著者: 雷歌/らいと
2024-03-13 17:35:19
37024文字
Public 戦セバシリーズ
 

【戦セバ/デイⒷ・ユーⒷ】エゴイズムの果て

2011.12.30発行した個人誌のWeb再録。Ⓑがヒューマノイドというパラレル設定なお話です。
発行時は、表紙と挿絵を戦セバ同志の方にお願いしました。


跋、諍い果てての契り


 長い夢を見た。
 夢を見るなんて初めてで、この夢がどういうものか分からなかった。ただ分かるのは、これは俺の夢ではないこと。おそらくは、俺の基となった人のだろう。
 俺の記憶にはない映像ばかりで構成されたソレは、まるで過去に起きた出来事のように見えた。
 やがて視界は眩しい白に覆われた。その中に、ぽつりと染みのようなものが出来る。染みはじわりじわりと広がっていき、ゆっくりと人の顔を形成し始めた。
──ああ、俺の大好きな人だ。
 その表情は不安げで、俺は知らず知らずその顔へと手を伸ばした。夢であるはずなのに、かの人の顔へ這わした指は、確かな人肌の感触を得た。夢とはこんなにもリアルなのかと関心しながら、俺は笑みを浮かべる。
「俺は、笑ったデイビッドさんのほうが好きですよ」
 どうせ夢なら、俺の大好きな笑みを浮かべていて欲しい。
 やがて彼は、泣きそうな笑みで俺の手を握った。


◆ ∽ ◆


 やや独特のにおいを漂わせる白い部屋──病室。
 定期的な電子音は、つながれた人物がまだ命をつないでいることを知らせる。だがその病室には、病人の生活感はない。病室の主は、ベッドの上で静かに眠り続けているのだ。
 その傍ら、穏やかな表情を浮かべてユーゼフが病室の主を見つめていた。
「僕は、待つことにしたよ」
 ぽつりと、静かに語る。
「君が目覚めるその日まで、君がその生を全うし終えるその日まで。僕は、君と一緒にいるよ」
 手を伸ばした先の肌は、白い。ややこけている頬に手を滑らせ、愛おしそうに目を細める。
 “彼”に意識はない。それでも、微笑んだように見えたその顔は、まるで幾年か成長したⒷのようであった。
 ユーゼフは、己の勘違いでも反応があったことに、表情を歪める。嬉しそうに、そして涙が流れそうになるのを隠すように。
 その病室の扉にもたれかかり、セバスチャンは静かに中の様子を見ていた。
 ややあって、どこか安心したように笑みを浮かべると、音を立てずに外へと出た。清々しいまでの青空にセバスチャンは目を細める。
「はやく、かえってこいよ」
 誰に言うわけでもなく、ただぽつりとこぼした。


◆ ∽ ◆


 数日後、ようやくⒷは外出許可を得た。
 あの一件から過保護になってしまったデイビッドをなんとか説得してのことだ。独占欲が強い上に過保護がプラスされたら厄介だと身を持って実感したⒷは、うまい扱いを習得しなければと心ひそかに決心していた。
 Ⓑがデイビッドを説得してまでも外に出たかったのは、彼の基となった人物に会ってみたいからという理由だ。
 Ⓑは、ユーゼフの想い人を基に作られたという話を聞いて、もし可能であるならば会ってみたいと懇願した。初めて会った日にユーゼフは、まだいると言っていたことが、Ⓑの新しくなった記憶装置にもきちんと残されていた。
 病室で眠り続けているけどそれでも良いかい、と問うたユーゼフに、貴方が良ければとⒷは答え、実現したのだ。
「自分の基となった人間に会うなんて、今後ないことだよなー」
 迎えに来たユーゼフのリムジンは、初めて乗ったときとは違い、対面式に複数人が座れるタイプだ。
 あんたいくつ車を持ってるんだ、とマンションの前に止まったリムジンを見ながら、デイビッドが嫌そうな目をしていた。どうやら、Ⓑを直す時にさんざん勿体ぶったユーゼフの態度に対して、いまだ不満を抱いているらしい。
「まあ、本来はすでに会えない状況だからね。せいぜい、墓参りするぐらいかな」
 墓参り程度なら、過去に数度はあった。だがそれは主人の自己満足でしかなく、ヒューマノイドに墓参りする気持ちは、真の意味では理解できなかっただろう。
「前から聞こうと思っていたんですが。Ⓑのパーツって、一から作り直しました?」
「Ⓑくんの治療用に使ったパーツのことかい」
「はい」
「一から、というわけじゃないよ。ヒューマノイドは初め、プロトタイプを作っていたんだ。それから市場用と個人用と派生させてね、その個人用のパーツを今回は使ったんだ」
 もちろん市場用はある一定の期間で必ず壊れる様に作ってるんだ、と得意げに言う様はⒷにとっては複雑であった。派生した方向が違うとはいえ、元は同じもの、仲間である。
 だが、結局ヒューマノイドはただの商品でしかないなのだから、そこは割り切るしかない。限られた時間の中で、そのヒューマノイドにとって一番の主人に巡り合うことができれば、幸せな一生になるだろう。
「逆に、個人用は半永久的に動くか試行錯誤を重ねていたんだ。まあ、勝手に僕の部屋に入った開発員がⒷくんを見つけちゃって、新しいタイプのヒューマノイドとして市場に出してしまったわけだけど」
 深いため息をつくユーゼフは、それでもそれを後悔しているようには見えなかった。
 最終的に良い方向に動いたのだから、その研究員には御の字のようなものなのだろう。怒ったユーゼフは、すでにその開発員をクビにしてしまっているため、後でかなりの退職金を送っておくとのことだ。
 やがて、リムジンは静かに止まった。
 そこは大きな総合病院で、その中でも一番上等な一室に“彼”はいた。
「僕らは出ておくから、好きなように話しかけてあげて」
 ユーゼフとセバスチャンは病室の外に出て、その部屋は眠り続ける“彼”とⒷ、そしてデイビッドのみとなった。
「おお、Ⓑくんよりは歳が上に見えるけど、そっくりだな」
「兄、みたいなものでしょうか」
「んー……双子、かな」
 身長もそう変わらないため、おそらく二人並んだら、見慣れない人間なら判断がつかないだろう。
「Ⓑくんの、人間としての部分はすべて彼の細胞が使われてるそうだからな。そう間違った表現じゃないだろ」
 その皮膚も、髪も、瞳の色も。すべて、“彼”から作られたものだ。双子の定義としては間違っているが、双子だと紹介すれば誰もが信じるに違いない。
 Ⓑは、デイビッドの言葉に自然と笑みを浮かべ、“彼”の手をそっとる。そして、初めましてから始まったⒷの語りは、こう締めくくられた。
 


 貴方が目覚める日を、心待ちにしています。


end.