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雨音
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安寧の灯
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【案律小説集】
文字数少なめ(500~1500字程度)の案律小説をまとめました。
1
2
3
4
5
【血の上で君は笑う】
……
やってしまった。
手についた黒い血を見つめながら僕は呆然と立ち尽くす。
次いで足元に転がる物体を見る。いや、物体じゃない。さっきまで動いていた命あるもの。折れ曲がった手足から流れ出る黒い血。コレを折ったのは
……
僕だ。
「
……
僕は悪くない。悪くないんだ。悪いのは全部コイツのせいなんだから」
僕は自分に言い聞かせるようにぶつぶつ呟く。そうしないと正気を保っていられそうにないからだ。
僕の足元に転がっているのはどこからか迷い込んできた怪異の成れの果て。そして、案内にずっとくっついて離れなかった忌まわしい奴。僕たちが恋人という関係なのを知った上で。
「案内は僕の、僕だけの大切な存在なんだよ。案内の隣に
……
見ず知らずのお前が立つな」
苛立ちを込めてぐちゃりと踏みつける。怪異は簡単に死なない。そもそも怪異に死の概念はほとんど無い。だからこうやったところで無駄に時間を消費して、無駄に靴を汚すだけで終わる。でも僕はコイツを許さない。許せない。
過去みたいに遠くから見ているだけの自分は卒業した。気に食わない奴は直接手を下さないと気が済まない。怪異はもう動いていないのに、僕は何かに取り憑かれたかのように懸命に踏みつけ続けた。
「律。そのへんにしておけ」
不意に背後から声がかかる。反射的に振り向くと案内が腕を組んで立っていた。
「あ
……
案内、ち、違うの。これは
……
コイツが悪いの。やりすぎたかもしれないけど、僕は、僕は悪くない
……
いやえっと
……
」
「落ち着け。別にオレは怒っているわけじゃない」
怒られるとひるんだ僕は聞き苦しい言い訳を並べる。でも言い訳なんて言ったらもっと怒られる。咄嗟に言い直そうとしたが上手く言葉がまとまらない。
案内は混乱している僕をなだめるように歩を進めてくる。それを見て僕は思わず叫ぶ。
「
……
っ、来ないで!」
僕の悲痛な叫びに案内はピタリと足を止めた。
「今来たら案内を汚しちゃうから
……
。だから
……
」
「なんだそんなことか。血に汚れるのはオレにとって日常茶飯事だから大丈夫だ。それに」
躊躇いなく僕の目の前までやってきた案内にそっと抱きしめられる。太陽のように暖かい体温がじんわりと伝わってくる。
「今にも泣きそうになっているお前を置いて帰れるわけがないだろ」
「うぅ
……
案内
……
」
案内の子どもをあやすような声音に僕は弱い。ポンポンと背中を撫でられて身体の力が抜けるのを感じた
……
そのとき。
足元で動かなくなったはずの怪異がもぞりとうごめいた。
「神様
……
こいつだけはやめておいた方がいい。いくら神様が不死でもいつか私のようにめちゃくちゃにされるぞ」
「
……
っ! 何を言って
……
!」
「やめろ」
余計なことを口走る怪異を、再び足蹴にしようと構えようとした。が、案内にぎゅうっと強く抱きしめられることで身動きが取れなくなる。
「案内!邪魔しないで!こいつは僕が
……
!」
「その必要は無い」
不意に黒いナイフが案内の真横に浮かんだ。そして足元の怪異に真っ直ぐ突き刺さる。
「え」
「やめておいた方がいいかを決めるのはオレ自身だ。お前に言われるまでもないし、余計なお世話だ」
呆気に取られている怪異に案内は冷たく低い声で呟く。
怪異は何か言おうとして、その直前ですぅーと消えた。その場に残ったのは黒い血溜まりのみ。
「トドメを刺したのはオレだ。だから律は悪くない」
案内は僕から身を離してにっこり微笑んだ。返り血で所々が汚れてしまっているのに何故か綺麗だと思ってしまった。ぼんやり見とれていると。
「これからはさっさと仕留めた方がいいな。律の手を汚す必要が無い」
案内は独り言のように呟きながら、返り血で黒く染まった僕の手を取り、申し訳なさそうに目を伏せた。
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