ツキシキ
2023-07-01 21:41:32
14235文字
Public
 

★Line(ウディタ)まとめ

4作品。WOLF RPGエディター製のフリーゲーム「Line」の二次創作。


星をつかめ(カンナメインのシャーニ戦・αとβ・シリアス)


 凪のような夜だった。
 冷えた月光が肌寒く、 まなこばかりが冴えていた。
 情緒溢れる満月に、見惚れられたら楽だった。清かに響く虫の音が、刺されるようにぴたりと止んだ。私の五感は殊更に、殺気に対して鋭敏だった。
 ざくり、踏みしめる砂の音。姿を見せる狂笑、会敵。
 夜更けの刺客は揺れる二つ結いを鬱陶しそうに手で払う。次いで私のほうを指し、お前も邪魔だと叫んで脅す。衝動でも命令でもなく、そうせざるを得ないという状況が私に武器を取らせた。

「何? 逃げずに私と殺ろうっての?」

 挑発の赤に、嘲る口調、上がる口角、狂気の翡翠。彼女は天に座す月光よりも煌々と殺意をみなぎらせていた。闇に身をやつしていた頃の私よりも、ずっと鮮やかで吹っ切れたその殺意。
 やりたいからやる、その破壊衝動。一つの志向、あなたの意思。私はそれを全身で受けて、改めて私を問いただす。

 ……“やりたい”なんてこと。………………ずっと知らなかった。
『おばけさん』だったあの頃の衝動は、やりたい、じゃなくて、……わからない、だったんだと思う。
 でも、今の私にはある。この人ほど鮮烈なものではないけれど、遠いあの星のように、見えないけれど確かな望みはある。だから、そのために立ち向かわないといけない。

 ………………のに?
 ふいに、手から力が抜けたのは、あまりに冴えた月光のせいだろうか。
 それとも、この人だっておんなじだと。死ねと、殺すと、叫ぶあなたも、『おばけさん』だと気づいてしまったからだろうか。

「なぁ~んだ!!」

 構えを攻勢に転じる間もなく、赤い煌きが飛び上がり、一閃。一閃、瞳が、一閃、追うより早く一閃、一閃、あ、と言う間、一閃! 寸分の狂いなく張り巡らされる網目が正確に私を切り刻み────

「あんたてんで弱っちいじゃん!!」

 相手が次の言葉を発するその時、私の身体は、地に伏していた。理解が及ぶその間もなく、ぱつん、と小気味よい音すら立てて私の腕がちぎれ飛ぶ。
 真っ赤に焼ける視界。脳裏に警句が浮かぶ。暗殺者は、常に冷静であれ。だから私の頭は冷静に、冷静に────現状を正しく理解する。


 私、もう、……死ぬ…………んだ。


 驚くほど、静かに…………納得を、していた。

 報いだ。

 走馬燈のように思考が流れては霧散する。
 どういうわけか痛みはなく、肌に感じるのはぬるま湯のようで、込み上げたえづきに任せて吐き出した血で、その温かさの理由を知る。ひゅー、ひゅー、と音がする。凪の夜が終わったのかと、思えばその音は私の喉から出ていた。
 続いて耳が拾い上げる、躊躇いのない足音。きっと刺客の仲間が来たのだろう。その躊躇いの無さはきっと、私が傍目からも虫の息だと示している。でも、意識に帳が降りかけた今の状況ではもう何も、できない。

 できない。
 …………
 ……………………命を賭したって、良いと。こうなってはこの刺客を殺すことが使命だと、思おうと、していた…………気がする。でも、それすらも、できないのなら。殺すしか能のない私が、殺すことすらできないのなら。

 ……せめて、あの子どものように。
 目の前にいるこの泣き出しそうな赤い子を。『おばけ』の世界から連れてってあげ、なく、ちゃ………………



「私がぁ!! 何を恐れてるってぇ!!
 言うんだよぉおおおお!!!」



 ああ、やっぱり、できない。
 私の望みは、血塗れの手では遠くて、遠くて、遠すぎて…………確かにあるのに見えない、あの、星みたい…………
 凪の夜に吐息が、落ちる。



