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お芋さん太郎
2022-06-01 22:29:34
10531文字
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監督生と再生の唄
※ツイステ
※性別不明監督生
※ディア・クロウリー
監督生と滅びの歌
https://privatter.net/p/8909648の続編です。
pixivに公開していた作品です。
1
2
3
4
◆◆◆
それから一週間。
いまだ通知は止まらず、何語かもわからないコメントも来ている。
夕焼けを通り越して一番星が輝くころ、ため息を一つ吐き、ユウはやっと帰路につく。
川べりの強い風がビュウと一吹き服を乱した。
ふと顔を上げると目線の先に一羽の鴉がいた。
地に細い足をつき、正面からじっとこちらを見ている。
ユウも足を止め見つめ合う。
鴉がカぁ!と一声鳴き、ピョンピョンと跳ねるように近づいてきた。
「あ、お久しぶりですね監督生くん。いや、こちらの世界では『ユウくん』ですか」
「は?」
いきなり鴉が人の言葉を喋った。聞き覚えのある声に一瞬歓喜したが、その声の主は違う世界にいるはずだった。得体の知れなさに背筋がブルりと震えた。
「あれ?私のことはお忘れですか?とっても優しい私があんなに良くしてあげたのに、なんて薄情なんでしょう!」
「え、ちょっとまって
…
学園長?」
「はい、あなたの学園長ディア・クロウリーです」
鴉がコクっと頷く。
ユウはまだ事態を飲み込めずにいた。
ハクハクと動く口は言葉の発し方を忘れてしまったようだ。
鴉
…
学園長はユウの戸惑いを察したものの、元来マイペースな人物であるため「お元気そうで何よりですねえ」と暢気にしている。
「あの、学園長
…
?どうしてここに」
「あ!そうですよユウくん!あなたなんてことしてくれたんですか!」
学園長がピョンピョン飛び跳ねるが、あいにくこちとら身に覚えが全くない。
「あなた、ツイステッドワンダーランドのことはどこまで覚えていますか?」
「ええと、テストが終わって、気持ちよくなって、みんなで歌をうたったらみんな倒れていて、隕石が
…
そうだ!みんなは無事ですか⁉あれはいったい
…
」
いきなり学園長と会ってしまって動揺してしまったが、自分の去り際あちらの世界ではとんでもないことが起こっていた。
姿は鴉だが学園長がこうして無事なのだ、きっと学友たちも無事でいる。無事でいてくれ
…
と願いを込めて問う。
学園長は天を煽って深く息を吐いた。
「あの日、全校生徒を巻き込んで運勢強化の魔法の一種である『音楽の魔法』が発動しました。魔力の高い者が多いNRCの学生ほぼ全員の力なので相当強力な魔法が発動すると見込まれましたが、発動直前に我々の魔力とはまた違う形態の魔力が大量に注ぎ込まれ、結果サイエンス部もびっくりな規模で大爆発というわけです。ああ大丈夫、爆発に巻き込まれた皆さんの無事は確認してあります」
「よかった
…
」
「本当に良かったですねえ。なにせ原因はあなたなので、ユウくん」
「自分が⁉さっきの説明に自分が原因になる要素は一つもなかったですけど!魔力持ってないし」
学園長の説明で皆の無事を確認出来てホッと胸をなでおろしたのも束の間、自分が原因と告げられ電流が走ったかのように体がビクりと跳ねる。
「魔力は持っていない、そう我々も思っていましたがそれは闇の鏡の間違いでした。正しくは『魔力は持っているが、質が違い強大すぎるため測定不可能』ですね。今まで多少この世界を見てみたのですが、この世界の人間にも魔力を持つ者がかなりの割合でいるようです。ただそれを発現させる術が存在しないため大多数の者はそのパワーに気づきさえしない。ユウくん、あなたもその中の一人だったようですね」
学園長が優しい声でカァと鳴く。
「そして偶然にも、あの『歌』で初めて魔力を体の外に出した。あの『歌』で最大規模に集まった我々の魔力は質の違うあなたの巨大な魔力と一気に混じり合い
