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ツキシキ
2024-03-03 10:55:49
15076文字
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★crsmまとめ
仮住まとめ。オールキャラ、名前変換無しモブ、ネームレス夢含む。
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たくさん食べて大きくなろう!
・ふみや×ホスト狂いの女の子
・ふみやがレンタル彼氏のアルバイトをしている
・キスシーンあり
____________
「だからさあ、被りでもマナーがあるでしょって話なの!」
私が喋ってる間ずっと、ふみやはもくもくと口を動かす。あいづちではなく、食べるために。
ふみやの前にはコンビニのシュークリームが山盛りになっている。そこそこ手痛い出費をして積んだはずのそれらは、みるみるうちになくなりつつあった。
……
こんなことにお金出してる場合じゃないのに。
そこを言うならまあ、ふみやが来るのを忘れて慌ててコンビニダッシュした私が悪いんだけど。安いお菓子とか考えずに、目について一番量が多かったものを買っちゃったのも、雑だったかもなんだけど。
「ふみやさあ、聞いてる!?」
ふみやはシュークリームを頬張ったまま頷いて、それからごくりと飲み下す。食べるじゃなくて、飲むと言うのがしっくりくる。
「聞いてる。太客の態度が悪いって話だろ」
我関せずな態度だけど、ちゃんと、返事をする時は真っ直ぐ私の目を見てくれる。なんだかんだでふみやと縁が続いてるのはこういうところからだと思う。会うたびに大量の甘味が必要なのは高コストだけど、本命のためのシャンパンに比べればはした金だ。
「そお! こっちの民度だって担当の売り上げに関わるんだからさあ、ちゃんとしてほしいんだよね」
ふみやは静かに頷いて、次のシューへと手を伸ばす。本命────私の担当ホストと違って、全然かまってくれない。でも、だから、私はこんな風に愚痴をわめき散らしたって許される。
◇◇◇
レンタル彼氏。
ホストよりも安価で、利用時間は確保されていて、被り客に取られてぼっちになったりころころ離席されたりすることもない。ホストの代わりにレン彼へのめり込む子もいるらしいけど、私の場合はそうならなかった。
なにせ、相手が、伊藤ふみやなのだから。
ふみやはレン彼とは思えないくらいに自由な人だった。
媚びてこない、口説いてこない、でも潔癖ってわけでもなくていきなりギョッとするような言動をやらかしてくる。何より、他のキャストと比べてかなり若い。期間限定のアルバイトとして始めたらしい彼が、私とたまたま巡り合えたのは、今にして思うとかなり珍しい確率だと思う。
初日の私の要望はこうだった。
「本命に嫉妬させたいから思いっきりいちゃいちゃして」
その時期の私はひどく荒んでいた。ホストの姫なんて大なり小なり狂ってなんぼだけど、その中でも特にバッドが入っていた。
担当周りの民度の低さと、それと同類に見なされている堪えがたさ。ろくに客の調教もできない担当のプロ意識のなさ。たいして巧い嘘もつけないくせに、好きだなんてぬかして、粗悪な砂糖は毒と同じだってことをわかってない。
腹立たしくて仕方なくて、その程度の甘い言葉で騙される馬鹿だと思われているのも悔しくって、だから私は決意したのだ。ろくに演技もできないようなら、ホストなんて辞めちまえ、と。だから、
「どうせ騙すなら徹底的にやろうぜ」
ふみやがそう言ってきた時、思わず私は呟いてしまった。
「人の心読めるタイプ?」
暗い暗い、闇色の瞳が一瞬だけ光った。それもアリ、と言わんばかりの輝きだった。
レンタル彼氏も商売である以上あれこれ規約があって、破ると罰金やブラックリスト入りの出禁扱いになる。ハグはダメとかキスはアウトとか。
はずなのだけれど、ふみやは堂々をそれを破った。
私の担当に出くわすや否や、ふみやは私にディープキスしてきた。しかも、私に断りもなく。営業時間外の担当を上手に誘導して、逃げ道を絶ったうえで、見事に見せつけたのだった。
私の唇と舌をいっしょくたに吸ってから、ふみやは改めて担当と向き直った。
「こいつが貢いできた金、全部俺にくれない? 俺、こいつの彼氏なんだよね」
金かよ。
この子を返せ、とか言えよ。
そう思いはしたけれど、でも、ふみやの人となりがよくわかるセリフでもあった。変に甘いことを言わないのは不思議と信頼できる気もした。
「貢ぐとかそういうんじゃなくてさあ
……
」
担当は、困ったなあという顔を作って答えた。隠し切れない苛立ちが眉間のシワになっている。
この小さな違いに気づけるのは、私以外に、誰がいるっていうんだろう。他にも、顔が青白い。スーツの襟がよれてる。髪のセットが乱れてる。店外だから油断したんだろうけど、店外だからこそ気を付けろよって思う。
私がアフターしてあげられてたら、さりげなく直してあげたのに。デキる姫として、担当をナンバーワンへ押し上げるために。
「うん。欲しいサービスに対しての対価なら、貢いでるわけじゃないよな。何なら、ただの酒代なのかもしれないし。でもさ、そもそも、勘違いしてないか?」
ふみやは動揺することもなく、淡々と語り述べていく。その隙に私は、キスの勢いの激しさに垂れたよだれを拭う。担当を責められたもんじゃないけど、二人とも私を見ていなかったから、セーフってことにする。
……
セーフ、なんだろうか。
ちらりと上目遣いで担当を伺う。ふみやがつらつらと続ける論を浴びて、困惑しながらも固まっている。一理あるよなあ、とか考えてそうな顔だ。ふみやはふみやで、ブラックホールみたいな瞳で担当を呑み込もうとしている。
────あれ、これって私、蚊帳の外?
