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梓
2023-04-26 19:58:45
4288文字
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或る画家の秘密
蜜柑さん(@mikan02171)のツイートから
ある、魔法族の画家がいた。
ひとところに留まらない人だったが、それなりにパトロンや買い手には恵まれた、そんな画家がいた。
――ところで私はミュシャが好きです。
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「どうして俺をモデルに選んだんだ?」
「それを言って断られたら困るので」
何度目かの同じ、それでいて今までとは意図の違う質問を、今までと同じように苦笑で返す。流石に元の意図を知られるわけにはいかないし、実はまだ長居しているのかと依頼主から小言を何度かもらっている。紹介通り絵の練習をしてるんですよ、珍しく。
そう、珍しく、描きたいと思って筆を取っている。今、マグルで人気の画家の絵に寄せた、貴族受けは悪そうな、私の好きな表現と構図。月の浮かぶ空の下、花に愛された青年は軟玉の視線をこちらに向けて慈愛の滲む微笑みを浮かべている。
「そろそろ、絵は仕上がるのだろうか。
……
その、君に、家の者が」
「ご結婚されるからですか」
優しい少年に、皆まで言わせる気はなかった。
「ああ」
「左様でしたか。おめでとうございます」
「
……
ありがとう」
絵を描くうちに、彼を知っていく。
存外彼は無口ではないということ、無遠慮ではないが少し我を曲げないところもあること。この時間が嫌いではないということ。そして恐らくは、家に纏わるなにがしかや純血という括りそのものに思うところがあること。
聡い子だ、なにも表には出さなかった。だから類推でしかない。でも、この年頃と出自でありながら一切話題にならないという事実が何より雄弁である。
そんな彼を描きたいと思ったのは、切り取られた虚構の自由を与えたいと思う、傲慢な憐憫なのかもしれなかった。
渡すべき絵は、概ね完成していた。暇を請うには良い頃合いだとわかっている。縁談はつつがなく進んでいると聞く。
でも私は、もう一枚描きたかった。私の自由と、彼の自由を、一枚の絵に収めたかった。
目の前の少年は、日が傾くのに合わせて無防備に健やかにヒュプノスと小旅行に出ている。どれもこれも永遠ではなくて、だからこそ愛おしい。絵の中の青年と見比べながら、そっと微笑んだ。
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