………
どっかーーーーーん!!!というわけです」
ユウはあの時、魔法を使っている実感が一切わかなかった。
しかしあの『歌』によって引き出されたのならなんとなく納得できる。
みんなそれぞれ釣られるように歌い出し、空気がそれまでとガラッと変わったのだ。
「ただし問題はここからです!あの魔力の塊が何を引き起こしたか!ユウくん、あなたあの隕石を見ましたね?」
学園長が大げさに両翼を広げまくしたてる。
そうだ、隕石だ。恐ろしいほどに大きな隕石を見た。
普通、あれがぶつかったら命どころか星さえ滅びてしまうだろう。
ゴクリと喉を鳴らし、学園長の言葉に耳を傾ける。
「あれは、ユウくん。この世界です」
「ん?」
「あなたは我々の魔力を呼び水に魔法を発動させ、あなたの『元の世界』を呼び寄せたのです」
「え、」
「我々の世界とこの世界がぶつかり合い、その瞬間にあなたはこの世界に取り込まれました。まるで『あるべき姿』に戻るように。しかし、ツイステッドワンダーランドは
…
」
ユウの握った手が汗ばむ。
心臓の動く音がドクドクと大きく感じられるが、そのまま学園長の次の言葉をじっと待つ。
学園長は黒い瞳でじっとユウの様子をうかがい、言葉を選んでいる様子だ。
「
…
ユウくん、ツイステッドワンダーランドはあなたの魔法によって1度滅びたのです」
頭をガツンと殴られたような衝撃が襲う。
目の前が真っ暗になり立っていられなくなったユウは、その場にへたり込んでしまった。
無意識のうちにポロリと涙が頬を伝う。
嘘みたいな世界で嘘みたいに危険にも関わらず嘘みたいに楽しく過ごしたあの日々。
もう二度と手に入らない日々を、大切な友人を、共に過ごした相棒を、壊してしまったのは自分自身の力だった。
知らなかったじゃ済まされない。
後悔したってし足りない。
グズグズと静かに泣き続けるユウに、焦ったように学園長が擦り寄った。
「落ち着いてくださいユウくん!まだ話は済んでいませんよ!なぜ私がここにいるのか、そこが重要なのです!」
学園長がこっちを見てくれとばかりに翼をバサバサと羽ばたかせ、ピョンピョンと跳ねる。
「確かにツイステッドワンダーランドは一度はあなたの魔法によって消滅してしまいました。しかし、つい最近あなたの魔法によって『再生』されたのです!」
ユウが目を見開き、くしゃくしゃな顔のままで学園長を見つめる。
翼で嘴を覆いくふくふと笑う学園長は、新しいおもちゃを買い与えられた子供のように高揚を隠そうともしない。その声色からは心からの歓びが感じられた。
「ああ
…
!あなたの、あなたの世界の魔法はなんと強力で豊かで可能性に満ち溢れていることでしょう!非常に興味深い!ユウくん、あなたまた『歌』をうたいましたね?世界規模で他人を巻き込み盛大に『歌』を響かせた」
ユウの涙がピタリと止まる。
身に覚えがあった。
ありすぎるほどだ。
スマホは重なる通知でいまだブルブルと震え、自己を主張している。
学園長が細く短い脚でウロウロと歩き回りながらユウに聞こえる声量でブツブツと呟く。
「あなたしかいないのです、『この世界』で魔法を使えるのは。唯一魔法を使えるあなたが魔力をのせて『歌』をうたった。その歌は国を超え、海を越え、世界に届いた。皆が合わせて歌い、踊り、曲を奏でた。あとはお分かりですね?」
再びユウの視界がにじむ。
今度は歓喜によって、だ。
「あなたが世界に響かせた『歌』によって、ツイステッドワンダーランドは『再生』されたのです!そして二つの世界は扉一枚隔てていまだ繋がっている!」
「繋がってる⁉え、どこに?ツイステッドワンダーランドに帰れるんですか⁉」
驚愕にわなわなと手が震える。
学園長を両手で鷲掴んだが、魔法によって拘束は瞬時にするりと解かれた。
「もうっ、野鳥は丁寧に扱ってください!しかし『帰れる』とはまた妙な言い方ですね。繋がったのは学園のミステリーショップの裏口の扉と、あなたの家の近所の公園の公衆トイレの右側の個室の扉です」
「よくもまあそんな感動もなにもない場所に繋がりましたね⁉」
