ツキシキ
2023-07-01 21:54:47
24710文字
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★トバリシリーズまとめ

4作品。「トバリドトキシンRE」二次創作。


癇の猿酒




 さらさらと絶えず続く流水の音を聞きながら椅子に腰かける。こんな地下深くの洞窟に果たして誰が置いたのか、椅子もテーブルも軋みはするが、一時の休憩地点としては丁度いい。
 先へ続くはずの門は閉ざされたまま、剣の飾り像がまるで衛兵のように左右で鎮座している。像にはご丁寧に何かをはめ込むための窪みもあって、だいたいの仕組みは推測できる。だというのに、ぼくと、そして彼女達は足止めされ続けていた。はめ込むべき何かが見つからないという単純で厄介な理由のせいで。

「わっかんねえなあ、これ……

 金髪の彼女は、像の周りをうろうろとしている。その後ろを帽子をかぶった方の彼女が着いて回っているけれど、どうにも進展はなさそうだ。彼女達の無意味な行為が目について、気づけば口を開いていた。

「きみたち、そんなことしてて本当に門が開くと思うのか?」

 既にこの場所はぼくも彼女達も飽きるほど調べ尽くした。となれば別の場所を探索するべきだ。暗にそう促したつもりだったが、相手には通じなかったようで、

……なんだよ、ならあんたが解けばいいじゃないか」

 なんていう見当はずれな答えが返ってきた。どうも彼女達はぼくに良い印象を抱いてはないみたいだ。まあ、心から信頼しろって言われたらぼくだって鼻で笑うだろうけど。こんな状況なんだし、せめて利害の一致くらいは考えないもんかねえ。
 ツンケンした態度に、肩をすくめて応じる。

「それができたらとっくの昔にやってるともさ」
「なんだって?」
「だから。意味ありげな窪みが二つ、ぼくらが今のところ進める道も二つ。となれば探すべき場所はもうわかるだろ」
「あのなあ。それで探索してもそれらしいものが見つからなかったから、こうやって悩んでるんだよ」

 サングラス越しでもわかる強い眼光に辟易する。今にもヒステリックに叫びだしそうな剣幕だ。ぼくとしてもご機嫌とりをする気は無いから、先んじてけん制することにした。

「あー、悪いがこっちには当たらないでくれるかな。きみたちの探索が甘いのをぼくのせいじゃない」
…………はぁ」

 返ってくるのはあからさまなため息だけ。まったくだ。
 そもそもこういう問答をすること自体無駄だとわかってはいる。けど、彼女達がいる前で躍起になってあちこちを探しに行くような真似はしたくなかった。探し物をする時は注意力が景色に向くせいで、敵に対する警戒心がどうしても薄れてしまう。あいにく、彼女達に対して無防備を晒すほどは気を許せない。
 だからこそぼくはこの時間を休憩に充てているわけであって、むしろ彼女達が早々に諦めて立ち去ってくれるほうが好都合でもあった。
 それでもしばらく彼女達はこの場をうろついていたけれど、結局お手上げになったらしかった。

「あー……ジル、いったん戻ろう。これじゃ埒があかない」

 金髪の彼女がそう言って、ジルと呼ばれた方が頷く。

「ラファエロ、だったか。あんたもほどほどで切り上げないと、身体悪くするぞ」
「言われなくてもわかってるさ。ぼくも適度に戻るよ」
「そうかい。じゃ、ま……

 彼女は言いかけて、半端に口を閉ざした。多分、またなと続けたかったんだろうけど。別に約束しているわけでもなし、親しくもないんだから、躊躇うのも当然だ。少しばかり気まずい沈黙を残した彼女は、結局うまい言い回しも思いつかなかったようで、言葉の代わりにひらひら手を振って去っていった。


 頃合いを見計らってからぼくも辺りを探索した。だが憎らしいことに収穫は無い。厄介なことに巨体の魔物がとぐろを巻いているせいで、どうにも満足に調査ができなかった……と、思いながら言い訳がましい自分に舌打ちを零す。
 くたびれた足を引きずって門の前に戻り、改めて椅子に腰を降ろした。

(まるで、家、みたいだ)

