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ツキシキ
2024-02-26 18:25:44
22186文字
Public
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【color:clear】COLOR・OVER
二次創作。ヴィゼール×クリア。
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COLOR・OVER 3/4
◆謁見の間
「ヴィゼール様、お呼びですか」
「ああ」
ヴィゼールの忠臣ライラは、玉座に座る彼の顔を見て息を呑んだ。シャンから事情を聞いていたとはいえ、ライラの想像を超える憔悴ぶりだ。ヴィゼールの瞳は曇りかかったかのようで、玉座にもたれかからせている身体も覇気がない。
大丈夫ですか、と、月並みな言葉をかけようとして思いとどまる。大丈夫なわけがない。実際ライラのほうだって、自分の顔色がそれなりに見られるものかどうか疑わしく思っていた。少なくとも、いつものようにヴィゼールを茶化して気を紛らわせるほどの元気はない。
「酷い顔だな」
ライラの内心が態度に出てしまっていたのか、ヴィゼールはそう言い、疲れたように笑った。ライラもぎこちなく口元を動かして笑みをつくる。
「お互い様、ですね」
「
…………
そうだな」
しばし、沈黙が流れる。ライラは静かに、ヴィゼールの言葉を待ち続ける。用命があって呼ばれたはずだが、急かす真似はしなかった。むしろ用などなくても良いとさえライラは思っていた。慰めの言葉が出なくても、誰かを悼むなら、一人より二人のほうが良い。そのほうが悲しみに沈み切ってしまわずに済む。
「あいつは、無事に寝かせてきたか」
ヴィゼールの言葉に、ライラは、あの少女の体温を思い返しながら答える。
「はい。今は、自室で眠って頂いています」
あの冷たさは決して忘れられないだろう。
◆謁見の間・回想
シャンを除く四天王達が謁見の間に駆け付けた時の光景は、まるで、悪趣味な絵画のようだった。放心して座り込むヴィゼール、動かない銀の少女、激しい戦いを感じさせるボロボロの調度品。
初めに動いたのはギルだった。何よりもまずはヴィゼールの様子を確認しようと近寄り、声をかけた。だが、ヴィゼールの反応はギルと対照的にことさら緩やかだった。彼らには背中を向けたままで、その虚ろな目に少女ばかりを映している。悲しみや怒り、様々な激情が洗い流され、何も無くなってしまったかのような。皮肉なことに、そんなヴィゼールの様子は無色の少女とよく似ていた。
ギルはなおもヴィゼールの反応を求めたが、それを止めたのはシレーヌだった。
「軍の指揮は、いったん私が取っていいのかしらー
……
?」
シレーヌの声に対し、ヴィゼールは投げやりな口調で、
「まかせる」
とだけ言った。シレーヌはそれに頷き、鱗を鳴らしながら謁見の間を引き返していく。
人間軍の中でも敏い者達は、ヴィゼールの放った移動魔法の残滓を汲み取り、勇者と魔王の戦いがすでに終結したのを悟っているようだった。中には魔王城から撤退しようとする動きも見られた。となれば、魔王軍のほうも再び統制を立てなおさなければならなかった。
「ほらー
……
ギルも早く
……
さすがの私も、空は飛べないのよー
…
?」
「あ、ああ
……
」
ギルは戸惑い半分不本意半分の様子で頷く。この場で指揮権を放棄することの意味くらいはわかっていた。準備運動とばかりに羽根を一度動かし、すぐさまその場を辞した。
そうして。他の四天王が謁見の間を離れ、思い思いに働いていてなお。
ライラはただ一人、立ち尽くしていた。
普段のライラであれば、いち早く状況を把握し、誰よりも先に至らぬところへ目をむけるはずだった。けれども、ライラの身体も冴えた頭もこのときばかりは動いてくれなかった。ただ、ただ茫然と、立ち尽くしていた。
「クリア様、は」
