ツキシキ
2024-03-03 10:55:49
15076文字
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★crsmまとめ

仮住まとめ。オールキャラ、名前変換無しモブ、ネームレス夢含む。



少年Fの通報により事件は明らかにされました


・モブ男視点
・↑ふみやの知り合いで人を殺した
____________



 ────まあまあまあ。

 白々と言う伊藤ふみやの声が聞こえた気がしたから、だから、大丈夫だと思ったんだ。



 ◆◆◆



 ドッ、ドッ、と全身が脈打っているのを感じる。口から心臓が飛び出てきそうだったので、深く息を吸い込んでごまかした。

 整理しよう。
 目の前には死体があり、やらかしたのは俺である。人生おしまいになりたくなければ、コレをどうにかしなければならない。

 ゆっくりと息を吐き出す。大丈夫だ、俺には心強い味方がいる。
 妙に汗ばむ手でスマホを操作し、滑り落としかけつつも、求める通話相手の名前を画面に表示させる。

 伊藤ふみや。

 彼ならば、きっと知っている。ちょうどよく死体を埋められそうな山林とか、運ぶにも一苦労な人体のバラし方とか。何せ彼はいつも、どこか当然といったような顔つきでもって、とんでもないことを言い出すので。
 とんでもなさで言えば今の俺の事態の方が上なのだが。そうと思えばなぜだか口角が上がってしまう。ひへっ、と、引きつった笑いが漏れた。笑った当人の俺さえ、あ、だいぶヤベー笑いだなとドン引いた。
 着々と壊れてきている俺を、どうか冷静に引き戻してほしい。俺は乞い願うように通話ボタンをタップする。
 幸いにして、伊藤ふみやは電話に出た。

「ふみや。俺と一緒に死体埋めに行ってくれ」

 情けないことに、声は震えた。でも、この一言さえ言えればもう良かった。だってあとは伊藤ふみやが…………

「えっ、怖……

 なんだよその反応。

……へっ?」

 予想と違った答えに、また、口角が上がった。俺の唇から出た、嗤いにも似た音に、ふみやはたっぷりと間を置いてから返してくる。

「あー…………その死体って、どこから?」
「おっ、おぉ、おれがやったに決まってるだろ、こんなこと、言い出す時点で」

 どもりにどもった声で、俺は言い重ねた。目の前の揺るがぬ証拠を、早いところふみやと共有しなければならない。状況をわかってもらいさえすれば、きっと全てが解決する。警察にだって口裏合わせて、なんとか。そう焦りながらも、心臓は再び激しく胸を打ち付けていた。目を逸らすなと警告するかのように。

「マジ?」
「まじ……

 間違った道を進んでいると気づいた時点でピタッと立ち止まれるやつはもはや才能だと俺は思う。普通の、凡人ってやつは、だらだら惰性でちょっと区切りの良さそうなところまで進んでみてそれから引き返すのだ。ああやっぱり駄目だったか、嫌な予感はしてたんだよなと。
 そういうわけだから俺はふみやが、

「うわー。言質取っちゃったよ。どうしよう」

 と言ってようやく、二度目の過ちを犯したことを自覚した。

 ────どうしようってなんだよ。

 彼を知らない者からすればまったくもっておかしく聞こえるだろうが、俺は、伊藤ふみやならば死体の処理などお手の物だと、本気で信じていたのである。



「あー……

 ふみやは何ともつかない声を吐く。その声から察せられる感情の全ては、まさしく彼の言う通り「どうしよう」でしかなかった。
 脳天からみぞおちにかけてサァッと血の気が引いていく。そうなると今度は急に辺りが気になり始めてしまった。
 このまま、こんな、目の前に死体ドンと置いてある状態で呑気に話をしてていいのか、俺は。確認したくても、きょろきょろしたら怪しいか? 今、どういう状況だ。そもそも、どうしてこんなことになった?

「まぁまぁまぁ……

 そうだ、これだ。伊藤ふみやがいるからって。あいつなら、いつもこう言いながらシラッと、なかったことにするからって思ったんだ。
 けれども俺の道しるべになってくれるはずの彼は、とうとうただの未成年として、無責任な言葉を残す。

「ドンマイ。じゃ」
「待っ、」

 通話は終わった。あっけなかった。あまりに、あっけなかった。
 手からスマホが滑り落ちる。身体だけが勝手に動き、かがんで拾おうとして、止まる。
 だって、そこには、ある。死体が。俺の、殺した。処理しないと。どうやって? 動かして、どこに、自首を、今更、明日からどう、腹減った、そうだ牛乳切れてたんだった、いやそうじゃなくて────。
 落として暗転したままのスマホを見る。通話は終わった。信じていた悪魔はひっくり返って、伊藤ふみやはもういない。いいや、そもそも夢だった。なのに現実が終わらない。
 カチカチと鳴っていて、気づけば、俺の歯の根が噛み合わず震えている音だった。

「ふみや」

 かがんだままの体勢が崩れて、俺はその場にへたり込む。舌が回らずとも発音できる、奴の名前は呪文のようだ。
 まぶたを閉じる。現実を追いやる。脳内で、未練がましく声が響く。

 まぁまぁまぁ。

 ────軽薄なその口調でごまかして、全部なかったことにしてくれるんじゃなかったのかよ。そうじゃなきゃ、おまえがいなきゃ俺は、こんなことしようとも思わなかったのに────



 目を閉じているのに涙が滲んだ。
 凡人にとって嫌な予感なんてものは、手遅れの証でしかない。


 逮捕されてもやっぱり人生は続いてしまうんだろうし、そうなったって、きっと伊藤ふみやは俺を殺してなんかくれないんだ。





 ~END~