 座っていて考えるのは、このエリアの構造についてだ。あちこちに転がされている椅子、生活の基盤を思わせる水路、離れ小屋、手入れに行き届いた庭を思わせる区画。さらには牢屋風の部屋や緻密な紋章細工の調度品まである。ここで足止めされる前までは、建物の外壁や屋根裏、貯蔵庫を彷彿とさせるものが多かった。地下のくせに地面が土じゃなく大理石で、装飾豊かな柱まで立っている。それらのほとんどが廃墟化しているとはいえ、過去に何かしらの文化生活があったことは見て取れる。専門家が目をつけるほどの稀少価値はないだろうが……
 何にせよ、日々の営みは連想できる。家、いや、街の一部と言ったほうが良いだろうか。瘴気と魔物、加えてトバリまで跋扈するらしい場所だというのに馴染むような錯覚がするのは、やはりこれらのせいだろう。

(彼女はトバリと暮らしていたって言っていたけど……

 徒然の思考は例の陽気な彼女のほうへ一飛びする。
 トバリの話題になると、彼女は妙に歯切れが悪くなった。ハンターとしての独特のこだわりを持っているせいで話が進めにくいのかと思ったけれど、存外彼女は単純そうで、無口な気難し屋のイメージからはほど遠い。駆け引きなんかも苦手に見える。となれば、あんな風にトバリの話をする度もやもやとした口調に様変わりするのはきっと、この風景。家を連想させるこの場所は、彼女の、ぼくには到底わかりっこないセンチメンタリズムをかき鳴らしてしまうんだろう。
 ……ハタ迷惑な話だ。純粋に、こちらの利と向こうの利を見せ合う取引をしたいのに。感傷ほど目を曇らすものはない。





 一休みしていると、コツコツと足音が聞こえてきた。彼女達だ。片方は何やら大きな瓶を持っている。どうせならぼくもいったん蹴りをつけるべく、彼女達と入れ替わりで出ようとしたがそれは叶わなかった。彼女がぼくを見るなり、その手にある瓶をひょいと持ちあげて声をかけてきたのだった。

「ああ、良かった、まだ居たんだな。あんたに会いたかったんだ」

 会いたかった。ずいぶん軽く言う。言葉だけを取れば誤解されかねないと思うが、相手は誤解の可能性にすら気づいていないようだった。だとすれば指摘の必要はない。近寄ってくる彼女達を無視するわけにもいかず、浮かしかけた腰を再び降ろす。

「なんだい、トバリの有効な討伐法でも?」
「ああいや……まあ、とりあえず座らせてもらうぜ」

 そう言って彼女は僕の斜め隣に座る。無口な方の彼女も座るのかと思いきや、ふらりとその辺りを探索し始めた。歩くのに合わせて帽子のてっぺんの飾りが揺れるのをなんとなく眺める。
 と、テーブルの上にコンコンコンと何かが置かれる音がした。見れば、彼女が手にしていた瓶、そして木製の四角い入れ物が二つ並べられている。確か、東国の入れ物……升、だったか。ぼくの前に一つ、彼女の前に一つ。彼女に視線で説明を求めると、

「グラスも良いんだけど、こんなところに割れもの持ってくるのもどうかと思ってな」

 なんていう、要領を得ない言葉が返ってきた。それを言うなら瓶からして既に割れものだろうと思いつつ、突っ込むとどうせ話が進まないので止めておく。代わりに真意を直接問うことにした。

「何するつもりなんだ?」
「酒盛りだよ。見ればわかるだろ?」
…………

 さも当然のこととばかりに言われたが、ちっとも納得できない。何がどう繋がった?
 ぼくの困惑を意に介さず彼女は慣れた手つきで瓶を開けて、とくとくとくと良い音を立てて升に中身を注いでみせた。思っていたよりも上品な香りが辺りに漂う。

「一応、弱めの果酒を持ってきたけど……どうだろう、あんまり男はこういうの好きじゃないかな」

 世の酒呑みがどうだか知らないが、ぼく自身はワインだろうが何だろうが全て同じに思える。どれもこれも変に辛かったり喉に残ったりして……ぼくは正直、酒はそう得意ではない。けれどそう言えば弱点を晒すようで、素直に答える気にもなれなかった。
 伸ばした指先で眉間の辺りを揉みながら、話を何とか理解の及ぶ範囲へ持っていこうとする。