ようやっとライラは一歩踏み出す。この、あり得てはならない絵画に足を踏み入れる。
ヴィゼールはやはり反応を返さない。玉座に座らされている少女を見つめ、数多の外敵から彼女を守る盾のような態度でそこにいる。
一歩、一歩。ライラにとっては広大な砂漠を歩くような思いだったが、存外早々に、彼女の身体は絵画の中に入り込んでしまった。銀の少女のほうへ義肢を伸ばし、ヴィゼールを窺う。盾に阻まれはしなかった。
ライラの茶褐色の手のひらが、青白い頬に触れる。両手で顔を包み込み、前髪を少しわけて、ライラは自分の額を少女の額に押し当てた。そこから伝わる体温は、まるで、物のように冷たい。
ぽたり、と。一滴落ちてしまえば、後はもう止めようがなかった。目の縁に溜まるそれがクリアを汚すことの無いように、ライラはそっと手を離して再び少女の背を玉座に持たれさせる。
「ヴィゼール様。私が、クリア様のお部屋の鍵を開けてしまったんです
…………
」
ほろほろと流れ出る涙を止められないまま。気づけばライラはそう告白していた。
「クリア様はお部屋に居るようにと。何もしなくても、勇者の皆さんが助けてくれますから、そう言ったら、クリア様は首を横に振って。思わず私、出たいのか尋ねてしまって。そうしたら、何度も何度も、おっしゃったんです。『はい』って。何度も。それがクリア様なりの言葉で、部屋から出たいってことだと、思って。ヴィゼール様の、ところに
……
っ」
それ以上は、嗚咽が邪魔をして言葉にならなかった。
黙ってそれを聞いていたヴィゼールは、ようやく、その瞳にほんの少しだけ光を取り戻した。そうして、たった一言、
「そうか
……
」
と、答えた。とても、とても重い一言だった。
ライラは、ヴィゼールの抱いていたあらゆる後悔や諦観を感じとって、さらに目頭を熱くした。
「申し訳、ありません
……
!」
悔やんでも悔やみきれない。そう感じていながら、それでもライラは頭を下げずにいられなかった。けれども、ヴィゼールはすぐにそれを制した。
「よしてくれ。それより、頼みがある」
ライラはがばりと頭を上げ、見苦しい涙を拭い、ヴィゼールと向き合う。ヴィゼールは立ち上がっていた。ようやく、ライラに目を向けていた。
「こいつを、ひとまず部屋に連れて行ってやってくれないか。
……
もう玉座も十分堪能しただろう。それにここは、俺の場所だからな」
やはりヴィゼールは優しい、と、ライラは実感する。
決してライラのことを許すとは言わない。代わりに、尽くす者としてここに立つライラに、それ相応の命令を与えてくれる。ライラが、自己嫌悪の海におぼれ死んでしまわないように。
「
……
畏まりました」
何があっても傍を離れないと言わんばかりだったあの態度はもう見られなかった。ヴィゼールはライラが少女を運びやすいよう、玉座を離れて脇に寄る。ライラは感謝の意を込めて会釈し、改めて少女に歩み寄った。
抱き上げたその身体は想像以上に細く、軽かった。
ライラの視界が滲んだが、もう泣くことはしなかった。
◆謁見の間
「鍵はここに。お渡ししておきますね」
「ああ、ご苦労だったな」
ヴィゼールは少女の自室の鍵を受け取り、手のひらに乗せる。その表情が何を言わんとしているのか、ライラはまだ読みとれずにいる。
きっと、ライラも少女を悼みながら黙するのが正しいのだろう。けれども、ライラにはどうしても言っておかなければならないことがあった。
「ヴィゼール様
……
あの」
今からライラが言おうとしていることはある意味で、決して引き返せないところへとヴィゼールを連れだすための呪文とも言えた。だからこそライラは躊躇い、一度言葉を切った。そして、つい、伺うような眼差しをヴィゼールに向ける。
ヴィゼールは首肯して、続きを促した。だからライラも覚悟を決めた。
「クリア様をあのままお部屋で寝かせておくことはできません。────お墓を、立てなくては」
ライラの語尾は震えてしまったが、それでも、ヴィゼールから目を逸らすことはしなかった。
