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ツキシキ
2024-03-04 22:05:25
15548文字
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★Unlight(アンライト)まとめ
4作品。二次創作。タイレル、C.C.、クレーニヒ、メリー、グリュンワルド、ルート、ヴィルヘルム。
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ステップは踏めない
まさか、この場でダンスパーティなどといったことができてしまうとは。
果たして誰が言い出したのか、思い付きと気まぐれで加速した成り行きのせいか。始まりのきっかけはもはや誰にもわからない。酔狂だという点だけが共通認識だ。
個性も時代も異なるヘラルド達にまともな形の舞踏会など開けるはずもなく、盛り上がり方も異様だった。多少の乱痴気騒ぎは当然のこと、質の良いワインに興じる面々もあれば割った瓶で殴り合う短気者もいる。
「ふふふ
……
」
それでもシチュエーションというのはそれだけで膨大なエネルギーを────妄想を生み出してくれる。C.C.の脳内は目まぐるしく回転していた。
例えばこんな話。
――
合わない男女の数、女性慣れしていないレジメントの面々。こんな華やかな場は似合わないとばかりに館の影へ引っ込む二人。スポットライトの当たらぬ場所で、鳴るヴァイオリンの音に負けぬよう、顔を近づける彼ら。他意はないはずの自然な距離が逆に親密さを言外に漂わせ、そして誰に言われるまでもなく
――――
パリン!
不意に弾けるように鳴り響いた破裂音に、C.C.は思わずびくりと肩を震わせた。
自分が妄想に入り込みすぎて手元を緩ませたのかと思い、慌てて見るがグラスは相変わらず濃紅の色を持ってそこにある。
ならば、と視線を巡らせばホールの中央、全く似た顔の二人が喧々とにらみ合っていた。
「あんたンとこのポンコツは本当に、人を苛立たせるのが得意ね!?」
「だらしなくリボンなんか垂らしてるのが悪いんでしょ」
なぎ倒されたワインボトルが床に赤いシミをつくる。惨状を生んだのは大鎌を掲げた彼女、ドニタのほうだろう。向き合う同じ顔の少女、シェリは淡々と飼い犬を撫でながら殺気に応じている。
シェリの飼い犬が粗相をしたのだろう。そう察せてもC.C.が間に入れる状況では到底ないし、そもそも割り込もうとも思えない。巻き込まれなくてよかった、と安堵の息さえ漏れるほどだ。
よくよく見れば周りの者も別段それを止める気は無いらしく、諫める係はいるにしても、各々が自由にタバコをふかしたり料理に舌鼓を打ったりしている。場の中央で踊る者のほうが少ないくらいだが、当たり前といえば当たり前なのかもしれない。律義に音楽を鳴らし続ける彼らは嫌気がささないのだろうか、とちらりと思う。
いずれにせよ、肝が冷えた。
「ああびっくりした
……
」
「本当、野蛮で困りますね」
「野蛮って言うのは言い過ぎだと思うけど
……
やっぱり暴力はちょっとね
…………
えっ?」
独り言をつぶやいたはずが、返ってきた答えに思わず顔を勢いよく横に向ける。
そこには、怜悧な眼差しで惨状を見やる顔があった。
「タイレル! なんだ、居たなら言ってくれたらよかったのに」
「声はかけましたよ。君が気づかなかっただけで」
「えっ、ご、ごめん。いつから?」
「
……
君が一人でにやにやと怪しげに笑っている時から」
「
…………
ごめん」
顔を隠したくなるが、あいにく手にはグラスを持っている。とりあえず誤魔化すように口へと煽れば、爽やかな甘みが口内に広がった。
「ワイン、飲むんですか」
不思議そうに尋ねてくるタイレルの手元にグラスは無い。
「ううん、これはノンアルコールだって。タイレルは飲まないの?」
「特に必要を感じないので」
「そっか」
「
…………
」
「
…………
」