「飲める飲めない以前に、きみは正気か? こんな毒気と魔物の巣窟で酒盛りだなんて」
「雑魚は探索ついでにあらかた退治したし問題ないさ」
「そうじゃなくてだな……
…………素面じゃ、あんたもあたしも、情報交換なんざできないだろ」
「はぁ?」

 利のある情報交換を妨げてるのはそっちだけだ。だのに彼女は少し暗い表情で続ける。

「あんたは本音を話したがらない。あたしは、トバリのことをそこまで……あけすけに話せない。だからさ」
「何言ってるんだ、ぼくは初めから本音で話してる。きみの言い訳にぼくを使わないでくれ」
「トバリを憎んでる、だろ? それはわかってるよ。でも、それ以上になるとあんた、話を逸らすじゃないか」
…………それは、きみに関係ない範囲の話だからだ」
「そんな風に線引きされちゃ、あたしだって話す気なくすさ」

 議論が平行線になりそうな予感がする。理論的じゃない流れにうんざりした。鼻先をくすぐる芳醇な酒の香りがまた鬱陶しい。まだ口をつけてもいないのに身体が熱い。この熱さはわけのわからない状況に対する苛立ちかもしれない。
 剣呑な空気は、彼女の一声で霧散した。

「乾杯」
…………あのな、」
「ほら、あんたも。ノリが悪いと損するぜ?」

 目の前の升に視線を向ける。なみなみと注がれた酒の表面が、どこからか来る風で揺れていた。少しでも動かしたら零れそうだ。
 彼女はぼくが乾杯に乗りそうもないことを察してか、宙で升を揺らし、その手を酒の雫で濡らしながら自分の口元へ近づけた。くっと一飲みし、喉が動く。それでも手を伸ばさないぼくを見てふと、思い立ったかのように言った。

「そうか。あんた、下戸なのか」

 決して意地悪い言い方ではなく、ただ、気づいた事実を述べただけの。純粋に、ぽろりと零れ出た言葉のようだった。それを時に人は失言という。薄茶のレンズ越しに向けられる、こちらを伺うような視線。……いっそ陰険に挑発された方がいくらかましなほどだった。

「誰も、飲めないとは言ってないだろ」
「はは、良いって。スイイー、ってことで、注いだのは捨ててもらっても」
「うるさいな!」

 妙に聞こえの良い発音で言われた言葉を無視して、がっと升を手にする。馬鹿にしている相手に馬鹿にされることほど腹立たしいものはない。さらりとかわせば良いはずが、辺りに漂う酔いの雰囲気がぼくから平静さを削り取っていた。
 升を揺らせばなみなみ注がれた酒が跳ねて勢いで腕の装飾具にかかって、頭の片隅で臭いや錆が気になったけれどこうなったらいちいちご丁寧に拭き取る余裕なんてなかった。口元に持ってきた途端さらに香りが濃くなるものだから意味もなく目をつむる。後はもう一気に、あおるだけだった。
 一口、舌先は甘さを感じるのに身体は焼けるようだ。うっかり口に含みすぎて飲みこむときにもゴグ、と重い音が鳴る。飲み切れず垂れた液体が顎から喉元を伝って襟を汚した。その生ぬるさにぞっとする。口を離してしまえば嫌気がさして全て飲み干せないだろうとわかっていたから、もろもろの不快さを押しこめてひたすらに喉を動かす。傾けても液体が落ちてこないのを感じてようやく、升を空にしたとわかった。タン、と机に置けば、同時に視界がぐるりと回転する。

「ちょ、ちょっと。大丈夫か……?」
――ぃ、じょうぶ、だ」

 倒れかけた。身体を机と腕で支える。正気を保つ努力をする。かけられる声が遠くに感じる。吐く息が、熱い。口の中が熱くて変に舌に辛さが残るくせに甘い感じがしてよくわからない。

「大丈夫そうに、見えないけど……

 大丈夫だと言ってるのに、彼女はしつこい。やることもやってみせたのだから、本題に入らねばと口を開く。

「いい、から。飲んらからには、話そぅじゃ、ないか」

 口を開けば、何故か彼女はいっそう慌てだした。ぐにゃりと曲がりくねる視界の中、彼女が立ち上がる。そのままぼくの近くに来ると、気安く背を撫で始めた。

「いっいやいや。ごめん、飲ませたあたしが悪かったよ。話どころじゃないなこれは」
「触ぁ、るなよっ」

 振り払おうとしたけれど、腕がひどく重い。持ち上げきれずに、むしろ倦怠感が増してしまって、机に突っ伏した。それでもぼくの抵抗は伝わって、相手はぼくに触れるのをやめてくれたから、まあまだマシかななんて。思っていたら、

