の混迷した状況では良き助けだ。
 一息ついたところで、独りうずくまって悶えるコンスケをインダストリィは覗き込む。

「いやあ、相変わらず蹴りごたえのあるご立派様だったぜぇ」

 総評まで付け加えるインダストリィに、コンスケは脂汗を流しながら答える。

「その気配殺し……み゛っ見事……!」

 インダストリィからの金的の経験はこれで二度。前回は勝負に負けた際の、言ってしまえば事前の覚悟あっての金的だったが、今回は完全に不意打ち。それがよりダメージを深刻なものにしているようだった。
 コンスケは濁ったうめき声をあげながら、しかし己を討ち取った者ではなく最愛の弟に向けて、なんとか最後の言葉を残そうとする。

「オ゛ぉっ、弟よ……ッ! お兄ちゃんのここ、後で、なでなでし」
「インダストリィ、この馬鹿兄貴にもう一発頼む。いや、気が済むまで頼む」
「あいよ!」
「はぎゅっ! いぎっ、ぁ、っあがぅ、ぃぐぅうう……!」

 かくしてダークヒーローは弛まぬ欲望を蹴りぬかれ、昏倒したのだった。




◇◇◇



 とはいえ。
 闖入者は変われど、問題は依然変わっていない。すなわち、いまだ興奮の余韻で息を荒げるギギと、フェロモンに中てられて様子の乱れた六郎をどうするべきか。

「お兄さん、大丈夫かなあ……?」

 コンスケを案じる六郎の声はいまだ色香を残していた。とろんと甘い瞳はギギからしてみれば、コンスケをというより、強い雄が退場したことを惜しんでいるように思える。となればますます悋気が熾り、一度は冷えたはずの頭がまたタガを外そうと躍起になり始める。

「ロクロウ、元の身体に戻るまであとどのくらいだ……?」
「わかんないけど、うーん、ぎゅーする?」
「しない」
「したら治るかも」
「わかりやすい嘘つくな」
「あっ今俺男に戻った気がする。ほらほら、触ってみ?」
……わかりやすい嘘つくな!」

 問答はコンスケが現れる前の状態にすっかり戻ってしまった。しかも、六郎がギギの理性をぐらぐら揺らしにかかってくるものだから、よりタチが悪かった。本能の炎が燃え上がれば燃え上がるほど、理性の蝋が溶けるのもまた早い。六郎の身体が戻るのが先か、ギギがお手付きをするのが先か、まさに時間との勝負だ。となれば────

「インダストリィ!」

 ギギは眉間に皺を寄せ、インダストリィを呼ぶ。
 さてインダストリィはと言えば、倒れたコンスケの益荒男のサイズを確かめたり黒タイツを弾いて遊んだりしていた。が、名指しされて素直に顔を上げる。

「ん?」

 ギギは六郎のタッチを避けながら、覚悟を決めて言い放つ。

「俺の……も、兄貴と同じように蹴ってくれ!」

 ぴゅう、とインダストリィが口笛を吹いた。だいたいの事情は盗み聴いていたとはいえ、自分から金的をねだるなどとんでもない話だ。

「おいおい。オレの金的はそう軽くないぜ?」
「承知の上だ!」

 ギラギラと燃える瞳がインダストリィを強く催促する。普段であればインダストリィも望まれてヤる悪戯は面白くないと断るところだが、今回ばかりは相手の熱意が勝った。それに、長旅を共にした六郎たちにならば手助けの一つくらいやぶさかではない。もちろん、当人にそんな殊勝なことは言わないが。
 しかし、ここで止めにかかってきたのは六郎の方だった。

「ギギ、絶対痛いって! がちむちお兄さんでさえあんなんなってんだよ!?」

 指さす先には哀れ、急所を痛めつけられて泡を吹き、股間の品定めまでされたあられもない姿がある。ある意味、六郎が男に戻るまでの時間稼ぎをこなした雄姿とも言えよう。情けなくも頼もしい兄をギギは見据えたうえで言う。

