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ツキシキ
2023-07-01 21:54:47
24710文字
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★トバリシリーズまとめ
4作品。「トバリドトキシンRE」二次創作。
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お題文:ケモミミ(カラト×ナギ とジル)
ジルが帽子を脱いでいるのは珍しい。
と、ナギはまず思い、
次にカラトがジルの頭に乗せているものを見てぎょっと目を見開いた。
「カラト! 何してる!」
「何って
……
なんだァ?」
カラトの手には魔獣の耳が握られていた。掴むのに丁度よい、兎によく似た長めの耳。血抜きが雑だったのか、裁断された根元からぽたりぽたりと雫を落としている。
鮮度の良い液体に、ぎゅう、とナギの胃が反応する。カラトは獣の生臭い血など好まないからこうして盛大に零しているわけであって、それを言うならナギとて好みというわけでもありはしない。それでも、生物的な反応はどうしても止めがたい。
そこではっとナギは我に返った。腹を鳴らしたわけではないにせよ、血への反応が過敏過ぎたかもしれない。ジルの表情を読もうと目を向ける。彼女自身はきょとんとした顔をしていて、頭の上に乗せられた魔獣の耳から滴る雫を除けばおおむねいつも通りだった。それもそれで、どうかとは思うが。
「ジル、嫌なら嫌だと言ってください。ただでさえアレはおかしな奴です」
「うぇえ、酷いこと言われてらァ」
「言われたくなければ直せ」
カラトの行動が素っ頓狂なのと返答が胡乱なのは時たま有ることだとしても。他人を巻き込むのは良くない。ナギがふざけた態度のカラトを睨んでやれば、相手は途端に口をつぐんで目を逸らす。
「
……
なんだよ、ちょっと遊んでやっただけじゃねェか」
「お前の主観で物を言うな」
「けっ」
カラトに対するナギの説教は、ことさら効きすぎる時と一切効かない時との二択になる。今回は後者のようだった。カラトは反省の色どころか何が悪いのかすらわからないとばかりに拗ねくっている。
それでも字義だけは通ったのか、カラトが弄んでいた獣耳はようやくジルの頭から離されて、ぽいと粗雑に放られた。放物線を描いて滴った血雫は、カラトが解体作業の時によく使う血吸い用の藁に吸われていく。
たった一雫を堪能するかのように藁へ広がる血の痕は、どことなくナギという生き物の在り方を連想させられた。視界に入れたくない。カラトが悪趣味な遊びを辞めたとなればここに居る必要もない。そうしてようやく、カラトの部屋へ来た当初の目的を思い出す。つまらなそうに頬を膨らませているカラトへ、ナギは顔も見ずに言い捨てた。
「カラト、片付けをきちんとしてから来い。シュウが呼んでる。
……
ジル、失礼しました」
最後にちらとジルのほうを見やってから、ナギは扉に向き直った。本来であれば滴り落ちた血濡れのジルの顔を拭ってやるくらいすべきだったのだろうが
……
あいにく、ナギも我慢が好きというわけではなかったので。
ナギが去り、少しして。
ジルはそこらに捨て置いてある布を適当に拝借し、ぐいぐいを自分の額を乱暴に拭っていた。鏡がないので血汚れが拭い切れたかはよくわからない。ジルの黒髪に流れ落ちた鮮血も、こびりつく前にすぐ一洗いすれば間に合うかもしれないが、そもそもジルにとって身体を清めるほどの液体は天敵でもあるので難しい。
そんな厄介な状況にジルを追い込んだ張本人は、ナギが去った後もぶつくさと愚痴をこぼしていた。
「仲良くしろって言うからしてたのにさァ」
言いながら、魔獣の耳を束にするように紐でまとめ、空の桶に放り込む。胴体は作業台の上にドンと置かれたままだ。おそらくこの後も小分けにするのだろう。
ジルは自分へ意識が向けられていないのを良いことに、ひょこひょことその耳の束へと近づく。そして素早く一対の耳を引き抜くと、これまた体よくしゃがみ込んで作業をしているカラトの背後からにじり寄った。
「言うこと聞いても怒られるし言うこと聞かなくても怒られるしよォ、どっちが
……
………………
なにお前」
ざすっ、と突き刺す勢いで。
ジルは獣耳をカラトの頭へ添えてみた。色素を失った白い髪が、獣耳の荒々しい切断面からじわじわと赤く染まっていく。
「やめろよ、汚れる」
「
……
」
どの口が言うのか。
もともと不機嫌だったカラトが烈火になる前にジルは手を放す。重力に従ってぼたぼたと落ちる獣耳はそのままに、自分の頭とカラトの頭を交互に指さした。
それで、カラトはぽかんと口を開く。
ああ。なんて感嘆も口にして。
「そっか。お前も汚れんの嫌だったンな」
とても、とうてい今更過ぎる気付きにカラトは瞳を輝かせた。見えていなかったピースがここにあったと喜ぶような。
────それでナギが、そォか、
カラトはやはりジルを無視して一人で納得をして、ひとしきりうなずいてから一言、
「お前意外と頭良いンだなァ」
そう言ってジルの頭を引っ掴んでわしわしと揺らした。汚れると言ったその口で、掌を血塗れに汚していく。
ジルはぐわんぐわんとブレる視界に目を回しながら考える。
この扱いでは果たしてさっきの話は半分も伝わったのやら。
ナギが怒った理由はもっと別のところにあると、彼が気づくのはいつのことになるのやら。
しかしてそれも、ジルが関与するところではないのだった。
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