「あ」

 聞き慣れない声と共に遠くで玉砂利をぶちまけたかのような音がした。遠くのはずなのに響いて煩いったらありゃしない。傍にあった気配がぱっと動いて、音がした方へ動くのがわかる。ぼくも確認すべきだと脳みそが叫んだけど、身体はそれを拒否するものだから仕方なく机にもたれかかった。

「ジル!? どうしたんだよ、こけたのか?」
…………
「怪我は無いな、よし。っと、荷物が」
……、」
「あぁいいよ、気にすんなって」

 羽帽子の彼女が何かやらかした、らしい。よくはわからない。続いて、カチャカチャどさどさと、物を寄せるような音がする。響く、響く。頭を揺らされて嫌な気分が倍増する。

「る、さい……んらよ」

 抗議の声を出したつもりだったが、彼女達には届かなかったようだ。

……あー」

 呻き声が漏れる。声を出していないと、堪え切れない何かが腹の奥で渦巻いているのを止められない。不快をまとめて口から吐き出してしまいたくなる。と、思えば、その通りと肯定するかのように胃が喉へ向かって得体の知れないものを押し出そうとしてきた。

「う、ぇ」
「うわ、ちょっとあんた! 吐くのか!? ちょっと待ってくれ、水辺があっちに、ジル、それは置いておいてとりあえずこっちを――

 ああ、だから、身体が言うことを聞かないんだ。
 頭の中じゃはっきりとものを考えられているのに、身体は脳の警告に反してこれっぽっちも動こうとしない。とにかく放っておいてほしい。
 なのに、ぼくの身体は勝手に引っ張り起こされた。彼女達が、両脇でぼくを支えているようだった。そのまま、肩にもたれるようにして腕を乗せられる。もたれるというより、圧し掛かっているような気もする。二人の身長差のせいか、妙に身体が傾ぐ。それでも二人が前進したから、ぼくも引きずられるようにして進む。足が重い。枷でも付けられているかのようだ。右隣から声がする。

「あー、そうだ。あんたさ、あっちにでかいオロチがいるの見えるか? どうせならあれに向かって吐いてくれりゃ効果があるかも……
「きみ、は。ぼく、を、馬鹿に、してる、らろ」
「ハハ、冗談さ。憎まれ口が叩けるなら問題ないな」

 水音が近づいてくる。彼女達が膝をつくから、ぼくも、情けなくその場に倒れ込むようにして座りこんだ。また、ゆるゆると背を撫でられる。一定のリズムが心地いい。込み上げていたはずの吐き気はいつの間にか消えていた。そのまま眠ってしまいたいと考えて、

「ッ!」

 眠る。眠るのは駄目だ。嫌だ。何よりも。さっと首筋が冷える。歪む視界に悪夢がちらつく。怪物がくる。トバリが!
 まどろんだ意識が一気に不快感へ引き戻された。心地よかったはずの手や、甘い酒の匂いや、澄んだ水の色が、その生ぬるさが気味悪く感じる。底冷えする身体との違和感で鳥肌が立つ。何もかも嫌になって仕方がなかった。どれもこれもが。

「は、な、せっ!」

 背を撫でる手を離そうと自分の腕を振り回したら、固い物にぶつかった。振りむいて見れば、彼女がゴーグルを押さえて俯いているのがわかった。
 当たったのか。悪い、と一瞬だけ、考えはしたが打ち消した。自業自得だ。そもそも避ければいい。そんな簡単なことももしかしてできないのか? 長くハンターとしてやってきていたらしいが、その信憑性が少し揺らぐ。
 彼女と付き合うだけ時間の無駄なんじゃないか。なんて今さらな考えも首をもたげてきた。
 鈍麻した脳みそがようやく冴えてきて、現状を冷静に認識させる。女に酒を飲まされて、介抱されて、だというのに癇癪を起こした自分。男としての矜持は傷ついたが、それ以上にこの一連の時間が全て無意味だということに腹が立つ。何が悲しくてこんな乱痴気騒ぎのまねごとをしなければいけないんだ。猿か。