「兄貴がやれたことなら俺だって、やってみせる」
「そんな……

 六郎はうめいた。そして、戯れに差し出していた手指を握り拳にする。
 確かに、先ほどから六郎の胸はどくどくと高鳴って収まらない。自分が弁えて、ギギへ異様なほどに惹かれる感覚を堪えさえすれば良いというのも、頭ではとっくにわかっている。ただそれがうまく体に結び付かないだけで。全身の火照りは時間がたてばたつほど酷くなっていて、ギギと同じく、六郎もフェロモンの誘惑に理性の蝋を削られる身だった。
 それでも、ここまでくればそうも言っていられない。

「ギギ、それならいっそっ」

 今ならインダストリィの手も借りれる。ギギが自らを差し出すというのなら、自分の方が先に縛り付けられ、時がたつのを待つべきでは──



「隙っ、ありぃいい!!」
「んぎィっ!」


 ──とかなんとか考えている間にインダストリィの一蹴がクリティカルヒットを叩き出した。慈悲はなし。

「わーっギギー!」
「ふぐぅっ、い、ぎ……っ」

 ギギは涙目になって歯を食いしばる。心配するなと六郎にカッコつけるにせよ、せめて事前に一言欲しかったとインダストリィに弱音を吐くにせよ、とても声が出せない。それどころか、コレを食らって涙を見せなかった兄はヒーローを通り越して覇者か何かではないかと本気で思えてくる。
 地響きのように全身へ轟く、激痛。いくら急所を手で押さえようと、すでに食らった痛みを緩和する術はない。
 ついにはギギの目尻から、ぽろぽろと雫が伝う。

「痛っ、いたいよな、摩る!? 冷やす!? 撫でる!?!? もうこれ下心とか関係なしに純粋に心配だよ俺!」
……!」

 ぷるぷると小刻みに震えながら首を左右へ動かす様は、哀愁すら漂うほどだ。それでもギギは一途に六郎の手を断った。たとえ大好きであっても、大好きだからこそ、ギギに狂わされる六郎など見たくない。
 ギギは生理現象で出ていた鼻水をずびずびと啜る。と、うつむく視界に影が落ちた。

「ひひひっ。軽率に自分の身を捨てて・・・まで誰かを守ろうとするとこうなる。い~い勉強になったなあ?」

 金的必中の隙は何があっても見逃さない、インダストリィだった。
 ギギは依頼通りに成された事を感謝しようするも、やはりどうしようもなく震えるのみ。自身の機能さえ使えなければ、最悪六郎があらぬ痴態になってもなんとか……その発想の代償はあまりに重かった。
 悶絶するギギに代わって六郎がインダストリィへ返す。

「俺、お前の容赦のなさが頼もしいし時々恐ろしいよ」
「頼る相手を間違えたのが悪い」
「いやまあ、これ以上ない適材適所だよね。ありがと……

 六郎は横目でギギを見て、今は無い玉を縮こまらせる。同時に、自分の頭が少しクリアになっていることにも気づいた。少なくとも女としてフェロモンに振り回されず、男だった時の生来の感覚を思い出せる程度には。
 コンスケが気を失っているのも、もしかすると関係があるのかもしれない。狐兄弟のフェロモンは六郎を好色に仕立てるが、過去のトラウマは六郎の足を引かせようと躍起にさせていた。相反する状態から解放されて、六郎はようやく、艶のない安堵の息を吐く。

「ギギ、もいっぱつ食らっとくか? 念のために」
「やめたげてよぉ!!」

 油断すればすぐこれだ。インダストリィの悪乗りを六郎は全力で止めにかかった。彼を引き放そうとし、自然とギギからの距離は開く。
 そしてそんな二人を見届けながら、ギギもまたほっと息をついていた。自分という脅威から六郎を守り切れたことに────。



◇◇◇



「ところでさ、ギギはまだ比較的なんとかなるとして、あの大きなお兄さんをうまいこと運ぶ方法って何があるかな?」
「縄付けて引きずるしかないんじゃん?」
「うわあ」

 インダストリィと六郎は場所を移し、だべっていた。転がされている狐兄弟も当然心配ではあるが、六郎が食べた性転換茸の時間切れが来るまではどうしようもない。

「でもお兄さんって全身タイツだよ? 引きずったらびりびりになっちゃわない?」
「うげぇ」

 むくつけき身体があちこち曝される様子を想像してか、インダストリィがべっと舌を出す。六郎も自分で言いながら、弾ける筋肉に破けた繊維が絡む様を想像してしまい、げんなりとした顔になった。

