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不破
2023-02-18 21:26:03
5641文字
Public
空戦
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#13
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『ウィンズレット、ニューヨーク行き最終便、間もなく離陸します! 無理な乗船はお止め下さい!』
夕暮れ。響くアナウンスに焦りながら、キャリーの付いたトランクを引き摺って走る。既に半分ほど閉じかけているゲート目掛けて、多くの人々が殺到する。ゲートの奥に見える飛空艇の
舷梯
タラップ
が迫り上がり始めているが、多くの人々が我先にと舷梯によじ登っている。周囲に配備されている軍人達がなんとかしてそれを引き剥がそうと奮闘しており、いくつもの怒号が響いている。
そんな光景に気圧されて、足が止まってしまう。閉じゆくゲートが音を立てて閉まり、その寸前に、離陸していく飛空艇の舷梯から人が落ちるのが見えた。
メルゼブルクの都市、フィレンツェ。その外縁部に設けられた仮設テントの中、倒したトランクをベンチ代わりに座り込みながら、途方に暮れていた。
夢のために音楽の留学という道を選び、母国であるウィンズレットを離れ、フィレンツェの学校に通っていたのだが、メルゼブルクの皇帝が変わって状況が一変した。メルゼブルクとサイードの開戦。国境ゲートでの事件と、それに端を発したメルゼブルクへの批判と、リベルタリア和平協定からの除名。そして、つい先日にウィンズレットからメルゼブルクへ正式に宣戦布告がなされた。多くの国との国交はすぐに断たれることとなり、それまでの僅かな期間に、メルゼブルクに身を置いていた外国籍を持つ人々が荷物をまとめることとなった。
メルゼブルクから出国するための最後の手段であった臨時の飛空艇、その最終便が先程離陸していった。それに乗ることの出来なかった不運な自分達は、敵国となり、リベルタリアから孤立してゆくメルゼブルクに取り残され、軍事施設を有さない非戦闘都市で、いつ終わるともわからない戦争の終わりを願いながら生活するしかない。
「
……
どうしよう」
周囲からは軍人に食って掛かる怒鳴り声や啜り泣く声が響いてくる。それを耳にしながらも小さく溢し、トランクの上で膝を抱える。と、灰色がかった青い髪がはらりと垂れ下がる向こうに、黒いコートの裾が見えた。
「大丈夫でしょうか?」
「はい?」
問いかけられた言葉が飲み込めず、伏せていた視線を上げると、そこには少女が立っていた。自分とは異なる鮮やかな青の髪に、エメラルドグリーンの、どこか光のない目をした色白の少女で、身につけている黒い軍色のコートとのコントラストに目が眩みそうな、まるでお人形のような少女だった。
「えっ
……
と
……
?」
「いえ、不安値の高い声が観測されましたので」
と、変わった言い回しをする少女の言葉に面食らい、ぽかんとした表情を浮かべてしまった。それを目にした少女が表情を変えぬまま1歩こちらへ歩み寄り、手を取られた。その手があまりにも白く、あまりにも冷たいことに驚きながら、少女の目を見た。鮮やかな碧色の目が本当にお人形のようで、それが人のように動いていることが少し不可思議で、奇妙な感覚に襲われた。
「体温に異常はありません。心理的な負荷でしょうか?」
見た目よりも無垢な声色で問いかけてくる少女に、目をぱちくりとさせるが、少女はコートの裾を正しながらわずかに残っていたトランクのスペースに腰を下ろす。それを躱してわずかに腰をずらしてスペースを譲った。
「会話は不安を和らげるとの研究データがあります。私が話し相手になります。メルゼブルク軍所属、ホワイト一等准尉です」
淡々と名乗った少女が階級を口にしたことに気圧されつつ、戸惑いながら返す。
「え、と
……
アメリア、です」
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