イリアンソスの艦橋を呑み込んで広がった爆炎。碧い目でその光景を見据えるホワイトは、一瞬前に響いた音声データの中に「ソニア」という響きを観測したが、爆音に消えたすべてが解析できたわけではなかった。だからこそ、その内容について報告はしなかった。
『……ホワイト……』
「大尉、ご無事ですか? 動けるようであれば脱出を進言します」
と、その時だった。自分に与えられた名を呼ぶ声が通信から聞こえた。ノイズに塗れたその声が大尉のものであることはすぐにわかったが、ホワイトは平坦な調子で返した。
『あはは……ちょっと、無理そうだね……』
今にも途切れてしまいそうな声で弱々しく響いた大尉の声。その声に比例するようにして、炎を上げるイリアンソスが大きく傾いて空へと沈み始める。その光景は初めて目にするものだったが、AIである自分にとってそこにあるのは原因による結果でしかない。
『ホワイト。貴方は……これから色んなものを見るの。色んなことを知って、普通の……女の子みたいに……』
ノイズに掻き消されていく大尉の声が沈んでいくイリアンソスとともに落ちていく。
『生きて、ホワイト』
ノイズに塗れるその声が、爆音に呑まれた。それと同時にイリアンソスから爆炎が上がった。その瞬間に、表情の動かない自分の中に、不可解な感覚を覚えた。なにかが込み上げるような、なにかを失ったような、そんな感覚。データの中にある感情のモデルの中で近しいのは悲しいという感覚がそうなのかもしれないが、機械仕掛けの自分にはそれがわからない。
「……大尉」
しっかりと名を呼んだことさえなかった上官の名前代わりに呼んでいた階級を口にしながら、ホワイトは滞空する自身の身体をぎゅっと抱きしめる。まるで溢れ出すなにかを溢さないように抱きとめるかのように、強く。しかし、戦場は待ってはくれない。アラートが鳴り響き、上空から舞い降りる爆弾を抱えたUAVがバグダードへと飛び込んでいく。炸裂する爆音と爆炎が空を裂き、通信から絶叫や怒号が響いてくる。
『リゲル3ロスト! 第2、第3中隊全滅!』
聞こえてくるシャウラ5の声が遠く、どこか知らぬ場所で起こっている出来事のように感じる。黒煙を上げるバグダードの高度が落ち始めた。
『ヴィン!』
と、その時だった。通信からシャウラ1の名を呼ぶ声が響く。リゲル1の声だった。その一言ですべてを察したらしい。シャウラ1の小さな息遣いで頷いたのだとわかった。
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.