「まあギギなら……運べるかな?」
「少なくとも俺らが下手になんとかするより上等な結果になるだろうよ。ダメならまっ、ほっぽって帰ることだな」

 捨てられる側に慣れた身は、六郎へあっさりと捨てる選択肢を出してくる。けれども、俺”ら”と口にしている時点で一蓮托生の本心が透けて見えることには、果たして気づいているのやら。あえて悪をひけらかすその態度に、六郎はしみじみと口を開いた。

……なんだかんで面倒見てくれるインダストリィも大概良い奴だよね」
「~~~~気持ち悪いこと言うな!」

 その大声もむずがゆさをかき消すためだと六郎にはわかっているから、ツンケンした語気も心地よく響く。
 もしインダストリィの言う通り、本当に通りがかっただけで目的が悪戯なら、事が終わった今もこうして六郎に付き合う必要などないのだ。幻世に散らばる害意から一般人の六郎を少しでも逃がしてやろうという気がない限り。
 ごまかすように足元を蹴るインダストリィに、六郎はにひひっと笑う。インダストリィは嫌がるだろうが、彼にも後でお礼をしようと計画しながら。



◇◇◇



 そんなこんなで、後日のあらすじ。

 パラムの診断通り、それから数刻で六郎は元の性別を取り戻した。ギギの誘惑体質も矛を収め、休み休みで兄をなんとか運びつつ、里までまっすぐ帰宅。目覚めたコンスケがギギをぎゅぅっと抱きしめて、照れ隠しに吹っ飛ばされたのはご愛敬。
 それから六郎が兄弟に騒がせたお詫びとお礼を用意して、やいのやいのと二泊三日。コンスケは再び人助けに旅立ったが、弟成分が足りなくなればすぐさま帰ってくるだろう。

 一方インダストリィはいつの間にかふらっとまたどこかへ立っていた。が、後日六郎にとっ捕まえられて、ギギも含めてみんなでめいっぱい遊ぶというお礼を押し付けられる。

 六郎とギギはこれまで通り、外で知人に巻き込まれたり内で卓上遊戯に興じたり、刺激的でのんびりな生活を送る日々だ。

 ただ一点、ちょっとした変化を除いては。



「ギギー? 俺ちょっとお散歩してくるから、」
「ん。わかった」

 今にも戸口から出ようとする六郎を、ギギが駆け足で追いかけてくる。

……なんかしてる最中じゃなかった?」
「別に急ぎじゃないからいい。布団整えてたくらいだし」

 答えながら、ギギは六郎の傍にぴったりと陣取る。そしてふくふくの肉球を六郎に差し出す。

「ん」
「んー……。ん」

 六郎は苦笑したが、ギギの視線が真正面から貫いてくるので、素直に自分も手を出した。ぺふ、と六郎の丸みが重なって、二人はしっかり手を取り合う。
 ギギは眉を凛と釣り上げたままだが、隠し切れない内心が尻尾に現れているし、六郎もそこを指摘して隠されるのが惜しいので、にやけ顔で見守るばかりである。


 変化とはつまり、これだった。
 六郎が外に出る時はギギを連れて、離れないこと。
 絶対に、絶対に、絶対に離れないこと。


 危険生物はびこる幻世において、元より里の外に出る時はギギに付き添ってもらうのが六郎の恒例だった。が、その範囲はいまや狭められ、里のみでなく家の外に出るだけすら厳重に警戒されている。その原因を作ったのは六郎なので、もちろん反論はできない。
 のだが。

(ギギにょんはかわいいねぃ)

 半刻もせず戻る散歩であっても、六郎だけで出ると暗に匂わせても、六郎の隣には必ずちょこんとギギの姿がある。六郎の方もそれが微笑ましく感じてしまい、また先だっての事件の負い目もあるので、意地悪はせずギギが駆けてくるのを待つのだった。

……ロクロウ? 行かないのか?」
「行く行く」

 怪訝な顔で見上げてくるギギに、六郎はにひひと笑い返す。口実に過ぎなかった散歩の行先をどこにしようか考えながら。



 並び立つには狭い戸口を、色違いの尻尾がもふもふと触れ合いながら抜け出ていった。




~おしまい~