不破
2022-10-09 17:22:18
4612文字
Public 空戦
 

#10




「ポール・ハーディ大佐、以下リゲル隊43名、及びイリアンソスに同乗していたフォーマルハウト1、ブルーリング・デグチャレフ大尉、またバグダードから離脱できなかったシャウラ隊のヴィン・ハートフィールド中佐が死亡……いや、戦死だね」

 テイルが口にした報告の内容に耳を傾けながら、グリーディアは黒い目を細めた。

「これに伴い、リゲル隊はメルゼブルク軍より抹消。シャウラ隊は新隊長の任命と、コールサインの繰り上げ。フォーマルハウト2は新しい編成先を検討中だよ」

 リゲルが全滅、その上シャウラとフォーマルハウトの隊長を失うという失態。その采配を下したのは紛れもない自分自身だ。どの隊を向かわせるか、どの程度の編成で攻め込むか、其れ等を決めたのは自分ではないが、それを命じたのは皇帝である自分自身なのだ。それに、国を背負うということは全ての兵士の命に責任を持たなくてはならない。だからこそ、この戦闘での作戦失敗の責は自分が負う。そのために必要なのは情報だ。死んでいった者達が、なぜ命を落とすに至ったのか。それを知らなければならない。

……シャウラからの報告書には型式不明のUAVとあるが、調べはついているのか?」

 唸るように息を吐き、グリーディアは低い声で問うた。

「もちろん。結論から言えば、このUAVはメルゼブルクのものだね」

 言いながら光学モニターを展開して件のUAVの映像を映し出すテイル。白いUAVが猛スピードで飛び回る映像に目を細めたまま、グリーディアは無言で続きを待った。

「コルテス子爵家が中心で開発してる次世代型多用途無人戦闘機、”ルッキオラ”。その試作機がこれだね」

 コルテス子爵家。軍用機を始めとした有人、無人兵器の研究開発を生業とするメルゼブルクの貴族家だ。前皇帝の時代、開発データや兵器の横領に関わった可能性が高いと調べはついていたが、自国と敵対関係にある国に兵器を流すとは。

「全員を始末出来ていればバグダードごと証拠も消せていたというわけか」

「でも、生き残りが出てしまったからね。監視からはケーニヒスベルクを出たと報告があったよ」

 逃げとなれば行動が速いのはどんな輩でも同じということか。しかし、逃してやる道理などない。ふざけたことをした落とし前はつけさせる。

「サイードの本隊は?」

「メッカに本部を設置して防衛線を張ってるね。バグダードの件で注意を逸らしたつもりでいるみたい」

 メッカ。サイードの都市の1つであり、中規模ながらも堅牢な要塞都市として知られる要所だ。かつての世界で重要な意味を持つ都市であったことは各文献でも語られているが、そんな都市を最後の場所に選ぶとは。殊勝と讃えるべきか愚かと嗤うべきか。どちらにせよ、もっとも凄惨な死を与えなければならない。

「わかった。お前はメッカへ向かえ。コルテスの追手には大鴉を向かわせる」

 平坦な口調で言いながらも、グリーディアは深く息を吐いた。唸るように溢れた声は獣の唸り声のように執務室の高い天井に響き、虚空へと消えていく。テイルがくすりと笑んで踵を返し、長い袖に隠れた手を振りながらドアへ向かって歩き始める。

「じゃあ、準備が出来たらすぐに発つよ」

 そう言い残すテイルのヒールの音を追いかけて、グリーディアは低い声でテイルを呼び止めた。

「テイル」

「なあに?」

「鏖殺だ」

 黒い髪を揺らして振り返ったテイルに、グリーディアは一言だけ告げた。その言葉に、テイルは血の色の目を細め、悪魔のように笑った。

「わかったよ」