無色の少女は想像以上に魔王城へ馴染み、親しまれていた。だが、彼女一人がいなくなったからといって“魔王”の統率が無くなるなんてこともあってはならなかった。いつまでも沈み続けるわけにはいかない。嘆き続けて心が慰められることはあったとしても、現実の問題は何も解決しないのだと、ライラは身をもって知っていた。ゆえに、ライラはあえてその非情な事実を口にした。
いつまでも、眠り姫気分で寝かせてはおけない。
ライラの決意と反対に、ヴィゼールは、目を丸くしてライラを見ていた。まるで、ライラの言ったことが理解できていないかのようだった。
「
……
ヴィゼール様?」
思わずライラは呼びかける。その声でヴィゼールもはっとして、気を取り直すように軽く頭を振った。
「ああ、悪い。そうか、そうだな
……
墓、か」
ヴィゼールは一人ごちる。ライラは続く言葉を待つ間、真摯にヴィゼールを見つめていた。
こんな短い時間で立ち直れと言うのは酷な話だ。ヴィゼールが一瞬見せた白痴じみた仕草がその証だった。ライラは墓という言葉や、死を現実のものにしてしまう埋葬の作業が、ヴィゼールを壊してしまうのではと恐れもした。自分の決意は性急すぎたとも。
しかしその心配は杞憂だった。ヴィゼールの目は遠くを見てはいるものの、決して胡乱な眼差しではない。きちんと納得をしただけの理性の輝きが残っていた。ライラはそれを見て内心、ほっと安堵の息をつく。我を忘れるほどの怒りの波も、夢見心地に浸りたがる悲しみの渦も、いったんヴィゼールの中から退いてくれたようだった。
ライラがそんなことを考えていると、ヴィゼールがふと思いついたというようにライラに向かって口を開いた。
「なあ、あいつの故郷だの何だのについて、何か話は
…………
聞けないか」
ヴィゼールは言葉の途中で間違いに気づき、訂正する。ライラもそれに頷くしかなかった。
役立つ情報などなかったと自覚していながら、ライラの脳裏にこれまでの少女との会話がぼんやりと浮かんでくる。
やはり無色にされただけあって、少女の言葉はひどく乏しかった。時折饒舌に話すことはあっても、それは一方的なやりとりばかりだった。その良し悪しは別として、ひとまずライラの思い出せる範囲では少女の過去の云々に関する話など聞けなかったはずだ。
「そうですね
……
そもそもクリア様に過去や故郷についての執着があったとは、とても
……
」
言って、ライラは俯く。過去を捨てられないライラにとって、そんな境遇は想像もつかなかった。だからこそ、もしも自分がそうだったらと想像して、暗い気持ちになってしまう。
つい感傷的になってしまうライラの耳に、フ、と息をつく音が聞こえた。顔を上げれば、そこには笑顔があった。自信ありげで、周りの者がみな安心して身を任せられると思える、そんな笑みだった。
「なら好きにさせてもらうか」
とても魔王らしからぬその笑みを、ライラはよくよく知っている。
だからライラは、一度目を瞑り、強く自分に言い聞かせた。ヴィゼール様よりも誰よりも、まず私が平静にならなくてはいけない。誰もが気を遣うことなく、いつも通りを演じられるように。悲しみだけで城が潰れてしまわないように
……
。
再び開けたライラの目には、もう余計な感傷は消えていた。淑女然とした微笑みでもって、彼女はまたいつものように冗談を言う。
「そうですね
……
せっかくなら、あのクリア様が驚いてしまうくらい派手なものにするなんてのも、良いかもしれませんね?」
「ハ、それは良い。なんならこの世にある花という花全て掻き集めてやろうか」
「
……
ふふふ」
たった一人のことを想って、その子のために一生懸命集めた素敵なものを贈って────
────なんだかそれは盛大なプロポーズのよう、なんて。
浮かんだ言葉をライラはひっそり、胸の奥へ大事にしまい込んだ。口に出せば、この儚い陽気も併せて零れ落ちてしまいそうな気がしたので。
次ページへ続く→
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