◇◇◇



 既視感。
 二つ結いの赤鬼が飛び上がり、人影が宵を想起させる。煌く凶刃が満月のように鋭さを増す。息をつく間もなく、一閃。

「切って斬って切り刻め!! 無限の苦しみを味わえ!!」

 一閃、一閃、また一閃。追う、追えない、裂ける肌、焼ける刃。

「無限滅消刃!!」
「きゃぁあああ!」
「ぐっ、」
「いっ、ああ゛ああ!!」
…………ッ!!」

 利き腕がカッと熱を持つ。血が零れ出て視界が眩む。ぐらり、身体が崩れかける。
 取り落としかけた扇を強く掴む。舞うための腕と立ち塞がる足。まだついている。まだ、という感覚に目を丸くする。失ったことは一度も無い。でも不思議に思う暇はない。大丈夫……戦える。

「ちっ、浅かったか。ルーナ!!」
「ええ、お姉さま」

 覚えのある詠唱が響き始める。剣を砥がんと祈る祝詞。防がないといけない…………のに。身体が思うように動かない。灼熱のような痛みが身体中を掻き毟る。命が焼けていく音がする。

 だめ。だめ。だめ!
 私の望み、誰も、誰も死なせたくない────!



「降り……注ぐ……星影よ……

 か細く、声がした。リィトが、剣を支えに震い立つ。柔らかな光が緩やかに集まる。私の願いを、叶えてくれる。あの星が。私の、仲間が!!

「我らにふたたび、立ち向かうちからを!!」

 遠い、遠い、あんなにも遠かった星が今、手に届く!

「スターライト!!」
…………グラインド!」

 同時、相手の詠唱も終わりを告げる。私の掌は揺るぎなく扇を握りしめていた。フラメも、アピスも、よろめきながら立ち上がる。
 瞬間、紅が瞬く。突っ込んできた敵がリィトを切り刻む。アピスが銃口を向けたその瞬間には、もう身を翻して態勢を整えてしまう。

「リィト!!」
……だ、いじょうぶ。やれます」

 フラメが駆け寄るその間にも、もう一人が次の詠唱を続けていく。間に合わない。間に合わせる。扇を開けば音が鳴る。戦場に合わぬ舞の音。私だけが鳴らす援護の音。

……時間を稼ぐから……
……っ、任せた!」

 アピスが叫んでリィトを快方する。フラメは答える前にもう鉄槌へ炎の気を集めてくれている。やれるかとは訊かれない。やれると信じてくれている。
 私にできること。
 幸いこの場は草木が多い。実りが多い、陽気が多い。まるで戦など無関係な花畑のように。

「ははははは!! あんたらの時間はもうゼロだってんだよ!!」
……させない。私が、繋げる…………!」

 平穏を荒らす凶刃が煌く。けれど風は刃より早い。

「春風扇!!」

 春の嵐は意識を暈す。相手を丸ごと攫っていく。転寝は誰もが抗いがたい、なんて自然な理の術。

「ハッその程度、の、風………なん……かぁ…………?」
「ね、……えさま…………これ……は」

 淀みなく流れ続けていた詠唱が中断される。相手の身体が自然と傾ぐ。
 私にできること。
 殺すことだけじゃない。生かすことだってできるんだと、教えてくれた人がいる。
 フラメを見れば、目が合った。握りしめる鎚は爛々と燃えている。

「ありがとう、カンナ」

 お礼を言われることなんて、今までほとんどなかった。
 そう言ったら皆はどんな反応をするだろう。ここには居ないタチさんも、よくやったと、一言認めてくれるだろうか?

「焼き尽くせ、」

 フラメの声は覚悟に満ちている。
 でも、殺意じゃない。
 敵も、味方も、生かして守る人の声だ。
 場にそぐわず心が揺れるのも、きっと、決して、過ちじゃない。


「クロスクリムゾン!!」


 戦いに、幕が下りる。
 穏やかな風が吹いていた。



~END~