お芋さん太郎
2022-06-01 22:29:34
10531文字
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監督生と再生の唄

※ツイステ
※性別不明監督生
※ディア・クロウリー

監督生と滅びの歌https://privatter.net/p/8909648の続編です。
pixivに公開していた作品です。



◆◆◆



ユウはこちらに帰ってきてからとある『歌』をよく口ずさんでいた。
帰ってくる前に歌っていたあの『歌』だ。
みんなと最後に歌った、あの『歌』だ。
歌詞もメロディもあって無いようなもの。
あの世界では『歌』は自由の象徴だった。
ある日ユウが『歌』をうたっていると、仲の良い友人が軽い調子で尋ねた。

「最近よくその歌うよね。その日によってテンポも音程も微妙に違ってるけど、なんかちょっといい感じ。誰の曲?YouTubeにある?」

「え?YouTubeに無い?題名は?」

「ふーん、なんだ残念。また見つけたら教えてよ!フルで聞きたい!」

本当のことを言えないから少し焦ったが、YouTubeには無いし題名も知らない、どこで聞いたか思い出せないけどただ耳に残っているんだ!とごまかすことができて、ホッと胸をなでおろした。
友人は『歌』をたいそう気に入った様子で、ユウの様子を何も気にせずに思い思いに『歌』を口ずさんでいる。
ユウもさらにそれにアレンジしてかぶせ、スキップするように音を弾ませる。
この世界に帰ってきてから初めて『楽しい』と感じられた瞬間だった。

それからだ。

その友人の一言が忘れられない。

『なんかいい感じ』

自分もそう思う。

『YouTubeに無い?残念』

自分も残念だよ。

『フルで聞きたい!』

自分もフルで聞きたかった!みんなと一緒に歌いたかった!

ツイステッドワンダーランドのみんなに会いたい、寂しい、恋しい帰ってきてから今までそんな感情は見ないフリをしてきた。心の中にある小さな箱にそっと仕舞って、誰の目にも触れないところに、誰にも傷つけられないように大切に大切にしてきた。

だがその箱は開かれてしまった。
もう隠し通せない。

簡単に向き合えないほどに大きい剥き出しの感情が心の中で暴れまわる。

その苦しみから逃れるように、ユウは

曲をつくり、『歌』をうたった。



3週間だった。
3週間でユウはあの『歌』を元とした曲を書き上げ、『歌』をうたい、動画として形に残した。
あの世界のことを、彼らのことを忘れたくなかった。
だからその動画にはあの世界で出会った様々な要素を盛り込んだ。

例えば、足並みそろった可愛らしい曲調と時々潜む堂々たる音色はハーツラビュル。

例えば、心沸き立つ太鼓と荒々しくも流れるような孤高の笛の音はサバナクロー。

例えば、静やかなせせらぎと波の音、飲み込むように迫る影はオクタヴィネル。

例えば、賑やかで楽しいドラと表裏一体、背後にたたずむ小さい鈴の音スカラビア。

例えば、華麗な幻想を抱く旋律の奥底で太く力強くベースが支えるポムフィオーレ。

例えば、キリキリと甲高い高音がささやかなメロディを、その後ろでコロコロと移り変わる曲調はイグニハイド。

例えば、大自然を思わせる壮大なオーケストラを一糸乱れぬ手拍子が讃えるディアソムニア。

例えば、青やピンクの羽ばたきと着飾ったゾウの足音。

例えば、ピカピカ光る7色の宝石と鍋から立ち上る色とりどりの煙。

例えば、夕焼けの荒野と煌びやかな街角。

例えば、ほの暗い大樹の森と凪の海。

例えば、片田舎の田園と広大な砂漠。

あの世界で感じたものを全て詰め込んだ宝石箱のような曲。
本当は歌など、歌詞などなくていい。自由に歌えばそれでいい。
でもちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、一杯の紅茶に添えた一雫のレモンのようにささやかな言葉をのせて。

そしてその動画を「どうだ!これが世界だ!思い知れ!ふははははは!」と深夜の謎テンションで動画投稿サイトに投稿してしまった。



うっかりバズった。



世界中のありとあらゆる要素が詰まった曲。
コロコロ変わる世界観。
歌は自由。
世界中の誰からも受け入れられた。

誰かが『歌ってみた』らしい。
誰かが『弾いてみた』らしい。
誰かが『演奏してみた』らしい。
誰かが『踊ってみた』らしい。

通知が止まらない。

でもそれなのに彼らはいない。

ユウの本当に欲しいものは、もう手に入らないのだ。