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雨音
Public
安寧の灯
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【誕生日】
安栖と真琴の誕生日話+α。
誕生日を知らなかった真琴が自分で考えて行動する話。
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4月1日。夕焼けに染まった
音羽
(
おとは
)
村を、真琴は安栖の手を引いて歩く。今日は朝から晴天だった。頭の中で立てた計画が台無しにならなくて済んだことに真琴は安堵を覚えた。
いつもは安栖に手を引かれてその後ろをついていくのに、今日はその逆で何だか新鮮だ。オレンジ色に染まる空を眺めながら、真琴は目的地に向かって歩き続けた。
「ここだよ」
「
……
!」
村の一段と高い場所まで登って、鬱蒼とした茂みを通り抜ける。空いた手でかき分けて前に進んでいくと、突如ふんわりとしたオレンジ色が視界いっぱいに広がり、思わず目を閉じる。
少し間を置いて再び目を開けると、夕日に照らされた桜並木が辺り一面に広がっていた。夢の中のような幻想的な風景に、安栖は目を奪われる。高い場所が好きな安栖でさえ知らない場所だった。
「花畑ってわたしは呼んでる。ここに咲く花はとてもきれいで、わたしのお気に入りの場所」
真琴は安栖の手をクイッと引っ張ってさらに歩みを進める。突き当たりに白い柵に覆われた何もないスペースがあった。
「ここは展望台
……
ってわたしは呼んでる。ここから見る音羽村と音羽町はきれいなの。遠いけど海も見えるよ」
「本当だ
……
」
真琴は眼下に広がる光景を一つひとつ指さして紹介していく。安栖は指で示された先の景色をなぞるように、目に焼きつけるように眺める。
「おとうさんはこの場所知ってた?」
「いや、今日初めて知った。真琴はいつから知ってたんだ?」
「たしか7歳くらいだったと思う。
灯
(
ともしび
)
様に会いに行った帰りに寄り道してたらここを見つけたの」
今日のように朝から晴天で綺麗な夕焼けの日。季節は秋。
灯様に会いに行ったあと、家とは真逆の方向に向かって歩いていたときに偶然見つけた場所。入り口である茂みは何度か見たことあった。でも何だか怖くて近寄るのを避けていた。ただその日は恐怖より好奇心が勝った。
茂みをかき分けた先に待っていたのは、夕日に照らされた辺り一面に広がる紅葉。絵本の中に迷い込んだような不思議な感覚に包まれながら、歩を進めると村と町を一望できる場所に出た。大きいと思っていた村は、上から見下ろすとこんなにも小さくて狭い場所だったのだと驚いたことを今でも覚えている。
「でもね。ここは夕方限定の場所みたいなの」
「夕方限定?」
その後も何度かこの場所を訪れようとした。しかし茂みをかき分けても何もない道に出ることが多々あった。茂みの場所を間違えたのかと最初は思ったが、「朝から晴天で綺麗な夕焼けの日」に訪れると、季節に合った花々が迎えてくれた。
どうやら「朝から晴天で綺麗な夕焼けの日」という条件が必要らしい。朝は雨が降ってたけど夕方は晴れた、朝は晴れてたけど夕方は雨が降ったなど片方の条件を満たしているときにも試してみたが、結局何もない道に出てしまった。
「不思議なところ。でもここに来る人は誰もいないから落ち着くの」
「
……
ここが真琴のお気に入りの場所なら、俺を連れてきてよかったのか?」
特殊な条件を満たさないと入れない、村人のほとんど、もしくは全員が知らないであろう特別な場所。真琴だけが知っている秘密の場所に、今更ながら足を踏み入れてよかったのだろうかと安栖は真琴を見る。
すると真琴は不思議そうに首を傾げて。
「おとうさんだから連れてきたんだよ。それに今日はおとうさんの誕生日だから。でもわたしは誕生日は何をしたらいいのかわからない。だからとっておきの場所に連れて行こうと思ったの」
真っ直ぐに心の思いを伝える。今まで両親以外の誰かのために行動することも思いを伝えることも無かった真琴。そんな過去を知っている安栖は、昔と大きく変わった真琴の姿に目を見開いたあとゆっくり目を伏せた。
「
……
ありがとう、嬉しい」
次いで真琴を抱き寄せて、腕の中にすっぽり収める。安栖の温かい体温が真琴へとじんわりと移っていく。腕の中の真琴はきょとんとしていたが、ふと思い出したように呟いた。
「おとうさん、お誕生日おめでとう」
「ありがとう。誕生日を覚えててくれたんだな」
「覚えてたというか
……
この前萬さんに教えてもらって初めて知ったからその
……
」
「ううん大丈夫。誕生日を祝ってくれるその気持ちがありがたいんだ」
萬に教えてもらえなかったら、いや、あの日よろずやに行っていなかったら今日この場所に来ていなかった。安栖の誕生日だと知らないまま、家で一日を過ごしていただろう。その可能性を考えて身震いした真琴を安栖はさらに抱きしめて、食い気味に言葉を重ねる。
安栖の誕生日を知る者は3人しかいない。その3人にもあまり祝われた記憶は無い。一応「誕生日おめでとう」と言われるがそれだけだ。全員悠久の時を生きているから人間のように律儀に毎年祝うことは無い。
ほぼ毎日のように村や町で誰かの誕生日が迎えられている。日常的に迎えられる記念日をどこか遠い世界のように眺めていたが、こうやって真琴が自分のためを思って行動に移してくれるのはとても嬉しいことだった。
「本当にありがとう真琴。素敵なプレゼントをありがとう」
何度も感謝を伝えてくる安栖に、真琴は照れてしまい安栖の胸に顔を押しつける。照れ隠しのために顔を押しつけたものの、真っ赤に染まった耳を見た安栖にはバレバレだった。愛しさで思わず笑いそうになるのをこらえて、安栖は真琴のサラサラとした黒髪を丁寧に撫でた。
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