おかしい。この場面って乙女の憧れの、私を取り合ってケンカしないで、なシチュエーションなんじゃないの。なんなら、私、キスされたよ? なんで担当はそこを怒ってくれないの? ふみやも、仮に彼氏のフリするなら自慢して煽ってくれたってよくない?
「あのさっ
……
」
至近距離で話し合う彼らが、揃って私の方を見る。いつの間にか、ふみやは担当にグッと詰め寄っていた。ぽつんと空いて取り残された私は、今、どうしようもなく一人だ。
真っ先に動いたのは担当だった。
「ごめん
……
!」
私の名前を呼んで、真正面から抱きしめてくれる。ふんわりと包み込むように。そうして、耳元で私に囁く。不満にさせてごめん、いつも見てくれてありがとう、私が色々と気を回してカッコイイ担当の後押しをしてくれるおかげで店でもやっていけてる
……
。
「でも、優しさに甘えすぎてた。ごめん」
彼のスーツのボタンを撫でる。跳ねる心臓が嬉しくってたまらなかった。
私のこと、見てもらえてる!
そうだよ、私、こんなにがんばってたのに。理想的で、手のかからない、大事にされる姫として。
でも、これでわかってもらえたってことなら、
「彼氏も、さ。店でしか時間作れないオレに言う権利はないし、好きにしたらいいと思う。せっかく二人で作ってきた時間がこれでおしまいなのは
……
さみしい、けど」
……………………
え?
息を吸って、ヒュッ、と変な音が漏れた。
だって私はこれからも店に行く気満々で、これで担当が改心して、もっと私のこと見てくれるようになるはず。でしょう?
グイッと後ろから腕を取られて、引き離される。ぽすんと背中がぶつかって、その先にはふみやがいた。
「もういい?」
後ろからぎゅっと抱きしめられる。担当よりも強く、私のことなんて気遣わない扱いで。
「じゃー俺ら行くから」
「ま、待ってふみや」
連行されかけながらふみやに乞う。このままだと私、終わったことにされちゃう。彼の中で綺麗な別れ話にされて、なかったことに
……
。
ゾッとする寒気が足元から一気に這い上る。悪寒を追い払おうとして、気持ちばかりが急いて焦げる。今すぐ本命へすがらないといけないのに、押しとどめてくるのはふみやの腕。駆け巡るのは昏い店内と煌びやかなグラスと本命の笑顔。そして帰ってくる一人ぼっちの現実、誰も迎えてくれない澱んだ部屋、通帳の残高。離される。終わりにさせられる。終わったら戻らないといけなくなる。今まで費やしてきた何もかもを無駄にして!
