【サリ東】サリ東小説詰め合わせ×4

サリーさんと東雲さんのお話詰め合わせセット。ねつ造ご都合主義満載。

似ていて違う




スーパーで人が混み入る時間は大概決まっている。その店舗が安売りセールを実施する期間中か、年中関係ない夕ご飯時の時間帯だ。特にその時間帯に来る買い物客を狙いタイムセールを実施されるのが常なため、夕方時はもれなく戦場と化す。どこもかしこもスーパーで働くスタッフは客をどれだけ捌けるか躍起になり、本日配属された試食コーナーでウィンナーを焼いている俺も例外ではない。
長時間絶えずウィンナーを焼き続けているお陰か匂いだけで腹がいっぱいになる。こりゃあ家に帰ったら自分から香ばしい匂いが漂っているやつだ。
「はーい。見てっテ、見てっテ。今日のやつはメーカー一押しの新商品。味よし香りよし食感よし、お値段チョットお高めだケど、まずは一口食べテみてー。食べれバ分かるコノ味でこのお値段、お得以外の何ものでもないヨー」
ホットプレートの上で次々に焼き上がっていくウィンナーをベストなタイミングで気になり立ち止まっている買い物客に渡していく。試食用の小皿の上にちょこんと乗った爪楊枝が刺さったウィンナーから立ちのぼる香ばしい匂いをまず嗅ぎ、次いで熱々のウィンナーを頬張った買い物客が思わず「うまいっ」と声が漏れた。
それを皮切りに試食コーナーに人が集まり、あっという間に人だかりができた。無論、先程食べた買い物客は意気揚々とホットプレートの脇にある山積みに置かれたウィンナーを二袋買い物カゴに入れていった。
誰も彼も試食したからと言って買っていくわけではないがそれでも上々だった。呼び込みで買い物客の意識を向けさせ、ウィンナーが焼ける音と匂いで胃袋を刺激する。
特に「夕ご飯のオカズ今日は何にしようかな~?」なんて考えて歩いている買い物客がいたら絶好のチャンスだ。警戒心を抱かせない程度に気さくに声を掛け「まずは一口」と食べてもらう。ただこの戦法、声を掛けても平気な買い物客を狙い撃つのだが、何故か俺の目には誰に声を掛けていいのか駄目なのかが分かった。
「アリがとうございマすー」
また売れた。どんどん商品の山が崩れていく光景を横目で見つつ、ウィンナーを焼いていれば視線を感じ其方に目を向ける。
母親の影に体半分隠して、じーっと此方を見詰める幼い眼差し。年長さんか小学校低学年か。とてもシャイな女の子が無言で母親のロングスカートの裾を掴んでいる。
丁度焼き上がったウィンナー二本を試食用の小皿に乗せ爪楊枝を刺す。小皿を両手で其々持ちホットプレートが置かれた台の前に回り込み、シャイな女の子とその母親の前まで近付いた。俺が近付いた所為で益々女の子は、母親の後ろに隠れてしまった。
そうか、こんな身長が高い奴に見下ろされるのは怖いのか。ならばと、しゃがみ込み極力女の子と同じ目線の高さにして、声色を柔らかくするよう心掛け話し掛けた。
「良かっタら食べてみテ」
そっと小皿を女の子に向かって差し出す。すると、もじもじしながら女の子は母親の後ろから顔を出し小さな両手で小皿を受け取った。
……あり、がと
礼儀正しく言う女の子に笑顔で応え、驚かさないようゆっくり立ち上がり母親にも同じものを手渡した。
「よろしければドウゾ」
「ありがとうございます。あら、これ美味しい」
反応は上々。口元を手で隠し食べていた母親から食べ終わった小皿を回収。次に女の子を、と思ったら母親と同じタイミングで見下ろせば目を輝かせた女の子が母親のロングスカートの裾をぎゅっと握りしめ見上げていた。
「ママッ! これおいしい買って!」
「でも、こんなに美味しく出来るかしら」
不安がる母親を余所に女の子はずっと買って買ってコールをしている。ここで押さない手は無い。
「大丈夫デスよ。誰でもササっとプロの味。難しい調理方法なんて一切御座いまセん」
そっとしゃがみ込み女の子から小皿を貰い、指定の場所に戻りウィンナーを再び焼き始めれば女の子が母親の手を引っ張り二人揃ってホットプレートの前に立った。
その後、母親がこれなら平気そうと思ってくれたらしく有難い事に買ってくれる流れになったのだが。
「たくさん買って!」
「沢山はちょっと厳しいかなァ」
「じゃあみっつ!」
と、女の子の勢いに押されウィンナーを三袋お買い上げしてくれる事になった。低くなったウィンナーの山から三袋取り、すっかり母親の後ろに隠れなくなった女の子にしゃがんで渡す。
「買ってくレてありがトう」
両手いっぱいに抱えた女の子は顔を忙しくあちらこちらへと向け、最後は真っすぐ頬を赤らめながら俺を見た。
「あのね、あのね。とってもおいしかったの」
「嬉しイ美味しく作った甲斐があっタ」
ありがとう。微笑んでお礼を言ったはずなのだが、また怖がらせてしまったのかサッと母親の後ろに隠れてしまった。チラチラ窺い見ているが、そんなに怖かったのか。今後気を付けよう。
母親が持っている買い物カゴを女の子の高さに下ろせば、女の子は一袋を抱えたまま残りのウィンナー二袋をカゴに入れた。その様子に母親がクスリと笑うも、俺は何故笑うのか分からなかった。
「お買イ上げありがとうゴザいます」
深々と頭を母親に向け下げれば、「こちらこそいい商品紹介して下さってありがとう」と手を振りつつ母親がその場を後にする。見えなくなるまで見送りたかったが、焼き始めている匂いにつられて人がまた集まり始めたので定位置に戻る。
最後に一目だけと思い、視線を向けたら女の子が控えめにバイバイしていたので俺も小さくバイバイした。
瞬間、女の子が今度は母親に抱き着くように顔を隠してしまった。やはり怖がらせてしまっているのだろうか。あとで店長辺りに相談してみよう。
その後、全部を捌き切った俺は他ブースの助っ人に入り終業時刻まで働いた。



