お芋さん太郎
2022-06-01 22:29:34
10531文字
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監督生と再生の唄

※ツイステ
※性別不明監督生
※ディア・クロウリー

監督生と滅びの歌https://privatter.net/p/8909648の続編です。
pixivに公開していた作品です。

◆◆◆


監督生、いや、今はただの『ユウ』がアスファルトで舗装された道をとぼとぼと歩いていた。右手に見えるは一級河川の河川敷。広々と開けたそこは背丈の短い草の波がサワサワと風に揺れて音を出す。
空は夕暮れ。真っ赤に染まった空には飛び行く鴉が一羽二羽。飛べる鳥はどこまでも自由に見えて、自由に飛べないユウの胸にポツンと一滴の黒い染みを落とす。
ポケットに入れたスマホはずっと前からブルブルと震え続け、新しい世界の動きを告げていた。

ユウはつい1か月ほど前まで、ツイステッドワンダーランドと呼ばれる異世界に数か月の間飛ばされていた。その世界は魔法がものを言う世界、そんな世界の魔法士養成学校に魔法が使えないにも関わらず入学してしまい、様々なトラブルに巻き込まれた。
魔法が使えない、と馬鹿にされたこともあった。常識を知らない、と仲間外れにされることもあった。立場をだしに厄介ごとを押し付けられることも、命の危険にさらされたことすらある。だがその世界では大切な友達ができた。気なんて遣わずいつだって本音で話すことができた。楽しい瞬間があった。嬉しい出来事もあった。大切な場所だった。

やっとあの世界になじみ始めてきた、そう感じたその瞬間、いきなり元の世界に帰ってきてしまったのだ。

確かに故郷へ帰ることを切望してはいたが、ユウにとってこの帰省は青天の霹靂だった。
そもそもユウは簡単には帰ることができるとは思ってはいなかった。
学園長が帰り方を探すとは約束してくれていたが、ツイステッドワンダーランドでも有数の名門校と呼ばれるNRCの学園長にさえ未知と言われた異世界渡航。無数の蔵書を誇る学園図書館にすら一切の記録は無かった。そして魔法の奥深さと難しさ。ユウはほんの数ヶ月しか魔法の勉強はしていないが、こと『異世界』となるととんでもなく難しい理論と地道な検算が必要であろうことはそうそうに察しが着いていた。

友には帰りたいと幾度となく泣き言をぼやく一方で、就職するならマブたちのいる薔薇の王国かな、なんて将来設計まで何となく立てていた。
もちろん初めは困惑と絶望しかなかった。しかし、友人や先輩方と笑い合いふざけ合い先生方に見守られて過ごした数か月は確かにユウの心に温かいものを残し、ツイステッドワンダーランドはユウにとって第二の故郷のように感じられる場所になったのだ。

もしも帰り道が見つかったところで、こんないたいけな子供にまた世界ごと『手放せ』なんてそんな血も涙もないこと言うのか、行き来できる方法を探すか慰謝料をよこせと学園長に掛け合う気は満々だった。そしてどちらかの世界を捨てねばならなくなっても、アズールに依頼をして学園長から慰謝料をたっぷりふんだくり、マブやお世話になった人たちとモストロラウンジでかつてないほど財を尽くして美味しいものを食べまくるなりなんなりしよう、そう決めていた。

なのにそれらは何一つ達成されず、それどころかお世話になった人たちへの挨拶すらできずに帰ってきてしまった。

あの世界での最後の記憶は歌である。テストが明けて、みんなで歌をうたい、気が付いたら周りのみんなが倒れていた。それに慌てていたら空には眩いばかりに燃える火球。もう無理だと、死を覚悟して倒れたグリムを抱き上げ目を瞑った。そしてまた目を開けたら帰ってきていた。確かに抱いていたはずのグリムもおらず、周りにNRC生は誰もいない、ただ持っていたカバンだけを小脇に抱え、自分の記憶にしかなかったはずの景色がそこに広がっていた。

ユウは落ち込んだ。そしてなにより、みんなのことが心配だった。
倒れたみんなは、マブたちは、グリムは大丈夫なのだろうか。だがどんなに心配したところで、想ったところで、もう知る術などないのだ。

冷たい川風が頬を撫でるが火照った目元はさらに熱を増し、ジワリと視界をにじませる。溢れても次から次へと出てくる水はカリムのユニーク魔法を連想させる。だから、無理に止めようとは思わなかった。もう何も手放したくなかったのだ。

ポケットでスマホが震えるたびに、ユウの心の黒い染みは一滴また一滴と増えていく。