「ふみやっ!」
恐怖の象徴は今やこの男だった。私を夢から引き離そうとする腕。噛んででも止めようと口を開く。けれど、
「押してもダメなら引いてみろって知ってるよな」
そんなふみやの言葉で、私の口は空気を食んだ。
それから、24時間営業のファミレスに入って、異様な量のパフェを注文されつつも、レンタル彼氏の規約上文句は言えないからしぶしぶ受け入れて。
「で、どうすればいいの
……
」
私はふみやを問い詰めた。引いてみろって言ったって、私はホスト通いを辞めるわけにはいかない。私がいない間にも他の姫が彼にボトルを入れて、昇進のきっかけを逃すかもしれない。
ふみやは飄々と言う。
「したいようにすればいい」
無責任。私はカッとなって机を叩きそうになり
……
ここはホスクラじゃないんだと息を整える。
「だから。これで店行ったら、私、彼氏いるのにホスト辞められないちょろい客じゃん」
「彼氏がいるからいいんだよ」
ちょうど、アラームが鳴った。ふみやのスマホからだ。レンタル時間の終わりを告げる、機械的な音だった。まるで神様がそう仕組んでいたかのようなタイミングだった。
「じゃあ俺はこれで」
パフェ用の長いスプーンが、カランとグラスの中へ落とされる。
ふみやは綺麗に食べ終えて満足かもしれないけど、私はまったく、中途半端だ。
「待ってよ、彼氏がいるからいいってどういうこと? こんな、ぐちゃぐちゃにされてっ」
「
……
追加でジェラート注文していいなら、延長する」
ちら、とふみやが目をやった先のメニューには新商品のジェラートが3種類掲載されていた。
「まだ食べる気!?」
「うん」
「この
……
」
それでも、ホスクラの席代に比べればずっと安い。私は注文用のタブレットをふみやに押し付けた。初めから決めていたかのように、指はタブレットを軽やかに連打する。
「早く、本題」
「彼氏がいるからいい」
「それは聞いた!」
「彼氏がいるってことは、誰か、大事にしてくれる人が別にいるってことだろ。それだけで自分の価値が高くなる」
ふみやと目が合う。いつの間にか注文は終わっている。商品の価値はわかりやすく現金だ。でも、私たちは。
「『私にはあなたしかいないの』って、つまり、何したってコイツは離れて行かないんだなとしか思えない」
とつとつと、語りだす。先ほどまでの言葉足らずが嘘みたいに。
「彼氏がいるからいい。向こうになびかれないようにホストは今まで以上に必死になるだろうし、対戦相手がいる方が盛り上がることだってある。でも、そのライバルが同じホストだと意味がない。口裏を合わせて、限度額まで出させればいいだけだから。その点、彼氏なら良い。口裏の合わせようがない」
声が心地よく耳へ流し込まれていく。低いのに聞き取りやすくて、ずんとお腹の奥へ納得が降りてくる。ふみやの言う一つ一つが、染み渡っていく。
「さっきの
……
おまえの担当?は終わりを匂わせてきたけど、別に終わらせるかどうかはこっちが決める話だろ。店行くか行かないかだけなんだから」
一息ついたところで、配膳機械が注文を届けに来た。タイミングが良い。いや、さっきからずっとこうだ。まるで、ふみや自身が動かしてる、みたいな。そんなはずはないのだけれど。
ふみやはジェラートにスプーンを突き立てる。真っ白なアイスが、えぐられて、溶けた。
「主導権はこっちにあるって勘違いさせよう」
そこでようやく、私は、息をついた。聞き入って、呼吸すら忘れていた。そしてはたと気づいて言い返す。
「で、でも、私彼氏なんていないし」
「俺は?」
「えっ
……
?」
「俺、このバイト辞めるんだ。色々面倒が多くて。だから、」
ふみやは言葉を切って、私をじっと見つめてきた。
「個人的に俺のこと、彼氏として借りないか。料金は甘いもので。それに、」
クリームが付きっぱなしの唇が、私を誘う。成り行きでさせられたいきなりのディープキスを、今さら思い出す。一瞬で食べ尽くすみたいな、あの、まさぐられる感覚
……
。
「本人には言えないけど言いたいことって、あるだろ。俺に吐き出したらいいよ」
たくさん、ある。
「
……
彼氏っぽいことも、していいの?」
「いいんじゃないの」
誘いに応じて、私は素直に立ち上がった。顔を寄せる。ふみやは片時も視線を外さない。
唇を、ぺろりと、舐める。判を付くよりもずっと滑らかで、おいしい。甘いクリームが、揺さぶってかき混ぜられた脳みそに、よく効いた。
◇◇◇
「ふーみや、またクリーム付けてる」
私の愚痴を聞く合間にも減り続けていたシュークリームは、ついに綺麗さっぱりなくなっていた。代わりに机の上には空になった包装がこんもりと積んである。
「ああ
……
」
ふみやは舌を出しかけてから、ん、と私の方へ口を突き出した。
「私、掃除係じゃないんだけど?」
文句を言いつつも彼の唇へ舌を寄せてしまうのは、これがすっかりお決まりの流れになってしまっているからだ。
クリームを舐めとる私の舌を、今度はふみやが唇で挟む。少し吸われて、大人しくしていると、舌の裏側へふみやの舌が滑り込んでくる。犬みたいに余すことなく舌を引き出されて、おとがいに添えられた手が私のあごを上向かせる。
「んぅ
……
」
彼に全部捧げるみたいに、私は従順に舌を出す。ざらついた表面も、肉厚な側面も、丁寧に舐め尽くされる。
とってもシンプルな話。誰かに触られるのって、すごく、気持ちいい。
「ごちそうさま」
時間も忘れてしまうような頃合いで、ふみやは唇を離した。はぁ、と息をつく。ふみやのキスは初めて会った時からずっと、変わらない。甘いのはキスだけで、態度や言葉はスンとすましているところも。
「ふみや、私の本当の彼氏にならない?」
たまに私はこう問いかける。そして、ふみやの答えはやっぱり変わらない。
「俺たち、こういう関係の方が上手くいくよ」
これだからなあ
……
なんて思いつつも私は笑顔になってしまう。
ふみやって、冷たいからこそ誠実に、私を大事にしてくれてるよね。なんて!
→次ページへ続く
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