「ツレサリさんお疲れ様。後引き継ぐからもう上がっていいよ」
「ざっす。お先に失礼しマす」
引き継ぎ作業を終え、早々に身支度を整えスーパーの裏口から出た。
晩御飯のオカズやら何やらで自分用に買ったレジ袋の中から惣菜パンコーナーのスタッフさんから内緒で貰ったメロンパンを取り出しかぶり付いた。しこたましょっぱい匂いを嗅いでいた所為か甘さが染み渡る。
とっぷり日が暮れて大分経つ街中を一人マンションに向かって歩いていく。すれ違う人々は俺と同じ一人だったり、複数人だったりとそれを目で追ってはメロンパンを頬張り続けた。
腹が想像以上に減っていたのか、大きなメロンパンはあっという間に胃袋の中に消え指先に付いた甘い味を舐め取った。
いつの間にか人とすれ違わなくなった帰り道。ふと、大家さんにマンションに勧誘してもらった日のことを思い出す。



ねえ、アンタ何処住み? 今住んでるところに不満あるならウチに来ない?
えっ、帰る家自体が無い!? だったら尚更ウチに来なよー 私こっから割と近くにあるマンションの大家やってんだ
勿論、タダじゃなくてきっかり家賃入れて貰うけどその分いい働き口紹介すっからさ
誰かから話し掛けてもらったのはじめて? じゃあさ、もっと色々話そうぜェ 私いつでも話し相手になるぜ
誕生日いつよ? お、私と同じじゃ~ん 他は? 他は? 好きな料理も私と一緒とかいいねェ! 最高!
やっぱさ、ウチに来なって! それがいい! な! なっ!



あの日あの場所。誰かを連れ去る前に大家さんに出会えて、マンションに誘ってもらえて本当に良かったと思う。
歩くのに合わせて揺れ動くレジ袋がカサカサ鳴る。閑静な住宅地、ぽつぽつ照らす電灯の水溜まりを歩く度、脳裏に焼き付いて離れない黄昏の色を思い出す。世界中を我が物顔で染め上げた途端、呆気なく消え去る割に影法師の如く未練がましく張り付いて離れない。
それが忌々しく好きではなかったが、また夜明けを告げる色が世界を再び鮮やかに染めあげる前準備だと思えば嫌では無かった。
「今日は贅沢シて二個買っチった」
レジ袋の底の底。薄っすら透ける袋から見える甘くて冷たい洋菓子の存在に俺は機嫌よくボヘミアンを口ずさむ。