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ツキシキ
2023-07-01 21:41:32
14235文字
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★Line(ウディタ)まとめ
4作品。WOLF RPGエディター製のフリーゲーム「Line」の二次創作。
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痛がーる(シャーニとルーナとアピス・トゥルー・ギャグ)
嫌な予感はしていた。ルーナが大きく腕を振りかぶった瞬間に止めておくべきだったんだろう。後悔は先に立たない。
「あ」
流石私の妹はよくできた子なので、危機を察知するのは早かった。手に収まるサイズの金槌の重み、そのせいでずれた軌道と金具を抑える指先の位置。
結果は実にわかりやすい。
ゴキュ、と、打音を越えて破壊音。
早いとこ駆けつけるべきなのに、ルーナの手元へ向ける目がおそるおそるになってしまったのは、事態を認めたくなかったからかもしれない。
「
…………
お姉さま」
釘のようにばっきりと指が不味い方向へ傾いていた。
「ルーナァ!?」
「誤りました」
「だっ、いた、おま!」
「謝ります。あやまりだけに」
「ルーナァ!!!」
もはやツッコミすらうまくできない!
生き死にと隣り合わせの時であれば即座に回復を試みて何事もなく済んだだろうが、何分最近の私はぬるま湯生活を送っていた。アピス姉さまと共に働くようになってから、私よりずっと弱っちい子どもたちが無警戒にきゃっきゃやんやと絡んでくるもんだから、すっかり気が緩んでしまっていたのだった。目がグルグル回るが何からすればいいのかわからない。ルーナの負傷だっていうのに!
そうこうしている間にもルーナは、釘を掴む指を変えて果敢にも再チャレンジを決めようとしていた。違う! 妹の向上精神は姉としても大いに嬉しいが違う!
「ルッ、ルーナ。とりあえず作業はストップだ」
「はいお姉さま」
金槌がルーナの手から離れる。ほうと息をつく。とりあえず私が余裕を見せてルーナを安心させてやらなくてはいけない。いや、ルーナは至極冷静に見えるが、それはそれとしてだ。
「おねえさまに手を見せてみろ」
「はいお姉さま」
「うっ。どのくらい痛い
……
?」
「天地を滅ぼせそうな程度には」
「うああああ~
…………
!!」
頭を抱える。妹の指の痛みで世界が滅んでしまう! 金槌とかもう製造禁止でいいんじゃないのか! 鍛冶屋が困る? 知らん!
「おーうどうしたー?」
私の叫び声が届いたようで、外からアピス姉さまがひょこりと顔を出す。頼れる、アピス姉さまが!
「ルーナが、指が、折れっ」
「金槌でゴッスンゴッスンしました」
焦ってろれつが回らない私に代わり、ルーナがわかりづらく要約する。アピス姉さまは順番に私達の顔、ルーナの真っ赤に膨らんだ指を見て、静かにうなずいた。
「よーし、良くないがよし。シャーニは井戸から冷やした水取ってこような」
「はい姉さまっ!」
「ルーナは指動かさずにそのままちょっと待ってろよ。添え木かなんか残ってっかなあ」
「はいアピスお姉さま」
二人の会話を背で聞きつつ猛ダッシュで井戸まで駆け、桶を忘れたことに気付いて疾走往復、赤い流星だと騒ぐ街の奴らの声が聞こえたような無かったような。戻ってきたころには姉さまが例の本と救急箱を手にルーナと向き合っていた。本の内容を金髪に翻訳してもらってから姉さまの本は成功度をぐんと上げて、見様見真似の手つきもすっかり手慣れたものに変わっている。
魔法で補助したほうが治りも早いが、それは姉さまに止めるよう言いつけられていた。だから私はやきもきしながら、姉さまの流れるような処置を見守る。
ルーナの指に真っ白な包帯がくるくると巻きつけられる。添え木と冷やした布と腫れで膨らんだ指先は、ルーナの元の細さとは比べようもない。
聞いても仕方ないこととわかっていながら、つい私はルーナに問いかけてしまう。
