chizanapo
2022-06-05 14:58:59
6162文字
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【現パロ槍弓】次は裁判所でお会いしましょう【企業戦士とかいてビジネスパーソンと読む】

※ふんわり現パロ槍弓二次創作。弓がシロウ・A・エミヤ、槍がクー・フリンと名乗っています。
※女性向け恋愛ものです。でも朝チュン(実質的なエロシーンがない)なので全年齢にしておきます。登場する2人の年齢はたぶん28~30くらい。
※法律とビジネス部分は眉唾ですので信じないでください。英語にしては不自然な言い回しも見なかったことにしてください。所詮フィクションです。
※ビジネスマンってタグつけようかとおもったけど今ビジネスパーソンっていうのが正しいのか迷った
※ツイッター投票連載していました。お付き合いいただいた方、ありがとうございました。
 
※何千番煎じだろうと今の私はこれが書きたかったのでしょうがないとはおもいますが、不勉強ゆえ、あまりにも似てるという過去作があったらコメントなどでおしえてください。読みに行って満足したらこちらを閉じます。



社内向け講演の会場は、弊社の本社ビル最上階35階のシティビューな会議室。ここにしてよかったと思う程度には窓の外は晴れ渡っている。
法務部門や関係者100人もの人間が集まる。その講演会の主賓をアテンドするのはなかなか骨が折れたが、苦労した甲斐があって心配していたほど社内出席率も悪くないし、ドレスコードもまもってくれている。業界紙が取材に入るのだからきちんとした格好できてもらわなければと気を砕いていたのだが、これで一安心だ。
演台で部長が前説を述べている。 
「巨大コングロマリット○○○○○の○○部門子会社である米国○○株式会社、その法務部からいらしたトップロイヤー、クー・フリン氏です。
この度は○○事件で米国高裁に重要判決を出させた立役者のフリン氏に、忙しい中時間を割いていただきました。必ずやエキサイティングな話を聞かせていただけるものと期待しております。
ではフリン氏、お願いします」
壇上でマイクを渡された男はプレゼンテーションソフトの投影を背に英語でしゃべりだす。
 
すべりだしは日本人を気遣っているせいか、英語話者なのになんだかたどたどしい。
一文ずつはっきり区切るしゃべり方。資料をみながらなんとなく気が乗らない風に見える。
ある程度センテンスが溜まると部長がまとめ翻訳する。
細かい誤訳も見受けられハラハラする。講師は直接そうはいっていないようだが?とつっこみたくなるが黙っておく。
見守るうちに慣れてきて部長もうまく話題に関する社員向けの知識を補ってくれた。熱が入ると講師の英文独特の抑揚が流れるように走り出した。
――ああ、これでいい。
講師の出身はアイルランドだという。アイルランド訛があるのかよくわからないが、彼のpやsの発音は耳元にささやかれるようにとても美しくて。
まるで詠唱か歌のようだとおもっているうちに、昨日からアテンドの用意で忙しくてほとんど寝ていなかったために、配布の講演レジメを片手にほわんと上気した顔でうつらうつらしはじめた法務部のシロウ・A・エミヤ、それが私だ。
 
どういう文脈か『ライク、ミスターエミャー』と呼ばれ、びくっと跳ねたことでさざなみのように聴衆にクスクス笑いが広まった。
どうやら、その国の裁判所のある部門ではちょっとした怠慢が日常化している、という話らしい。
エミヤと講師は飛行機に乗る直前までメールや通話アプリでやり取りをしていたのに、講師のほうはパリッとしたもので、ジェットラグの欠片もみあたらない。飛行機で寝られたのなら何より。
名前を呼ばれたことには少し赤面したが、やはり美しく抑揚がついた盛り上げ部分は優しく鼓膜を叩く。
もういちどスヤスヤしかけてしまって隣にいた同僚ロビンにつつかれようやく起きる体たらく。
知性深くも人なつこい講師に、これは本当に失礼してしまった、やる気を損なわなければいいが、と後悔しつつも、残りの99人の聴衆たちは全員話に引き込まれ聞き入っている様子だ。自分ひとりくらいいいかと思わないでもない。
隣をみてもあの気まぐれニヒリストなロビンが一つもダルそうにしていない。
 
エミヤは実はこの招へいの準備役だった。当然ながら招へいする前に講演で取り上げられたこの事件のあらましをざっと調べている。
だから前半で説明されている事件背景や判決内容はほぼ理解しているし、その時点ですでに非常にエキサイティングでもあった。その興奮づかれもあるのかもしれない。なにしろ眠い。
 
この講演をききおわれば、欧米法に戸惑う社員も減るだろうし弊社から外国に向けての各種申請作業も進むだろう。
ああ、だが、この話ぶり。
後半はまるでちょっとした戦記物だ。裁判所という戦場で書類という弾丸をやりとりした一人の男の記録。裁判所に足を運んだとき隣から出てきたライバル社の話、裁判官の感情むき出しの問い詰め
最初に抗弁書をみたときに思ったのだ。もしかしてこの人には一介のサラリーマンとして飼われ、企業のために正義を矯めるつもりなどさらさらないのでは、と。どう形にしていいかわからないが、もやもやとした個人的興味のようなものが湧いてくる。
できれば質問タイムを逃したくないのだが。瞼がぴくぴくしだす。
 
「何か質問はありますか?」
ようやく部長の決まり文句。定例会議ではたいてい沈黙ばかりだが。
「はい、いいですか」「あっ次私も」どんどん手が挙がっている。
――ああ、これまでにないくらいの質問数じゃないか。すっかり心酔したきみたちはこれからの業界の見通しまで占ってもらおうというのだな。うんうん、わかるとも。
ならば私の愚鈍な質問の賑やかしなどいらないな。
エミヤはようやく満足げに笑った。
 
質問時間も終わった後、まわりの同僚などが次々に近寄って感謝や感激をつたえた。
――ソーエキサイティング、マーベラス、コングラチュレーショントゥウィナー。
あらゆる賛辞が出尽くしたころ、エミヤもシンプルに「あらゆる疑問に答えていただけて感謝します」と伝えた。
講師はなんだかそっけない。さらに恥を晒しただろうか?と潜り込みたい穴が少し深くなる。
とはいえいちいちそんな細かい拘泥を顔に出していればサラリーマンなどつとまらない。この後も仕事だ。
彼と部長の慰労のために一応3軒程度の高級料理店を選んで事前に選んでもらってある。
ミスター・クー・フリンの選択は隣の40階建ての商業ビルの中の料亭だった。
フリン氏に向けてタブレットで予約した店の地図をみせて案内を申し出た。
それに参加する法務部にも「5階の方のです、いつもの居酒屋にいかないように」と再確認しながら端末にサイトを再転送。目も覚めてくる。