「そうですね、さすがあなたの魔法です。さて実はここからが本題。私、あなたに頼みがあって来たのです。今回はあなたを脅すネタが無
…
ではなくてあなたの純粋な善意に頼むしかないのですが、一連の騒動で一部生徒が行方不明になっているのです。その生徒たちを探し出してほしい」
また厄介ごとかと肩を落としたが、行方不明の一言で一気に現実に引き戻された。
学園長が翼をヒュっと振るうとどこからともなく一枚のメモが出現し、そのメモはゆっくりとユウの手に納まった。メモを開くと自分が知っている名前がズラリ。
「あなたがツイステッドワンダーランドを再生する際、どうやら一部の魔力が潤沢で優秀な生徒の魔力も一緒に使い、しかもその者たちをこちらの世界に引きずり込んでしまったようなのです。そのメモはその行方不明者たちのリスト。もしもレオナルド・フィルマーの魔力論がこちらの世界でも適用されるならば、その者たちは元々こちらの世界の人間ではないためその姿形を維持できず、何らかの違う形になって存在しているはずです。魔法の大元であるあなたの身近な場所、かつその生徒を連想させるような場所にね」
「身近に
…
」
「ええ。ツイステッドワンダーランドが再生してもう3日、もう一週間もすればその者たちはこちらの世界にそのままの姿で定着してしまうでしょう。もう時間が無いのです。引き受けていただけたらありがたいのですが」
「引き受けます!そんなの自分のせいじゃないですか!もちろんやります!」
ユウが早口で学園長に答える。
無意識とはいえ、自分の魔法に振り回されているのだ。自分が引き受けるのが筋だろう。
だがしかし、慣れない状況に不安ももちろん大きい。
「引き受けますが、誰かお手伝いなどいただけたりは
…
」
「それが困ったことに、今あなたの近所の公園の公衆トイレは警察のような組織に完全に監視・包囲されておりまして、何人たりともこちらの世界に顔を出すことができないのですよ。いや、まったく物騒な話ですがね」
「え?ちょちょちょ、どういうことですか!」
「そう、聞いてくださいよ!私だってこの3日間、行方不明者がいると知りながら暢気に歌って踊っていたわけではなくて、捜索のため何度かこちらの世界に足を運んでいるのです!でも箒で来たらものすごいスピードで飛ぶ飛行機に撃ち落されそうになったり、許可が無いと通れないと言われた場所をちょっと見張りの人間の記憶をバンして通ったら拘束されて、魔法で抜け出したと思ったら追われて、食料を買おうとしたら通貨が使えずにまた拘束されて、魔法で抜け出して、いったんツイステッドワンダーランドに逃げたと思ったら扉は完全包囲ですよ!おかげでこんな野良鴉に体を借りる羽目になって
…
いやはやこの私を魔法無しで追い詰めるとは、あなたの世界もなかなかやりますね~ハハハハ!」
「完全に犯罪者ですね!いや、いつかそうなると思っていたんですよ
…
見た目も不審者レベルで怪しいし。あ、ちょっと近づかないでください!仲間だと思われる!」
「さっきから鴉と話してる時点であなたも同類ですからね!この不審者!猛獣使い!」
距離を取ろうとするユウに、学園長がわざと擦り寄る。鴉と人間、1人と1羽でギャーギャーと騒ぎながら追いかけっこしている様子は、確かに傍から見ると不審者だろう。
しかしユウはこの空気感を切望していた。
誰に見られても、誰に笑われても、誰に不審がられても構わないと、そう感じた。
「でも、そうか
…
一人でやり遂げなければならないんですね」
状況は厳しい。
自分に縁のある場所とはいえ、その生徒を連想させる場所となるとその生徒をよく知らなければ見当をつけるのは難しいだろう。
メモをパッと見ただけでも片手で数えられないほどの人数だった。それを一週間以内に見つけ出さねば、その生徒はほかならぬユウのせいでこの世界に定着してしまうのだ。
その生徒がどのような姿になっているのかは全く不明だが、ユウも一度は異世界に流された身である。その不安は手に取るようによくわかる。
「いえ、そうとも限りません」
学園長がスッと姿勢を正し、翼を振った。
何もない空間から、今度は紙の束が出現する。先ほどのメモと同じようにそれはユウの手に納まった。
