🔷【安寧の灯『序幕』】



日本のどこかに存在する世間から隔絶された村、音羽村おとはむら
人口100人前後の限界集落をまとめているのは、代々村長を担ってきた白神しろかみ家。
白神家には古くから守られてきたしきたりがあった。『後継者は男のみ継ぐ』と。


現代-2000年代、白神家に生まれた真琴まことは長女として生まれた。しかししきたりに従って真琴は「長男」という扱いを受けて育つことになった。
白神家に限らず音羽村には「初めに生まれた第一子以外は価値無し」という差別的な価値観が存在した。第二子からは人間扱いされず、第一子に何かあったときの「予備」として育てられる。
「第一子として生まれただけ感謝しろ」と真琴の父――現在の白神家当主、白神 零一れいいちは冷たく吐き捨てた。


真琴は徹底的に男として育てられた。少しでも女らしい仕草をしたり関心を持てば、両親から殴る蹴るなどの暴行、人格否定などの暴言を浴びせられた。物心がつく頃にはすでに真琴の身体はボロボロだった。頭には包帯、顔には絆創膏やガーゼ、体には湿布……と見た目だけでも痛ましかった。
心も弱り傷だらけだった。しかしあるとき、複雑に絡まった心の傷を癒してくれる存在と出会う。村の最北端に位置する音羽神社――そこに祀られている村の守り神『灯ともしび様』。
灯様の象徴ともいえるランタンには不思議な力があった。ランタンの光を浴びたり、直接触れると心の傷が癒されるのだ。
それから真琴は両親と使用人の目を盗んでは音羽神社に訪れ、灯様に癒してもらった。ランタンに触れながら、ぽつぽつと心の内を話すようにもなった。決して相槌が返ってくるわけではないが、この時間が何よりも大好きだった。