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著者: 雷歌/らいと
2024-03-13 17:35:19
37024文字
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戦セバシリーズ
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【戦セバ/デイⒷ・ユーⒷ】エゴイズムの果て
2011.12.30発行した個人誌のWeb再録。Ⓑがヒューマノイドというパラレル設定なお話です。
発行時は、表紙と挿絵を戦セバ同志の方にお願いしました。
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三、同気相求む
焦りや怒りや悔しさや、いろんなものが混じっている。
Ⓑを抱えてきたデイビッドは、まさにそんな表情を浮かべていた。
それは、デイビッドを追いやってから二時間程経ってからのことであった。ドンドンと乱暴なノックに不機嫌を露にドアを開ければ、背にⒷを抱えたデイビッドがそこにいた。
「Ⓑくんが
……
Ⓑくんが
……
!」
混乱──何が彼の身に起きたのか分からずに、それでも自分ではどうしようもないことだけは理解し、急いでセバスチャンの所へ連れてきたのだろう。
最後の時には間に合わなかったか、とセバスチャンは心の中で舌打ちする。
「直してくれ、今すぐ! セバスチャンならできるだろう?」
必死な形相で言うデイビッドに、自分では直せないことを告げるのは憚れた。それはまるで、デイビッドの希望をすべて絶ってしまうことでもあるからだ。
あの日も、あの人は俺にそんな表情を向けていたな。
かつての日と今をだぶらせながら、セバスチャンは眉を顰めた。
何故大事なことなのに言わなかったんだと、もっと早く知っていたらどうにか出来たのかもしれないと、セバスチャンは幾度もなじられた。彼自身、その身を裂かれるような悲しみを抱いていたのだが、彼の大事な人との約束で何もしないでいたのだ。
今回も同じことを招いてしまうのかもしれないと、彼は悩んでいた。しかし、まだ希望はある。
Ⓑが直るかどうか──最後の最後、Ⓑを直せる人物が直してくれるかどうかは、セバスチャンにとっては賭けである。
デイビッドが、彼に認められれば良い。彼に、負けなければいい。
勝敗はまったく見えない賭け。だが、今回も諦めてしまえば、後悔は一生消えないだろう。
(お前への償いではないが、悪あがきしても良いだろうか。なあ、最愛の弟よ。俺も希望を持つとしようか)
決心したかのような強い光を宿した瞳で、セバスチャンはデイビッドを見やる。
そうして、取り出したメモ用紙に何かを書いて渡した。
セバスチャンから渡されたメモを頼りに行くと、とある屋敷にたどり着いた。その屋敷は、以前Ⓑが来た屋敷と同じだ。
デイビッドは、苛立ちとともに呼び鈴を荒く鳴らす。そう経たずに、屋敷の門、扉と順に開いていく。まるで、招きいれるかのように。
しかし、その様子にデイビッドが怖気づくことはない。たとえ悪魔だろうとなんだろうと、Ⓑを直せるのなら乗るつもりでいるのだ。その命を賭けても。
それほど、彼にとってⒷは大切な存在になっていた。
目の前で開いていく扉にしたがって、デイビッドは駆け足で進んでいく。やがて、屋敷の一室に着いた。
両側の壁にある本棚にはびっしりと本が並べてある。部屋の役割は、おそらく書斎だろう。
その書斎のテーブル前に立って本を手に持っていた男を見て、デイビッドは目を見開いた。だがすぐに納得する。
男の名はユーゼフ──ヒューマノイドの考案者にして第一人者であり、デイビッドを現在雇っている会社の社長でもある。そして、だからこそ寿命を迎えたⒷを唯一直せる人物。
「会社で一度会ったかな。覚えているかい?」
開いていた本をぱたりと閉じ、薄い笑みをデイビッドに向ける。
「世間話は良い。はやく」
デイビッドが噛み付くように言おうとすれば、ユーゼフはそれを手で制した。視線をデイビッドの背後にある扉へ向ければ、2回ノックの音が響く。
ユーゼフは頷き、再びデイビッドに視線を向けた。
「君に聞きたいことがあるんだ」
そんなことよりも、と言おうとして、ユーゼフが続けた言葉に口を開きかけて止まった。
「Ⓑくんを直したら、僕に返してくれるかな?」
交換条件だ、まるでそう言っている。
彼は、なんと答えるだろうか。素直に頷くか、嫌だとダダをこねるか。どんな答えにせよ、ユーゼフにとって重要なのはその覚悟であった。
「Ⓑくんだって、僕のところにいたほうが幸せだよ。何かあっても、僕がすぐに診れるからね」
俯いている彼の肩が、ぴくりと動いた。
「Ⓑくんが幸せになれるかなんて、社長さんに分かるのか」
ぽつり、と呟かれた言葉にユーゼフは表情を消した。
「俺は、社長さんとこに行ってⒷくんが本当に幸せになるならそれで良い。けど、どこに行くか、それはⒷくんが決めるべきだ」
ユーゼフに向けられた瞳には、強い光。一寸の迷いも感じ取れない、まっすぐな。
「まあ、俺を選ぶと思うけどな!」
そう言って、冗談とも本気とも取れる笑みをデイビッドは浮かべる。眩しいばかりのそれにユーゼフは苦笑し、最後の質問を投げた。
「君は
……
もし、またこんなことが起きたらどうするんだい?」
Ⓑがデイビッドを選ぶであろうことは、以前、屋敷で話した時にユーゼフには分かっていた。
だからこその質問。デイビッドは少しの間もおかず答える。
「社長さんに診てもらうぞ?」
驚いたように目を見開くユーゼフにデイビッドは続けた。
「ただし、俺がⒷくんを直せるようになるまでだ。すべてを見て、社長さんから学ばせてもらうからな」
仮にもライバルという位置に座していた男を前に、臆せず言う。その様子にユーゼフは面くらい、しばらくして笑い出した。
「そんな君だからこそ、難しいうちの会社が仕事を任せたんだったね」
デイビッドに任せられた仕事は、新しいヒューマノイドに関する企画だ。フリーの人間に任せるのは初の試みであったからこそ、人選は慎重に行われた。
皮肉なことに、何がしかの手違いでⒷを商品として外に出した会社が、Ⓑを手に入れた人間を見つけたのだ。
(人の縁は奇妙なものだね)
どこか安らかにさえ見える、起動停止したⒷの顔を見て思う。そして、Ⓑを通して彼の大事な人へと思いを馳せた。
静かに目を伏せる。次に開いた目の奥には、覚悟の光がともっていた。
「長いこと悪かったね。Ⓑくんを奥へ。治療を始めようか」
その言葉をどれほど待ったか。デイビッドは心の奥から溢れ出ようとしてくるものを抑え、うなずいた。
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