「馬鹿だろ、きみは」
「は……?」

 彼女はへたりこんでこちらを見ている。痛みの耐性もないらしい。その間にぼくは唇を舐め、もつれがちな舌をどうにかまともに戻そうと、口をこじ開けて一音一音を意識する。

「酒を、飲ませて、物を、散らかして? その隙に何かくすねようって魂胆か」
「な、何言ってんだよあんた、急に」
「そうじゃないならなんだ!? ぼくは、初めから、トバリを殺す術を、話し合おうと言ってる! それなのに、何が、酒盛りだ! 馬鹿か!」

 言葉を重ねればどんどん頭が熱くなってきた。一時は収まったはずの熱がぶり返していく。もはや言うべき事と言わずに済む事の境もわからない。だんだんと舌が頭に合わせて回るようになり、溢れるままに言葉が続く。

「ひょっとすると、なんだ? きみはもしかして、ぼくがハンターだからって妙な仲間意識でも抱いたんじゃないだろうな」
「妙な、って……協力を言い出したのはそっちじゃないか」
「いいや違うね! ぼくが言ったのは情報交換だ、ビジネスだ! べたべた慣れ合って傷を舐め合おうだなんてことはこれっぽっちも言ってない!」
「っ、!」

 ここまで言ってやっと、彼女は立ち上がった。顔が赤らんでいるが、それが酒気ではなく怒りや図星を突かれた羞恥から来ているだろうことは察しがつく。
 にしても、敵意に対する反応が鈍い。よくここまで生き延びれたなとも思う。あるいは、身内に――身内だと思いこんだ奴に対しては甘すぎるのか。
 てっきりヒステリーでも起こすかと思いきや、彼女は黙ってぼくを睨みつけるだけだった。案外殊勝だ。ここで殺し合いをするのもバカバカしいし、それだとトバリと同類なわけで、その辺りを弁えている点だけは評価できる。
 とはいえ、ここでにらみ合っていては何も進まない。はぁ、とため息が漏れる。結局のところぼくの売った喧嘩はぼくが閉めるしかないようだった。

「勘違いしないでくれ。ぼくはきみの同士じゃない、仲間じゃない。それを十分に理解してもらった上で、まともに情報交換する気があるっていうなら、存分に話し合おうじゃないか。まあ、今日のところは無理だろうが」

 どうせこの調子では冷静な話し合いは見込めないだろう。先に進む仕掛けも今のところ手がかりは見つからない。詰まったなら頭を切り替えることが必要だ。だから、ぼくはもうこれで打ち切って、一度このエリアから引き上げることにした。彼女達に背を向け、ふらつく足を叱咤して出口へ向かう。

…………あんた、よく喋るんだな」

 捨て台詞のように彼女が言った。

「きみは余計なことしか言わないね」

 来るなら相応に殴ってやろうと、返す言葉で切ってやる。表情を確認するのも鬱陶しくて、彼女の顔は見ないままその場を去った。言い返す言葉は聞こえなかった。




 胸のムカつきを押さえつつ、出口に向かう。いつもならトバリの殲滅についてが真っ先に浮かぶはずなのに、今日は珍しく違って、彼女達のことばかりが頭から離れない。
 せっかくのお仲間に突き放されて、さぞ悲しいだろう。けど、ぼくには関係ない。だって彼女がどれだけ傷を負っていようが心に欠けを抱いていようが、どうせぼくらは他人同士なのだから。それに、面倒な女は一人でお人形遊びしているのがお似合いだ。
 人形。傍に居た、無口な方の少女を思い返す。がらんどうの眼、希薄な表情、何を言うでもなくじぃっとこちらを眺め見る不気味さ。まさに人形と形容すべきものだった。現に、あれだけぼくらが言い合っていてちっとも動きやしなかった。相棒であるはずの彼女を庇うことすらしていない。
 ああ、ぴったりじゃないか。
 おかしくなってけらけらと笑う。
 寂しがりの女のコに、何も言わないお人形。これはもう傑作だ。これを言ってやったら彼女達はどんな表情をするだろう。

…………泣けばいいのに」

 ドス黒い感情が渦巻いていた。トバリに対するそれよりずっと人間らしい想いで――――
 意地悪く吐き捨てたあの時に、彼女の方を見なかったのを少し、後悔する。

 甘ったるい嫌な香りが、いつまでも口元にこびりついて仕方がなかった。






~END~