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ツキシキ
2024-02-26 18:25:44
22186文字
Public
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【color:clear】COLOR・OVER
二次創作。ヴィゼール×クリア。
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◆彼女のための場所
石碑にファミリーネームを彫り込むことはできなかった。
あの少女の過去を知っているらしい神官は、だんまりを決め込んだようだ。シャンが言うには、神に祈りを捧げるので忙しいそうだ。
ヴィゼールから何か働きかけをすればそれらしい非道な拷問だってできただろうが、そうする気にはなれなかった。話の通じない奴に時間を割くのは愚かしいことだ。何より、ヴィゼールはあの神官の姿を見てもまだ冷静でいられる自信が無かった。
きっとシャンの気が済めば、神官も適当な頃合いで元のところへ帰されることだろう。その際に再び人間軍との禍根が火を吹くだろうこともヴィゼールには想像がついていた。だが、シャンならその噴火のタイミングを一番こちらに都合よく合わせることができるだろうとも思っていた。ゆえに、ヴィゼールがこれ以上暗い感情に身を浸すのは、ただの時間の浪費にしかならなかった。
ヴィゼールは石碑に手を添え、彫られた短いその名をなぞる。長ったらしい名前がここに綴られようと、ヴィゼールにとってそれはよく見知った別人に他ならないのだろう。少女のことを何も知らないのは、かえって救いになっているのかもしれなかった。
少女を喪っても、存外世界は続くらしい。
聖竜の誤解がなくなっているのなら、きっと人間軍と魔王軍は不可侵を保てるだろう。そうでないなら、部下達が生き残れるよう死力を尽くすだけだ。それさえ終われば後は適当なところで、力尽きても良い。自棄ではなく本心からヴィゼールはそう思っていた。その時を想うと不思議と荒れかけた心も安らかに落ち着いた。
ヴィゼールはこっそり頭の隅で、何かの拍子に親父殿が復活して世界が滅ぶと言うのなら、それもそれで有りだと思っていた。あの小生意気な人間の少女一人がいなくなった、それだけで、ヴィゼールの世界はずいぶんと色褪せたからだ。
少女と会う前に見ていた光景ともまた違う、乾燥したような色合いの風景。もし、これが無色の世界だというのなら、少女の見ていた世界はひどく虚しいものだったのだとヴィゼールは思う。
だからこそ、ここは花で埋め尽くされていた。
ヴィゼール自身は草花のことなど詳しくないが、別にここはヴィゼールのためだけに存在しているわけでもない。少女趣味の花々はライラに任せれば良い種を選んでくるだろう。シャンは花束の作り方など手なれたものだ。シレーヌなら特殊な花の配合ができるだろうし、ギルなら文字通り高嶺の花も一飛びで調達してくる。それに魔王城には幸い腕利きの庭師も多く居る。この色とりどりの景色は、少なくともヴィゼールが生きて魔王として坐している限り続いていくだろう。
あの少女は、ヴィゼールが思っていた以上に多くの同胞たちと交流を重ねていたらしい。だからこの場所をヴィゼールが独占することはできない。ちりりと胸を焦がす衝動を感じもしたが、一方で、自分の感情がそれだけに染まらないことへ安堵も感じていた。
ヴィゼールは、物言わぬ墓石に笑いかける。
「どうせお前は素直に驚いてはくれんだろうけどな」
脳裏に焼きついたあの無表情が、無愛想に「いいえ」と言う。馬鹿馬鹿しい、と一人で言いながら、それでもヴィゼールは笑顔のままで目を閉じた。そして、瞼がつくりだした暗闇の中でそっと、少女のことだけを想った。
悲しみとも優しさとも言えて、なのに言葉にし尽くせない。傷に槍を差し込まれたかのように痛々しく、そよ風が髪を撫でる時のように心地よい。決して何とも言い切れない。
ただ美しい、アイイロの想いだけがそこに満ちていた。
~END~
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