「ルーナ、痛み、ひいたか
……
?」
「はい。街一個分滅ぼせそうな程度には治まりました」
「うああ~
……
滅ぼすか? 滅ぼしてこようか?」
言ったとたん、鋭い視線が刺さった。
「シャーニ?」
「冗談だけどさ姉さまー
……
」
どうしても情けない声が漏れる。アピス姉さまがいると、私はついつい寄りかかってしまう。そんな私を諫めるように、アピス姉さまは私のほうに向きなおって口を開く。
「痛いをちゃんと痛いと思うこと。大事だって言ったろ?」
「
……
わかってますけどー
……
」
「心配なのはわかるさ。ま、二・三日で腫れは引くはずだから、な?」
「はい姉さま
……
」
たとえ数日で治るとしても、私がちゃんとルーナを止めてやれればよかったのに変わりはない。うなだれる私にぽんぽんと手が置かれる。アピス姉さまの優しさは、ときどきちょっと辛い。
「んで、ルーナは何しようとしてたんだ?」
「子どもたちが、新しい棚が欲しいと言っていました」
「ああー
……
新品はまだ買えないからなあ」
「ですので有から有を生み出す試みを」
「うんうん、作ろうとしてくれたんだな。気持ちはありがたい」
アピス姉さまの手が私から離れて、今度はルーナのほうへ向かう。ルーナはいつでも働き者、自分でできることを自分で探せる良い子だってことはわかってるんだ。危なっかしいのが玉に瑕だが。
撫でられて心持ち頬を緩ませるルーナに、一転してアピス姉さまは声を低くする。
「でもルーナ、危ないことは一人でやっちゃだめだって言ったの、忘れてないよな?」
「
…………
姉さま達はお忙しそうだったので
……
ごめんなさい」
「ん。そういう時はどうすればいいと思う? 一人でやるのは無しだぞ」
「
…………
」
悩むルーナに声をかけようとして、またアピス姉さまの視線が飛ぶ。ヒントは駄目らしい。やがてルーナは答えを見つけたようで、小首を傾げながらも答えた。
「
………………
お姉さま達のお手伝い?」
「よし!」
アピス姉さまがルーナの頭を撫でる。なんとなく私も参加してみる。整えてやったルーナのポニーテールがちょっと乱れる。でも、ルーナは頬を赤らめていたので問題ない。
「一人で危ないなら、みんなで一個一個片付けていけばいいんだ。よく言えたな」
「はいアピスお姉さま。次は間違えません」
「シャーニも困ったら私を呼ぶんだぞ」
「
……
なるべく頑張る
……
」
アピス姉さまのことを忘れるなんてことはあり得ないけれど、とっさの時にはまだ名前を呼べない。人に頼るってこと、私達はまだ慣れていないんだなと痛感する。
でもせめて、次は慌てる前に呼べるようにしよう。独りで抱え込まなくて済むように、すぐにルーナの痛みを和らげてやれるように。
「うええええええいんちょーーーせんせーーーーーーー」
と、反省する暇もない。次に響いたのは子どもたちの泣き声だった。アピス姉さまにはまだまだやることがある。最後にぽんぽんと私達の頭を撫でてから走り出した。私も追いかけるために散らかした救急箱を片付け始めたその時に、
「お姉さま」
「なんだ?」
ルーナが静かに声をかけてくる。やっぱり指の痛みに耐えられないんだろうか。はらはらした気持ちで顔を向けると、思いのほか、ルーナはふんわりと笑んでいた。
「次はお料理がしたいです。教えてもらえますか」
「
……
治ったら、一緒にしような」
「はいお姉さま。ありがとうございます」
心配は杞憂だった。いや、違う心配もできたはできたが、きっと大丈夫だ。
私も釣られて頬が緩む。はらはらがわくわくに変わる。痛いはきちんと痛いままだけど、それだけじゃない何かをくれる。全部、アピス姉さまが私達に色々なことを教えてくれるおかげだ。
早く怪我が治ってくれると良い。
いいや治ってくれるはずだ。そうじゃなきゃ割が合わないってもんだろう。
だって私の妹は今日も、明日も、とっても良い子なのだから。
~END~
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