紙の束をよく見ると、どれもこれも見覚えのあるものばかり。
「学園長、これはもしかして
…
」
「そうです。それはあなたに以前提出いただいた、『ゴーストカメラ』で撮影された写真です。『ゴーストカメラ』についての説明を覚えておいでですか?『ゴーストカメラは被写体の姿だけでなく、魂の一部をも写し取ることができる』」
「『写し取られたその記憶の断片(メモリー)は撮影者と被写体の魂の結びつきが深くなると、実態を伴って抜け出すことができるようになる』!」
「その通り!手伝いの欲しい人物の写真を持ち、魔力を込めてみてください。きっと助けになってくれるはずです!いや、まあたぶん、ですが
…
いやでもうちの学園の生徒は助け合いなんて
…
マ、交渉次第ですね!あなたならできます、頑張ってください!」
入学が認められて数か月だが撮った写真は数知れず。ずしりと重い紙の束に、事態の重さを急に実感させられた。
学園長は軽く言っているが、よく考えると言っていることは難しい。
懐かしい写真のはずなのに一つも嬉しいという感情は湧かず、眉間にグッと皺が寄る。
「でも学園長、自分は魔法なんて使
…
いましたね、そういえば。でもあれは全部無意識だったし、魔力の込め方なんてわかりません。だって自分は
…
」
「ユウくん」
学園長がいつになく優しい声色でユウの名前を呼んだ。いつの間にか下向きになっていた視線をクッと上げると学園長と視線がかち合う。オニキスのように輝く双黒は、まるでユウの心の奥底までを見透かしているかのようだ。
「あなたはたったの数か月ではありましたが、ツイステッドワンダーランド有数の名門魔法士養成学校でその道のプロから魔法の理論を学び、優秀な魔法士たちが魔法を操る様を一番近くで見てきていたはず。私たちの指導を舐めないでいただきたい」
学園長がトコトコとゆっくり近づく。
「大丈夫、できます。できるからこそ、私たちは再生した。またこうして会えた。あなたならきっと、彼らをもとに戻すことができる」
再度、黒の翼をツイと振るう。
現れたのは、光を放ちながら輝く石で飾り立てた一本の新品のペンだった。
「これをあなたに。おめでとうございます、これであなたは正式に『一人の』NRCの生徒です」
震える手でペンを握る。
手に力を込めた瞬間、ブワリと爽やかな風が吹いた気がした。
心の中を染めていた真っ黒い染みがすべて消え去り、その代りに宝石の輝きがほんの少しだけ鈍った。
これがブロットか、としみじみ実感する。
「さて、この体に留まるのもそろそろ限界なようですね。徐々に意識が引き戻されつつある。言い忘れていましたが、行方不明の彼らを戻すためには魔力を込めた『ゴーストカメラ』で変わり果てた生徒を撮り、その写真を近くの野良鴉に渡してください。写真に写し取られた魂をツイステッドワンダーランドに持ち込むことで、本体も引きずり戻されるはずです。では、検討を祈ります!」
本当に限界が近いのか早口でまくしたて、バサバサと盛大に羽ばたく音を出して学園長は飛び去った。
目で追いかけるも、空には数々の星が浮かぶ時間。小さな黒の塊は夜空の黒にすぐに塗りつぶされた。
ゴーストカメラはいつシャッターチャンスがあっても良いように常にカバンに入れてあったため、ユウがこちらの世界に戻ってきたとき一緒にこちらに来ていた。むしろそれがあったから『あの世界の出来事は全部夢だった』と思いきれなかったのかもしれない。
学園長と話した数時間。
ほんの数時間でユウの世界はガラッと変わった。
高揚に頬が染まり心臓がうるさく脈打つ。
写真とペンを大切にカバンに入れ、家へと急いだ。
思わず口ずさむのはあの『歌』だ。
背中を押されるような追い風を受け、
空にはキラリと流れ星。
歌うような川のせせらぎ。
足取りはまるで『魔法がかかっているかのように』軽く感じる。
ユウの勇気に喝采を。
彼らの未来に祝福を。
飛び行く鴉はカァと鳴く。
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