そこで、会話は途切れる。何か話を振った方がいいのだろうが、C.C.からは上手い糸口が見つからない。
そもそもタイレルの事、こんな催し事は非効率的な無駄しかないと言って部屋に篭るなり何なりするとC.C.は思い込んでいた。自分が参加したのだって、言ってしまえばダンスパーティというシチュエーションと参加者の男性陣に惹かれたからであって、あまり自分自身がスポットライトを浴びる気はない。
「ええと、タイレルは
……
」
なんでここに、と言いかけて止まる。彼を拒絶しているように聞こえてしまってはたまらない。かといって良い言い換えがとっさには思い浮かばず、曖昧な笑みがぎこちなく漏れる。
まだ全ての記憶を思い出しきれていないC.C.にとって、タイレルはなんとも立ち位置の難しい相手だった。どことなく居心地の悪さを勝手に感じてしまうが、彼自身を嫌悪していたり苦手意識があったりするわけではない。むしろ同職として話が弾みかけることもままある。
それなのに流暢にいかないのは、C.C.の胸の見えない棘が苛むからだ。だから、彼のことは嫌いではない一方で、傍にいると落ち着かない気分にもさせられた。
「C.C.?」
「あっ、ええと。タイレルは、踊ったりしないの? ほら、ベリンダさん、だっけ。向こうにいるけど、親しいんだよね?」
ふっ、とタイレルの呼吸が止まった、気がした。同時にC.C.の棘はいっそう深く刺しこまれる。話題替えのつもりだったけれど、
また
・・
自分は不用意なことを言ってしまったのだろうか。
────また?
不意に浮かんだ疑問が、棘の輪郭をなぞりかける。しかし、その前にタイレルが唇を動かした。
「ベリンダは、君の考えているようなものではありませんよ」
「
……
そ、そうなんだ」
じゃあどういう、と踏み込む気にはとてもなれなかった。棘の正体も気にはなるが、それ以上に、薄れたはずの記憶がもやの中で警鐘を鳴らしていた。
タイレルは考え事をするように遠くを捉えた。そしておもむろに、思いがけない鋭さでC.C.を捉える。垂れ目がちの糖蜜みたいな瞳、もっと甘く見えても良いだろうに。C.C.はわけもわからぬまま、身構えるようにグラスを取る指先へ力を込めた。
「君はどうなんですか」
「えっと、何のこと?」
「踊る相手ですよ。いないんですか?」
なんだ、そんなこと?
もっと詰問口調の何かが飛び出すと思っていたC.C.は、あからさまに肩の力を抜く。そして直後、脱力が気取られてしまってはまたタイレルを不快にさせてしまうのではと思い、背筋を伸ばした。それだって手遅れだろうに。
なんだか挙動不審になってしまっていることを自覚しつつ、C.C.はへにゃりと笑う。
「やだなー、いるわけないじゃない」
「そうなんですか」
「そうだよ。当たり前だよ」
「
……
そうなんですか」
タイレルはなぜか同じ言葉を二度繰り返した。
その意図を尋ねる間もないまま、タイレルの視線は再び遠くへと行ってしまう。こうなってしまっては声をかけるのも気が引ける。けれども、彼の足は動く気配がない。立ち去る様子も、ステップを踏みにホームへ向かう様子も。
C.C.もなんとなしにホールを眺める。よく似た姉妹の争いは苛烈さを増し、野次と救護と仲裁が入り乱れて戦場と化していた。
あちこちで破砕音が飛び交う中、C.C.の頭にも順繰りに言葉が浮かぶ。
――
なんだかすごい騒ぎだね、
――
タイレルはこれからどうするの、
――
どうして私なんかの傍に?
話のきっかけはいくつもあるはずなのに、C.C.の中の怯えがそれらを全て押し込めてしまう。
こんな怯えを吹き飛ばして、彼女たちのように踊り回れるようなタイプだったら、ちょっとはこの居心地の悪さも解消できていたのだろうか。
C.C.は堪えかねた気まずさを、ため息とともにそっとグラスの内へと吐き出したのだった。
『ステップは踏めない』了
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